AOKIホールディングス(8214) 主力ファッション事業の営業損失転落でも増配予想を維持する理由
本記事をお読みになる前に
本記事は筆者個人の見解であり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。記載内容は有価証券報告書等の公開情報にもとづく分析ですが、正確性・完全性を保証するものではなく、将来の株価や業績を約束するものでもありません。投資判断は必ずご自身で情報を確認し、責任をもって行ってください。本記事はあくまで参考情報としてご利用ください。
生成AI利用本記事は、決算短信・有価証券報告書などの一次情報をもとに、生成AIを用いて作成・編集しています。掲載する数値は一次情報との照合を行っていますが、誤りが含まれる可能性を排除できません。重要な数値は必ず出典元の原典でご確認ください。
株式会社AOKIホールディングス
2026/08/14 時点
株価
1,704円
時価総額
1,476.508億円
配当利回り
5.28%
年間90円
PER
14.3倍
PBR
1.02倍
ROE
7.1%
ROA
4.8%
純利益ベース
自己資本比率
67.9%
配当性向
75.8%
有利子負債
254億円
D/Eレシオ
0.18倍
有利子負債÷自己資本
※ 指標は記事執筆時点のスナップショットです。最新の数値はご自身で証券会社等の情報をご確認ください。
この記事の結論
- 2027年3月期第1四半期は、売上高が前年同期比1.6%減、営業利益が49.9%減、経常利益が54.6%減、親会社株主に帰属する四半期純利益が75.6%減という大幅な減益で着地した。主因は主力のファッション事業が6月の天候不順(気温低下)と既存店売上高の低調により営業損失(2億2百万円の赤字、前年同期は7億53百万円の黒字)に転落したことである。
- 一方、エンターテイメント事業(複合カフェ快活CLUB・カラオケのコート・ダジュール・フィットネスのFiT24)は客数増加により増収増益(セグメント利益16億8百万円、前年同期比3.9%増)となり、グループ利益を実質的に下支えした。アニヴェルセル・ブライダル事業は施行組数の減少と広告宣伝費の増加により営業損失が拡大した。
- 決算短信は「営業利益は通期の進捗に対し下回って推移」と自認しながらも、通期業績予想(売上高2,000億円・営業利益180億円・経常利益175億円・純利益100億円)を据え置いた。同時に、2027年3月期の配当予想は前期実績80円から90円への増配とした。配当性向は2023年3月期30.1%から2026年3月期71.1%、2027年3月期予想75.8%へと急上昇しており、増配ペースが純利益の伸びを上回っている。
- 財務面では自己資本比率67.9%(2026年6月末)と厚く、有利子負債25,396百万円・D/Eレシオ0.18倍という低レバレッジ構造にある。当サイトのスクリーニング基準との関係では、PBR1.02倍は基準(1倍以下)をわずかに上回り、予想ROE7.14%・予想ROA4.85%(純利益ベース)も基準(ROE8%以上・ROA5%以上)にわずかに届いていない。配当利回り予想5.28%・PER予想14.34倍は基準の範囲内である。
目次11項目
1. 概要
AOKIホールディングス(8214)は、2026年8月14日時点で株価1,704円・予想PER14.34倍・PBR1.02倍という水準にあります。予想配当利回りは、会社が開示した2027年3月期の年間配当予想90.00円(第2四半期末30円・期末60円)を基準に計算すると5.28%です。
2027年3月期第1四半期(2026年4月〜6月)の連結業績は、売上高43,045百万円(前年同期比1.6%減)、営業利益1,180百万円(同49.9%減)、経常利益1,041百万円(同54.6%減)、親会社株主に帰属する四半期純利益318百万円(同75.6%減)と、大幅な減益で着地しました。祖業であるファッション事業(AOKI・ORIHICA等)が6月の天候不順による気温低下等の影響で営業損失に転落した一方、複合カフェ・カラオケ・フィットネスからなるエンターテイメント事業は増収増益となり、セグメント間で明暗が分かれています。それでも会社は通期業績予想を据え置き、前期実績80円から90円への増配予想を維持しました。この背景を§4で詳しく整理します。
なお、当サイトのスクリーニング基準(配当利回り3%以上・PBR1倍以下・PER10〜15倍・ROE8%以上・ROA5%以上)との関係では、配当利回り予想5.28%・予想PER14.34倍はおおむね基準の範囲内にあります。一方でPBR1.02倍は基準(1倍以下)をわずかに上回っており、2010年以降の過去レンジ(0.27〜1.32倍)の中でも上位寄りの水準です。予想ROE7.14%・予想ROA4.85%(純利益ベース)も、基準(ROE8%以上・ROA5%以上)にわずかに届いていません。高配当・複合企業という魅力と、収益性・割安度の指標がぎりぎり基準に届かないという実情の両方を、まず押さえておく必要があります。
2. 会社概要とビジネスモデル
AOKIホールディングスは、紳士服「AOKI」を祖業とする複合企業です。現在は4つのセグメントで構成されています。ファッション事業(AOKI・ORIHICA等のスーツ・ビジネスウェア、高機能レディースウェアのMeWORK)、エンターテイメント事業(複合カフェ「快活CLUB」、カラオケ「コート・ダジュール」、24時間フィットネスジム「FiT24」)、アニヴェルセル・ブライダル事業(結婚式場)、そして不動産賃貸事業(グループ内店舗の遊休スペースの賃貸)です。
売上構成比では、ファッション事業が約5割、エンターテイメント事業が4割強を占め、この2つが業績の中心です。近年はエンターテイメント事業、特に複合カフェの快活CLUBの増収増益がグループ利益を下支えする構図が定着しつつある一方、ファッション事業は既存店売上高の増減と天候要因に業績が左右されやすい体質を持っています。
強みと弱みの整理
強み
事業ポートフォリオの分散
アパレル・娯楽(複合カフェ・カラオケ・フィットネス)・冠婚葬祭・不動産賃貸という、景気変動や季節要因への反応が異なる4事業を組み合わせています。2027年3月期第1四半期は、ファッション事業が営業損失に転落する一方でエンターテイメント事業と不動産賃貸事業が増益となり、単一事業だけでは吸収できない変動をグループ全体で緩和する構造が実際に機能しました。
エンターテイメント事業の底堅い増収増益
複合カフェ・カラオケ・フィットネスからなるエンターテイメント事業は、当第1四半期に売上高18,596百万円(前年同期比2.0%増)、セグメント利益1,608百万円(同3.9%増)と増収増益でした。決算短信は「客数が増加し既存店が堅調に推移した」と説明しており、主力のファッション事業が不振な局面でグループ利益を支える役割を果たしています。
厚い自己資本と低い財務レバレッジ
自己資本比率は2026年6月末で67.9%(2026年3月末64.3%からさらに上昇)、有利子負債は25,396百万円、自己資本(140,006百万円)に対するD/Eレシオは0.18倍です。資産の7割近くを自己資本でまかなっており、金利上昇や外部環境の悪化に対する財務面の耐性は高いといえます。
弱み
主力のファッション事業が天候要因に弱い
スーツ・ビジネスウェアを中心とするファッション事業は季節商品の比率が高く、2027年3月期第1四半期は「5月まではカジュアル衣料の伸長等により既存店は堅調に推移したものの、6月の天候不順による気温低下等の影響を受け」売上高が前年同期比4.2%減、営業損失2億2百万円(前年同期は営業利益7億53百万円)に転落しました。売上構成比が最も大きいセグメントが、個社の努力だけでは制御できない天候要因で崩れる脆さを持っています。
ROE・ROAが当サイトのスクリーニング基準に届いていない
予想ROEは7.14%、予想ROA(純利益÷総資産ベース)は4.85%で、いずれも当サイトのスクリーニング基準(ROE8%以上・ROA5%以上)をわずかに下回ります。厚い自己資本は財務の安全性を高める一方で、資本効率の面では見劣りする一因になっています。
アニヴェルセル・ブライダル事業の損失拡大
当第1四半期の売上高は2,512百万円(前年同期比7.2%減)、営業損失は3億1百万円(前年同期は損失57百万円)で、損失幅が拡大しました。決算短信は「前期のやや低調な受注に伴う施行組数の減少及び受注強化に向けた広告宣伝費等コストが増加」を要因に挙げており、少子化・婚姻数の減少という構造的な逆風のなかで、コストをかけて受注を強化する必要に迫られている状況がうかがえます。
3. 業績の推移
数値で確認する
| 決算期 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 純利益 | 自己資本比率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2023/03 | 176,170 | 10,235 | 8,430 | 5,630 | — |
| 2024/03 | 187,716 | 13,860 | 13,235 | 7,570 | — |
| 2025/03 | 192,688 | 15,646 | 14,782 | 9,570 | — |
| 2026/03 | 194,532 | 16,947 | 16,370 | 9,460 | 64.3% |
| 2027/03会社予想 | 200,000 | 18,000 | 17,500 | 10,000 | — |
読み取れることは3つあります。
1つ目、売上高・各段階利益とも2023年3月期から2026年3月期にかけて増収増益基調が続いてきた。 売上高は2023年3月期176,170百万円から2024年3月期187,716百万円(前期比6.6%増)、2025年3月期192,688百万円(同2.6%増)、2026年3月期194,532百万円(同1.0%増)と、伸び率は鈍化しつつも4期連続の増収でした。営業利益も2023年3月期10,235百万円から2026年3月期16,947百万円まで、この間一貫して増加しています。
2つ目、経常利益・純利益の伸びは営業利益より振れが大きい。 経常利益は2024年3月期に前期比57.0%増(8,430百万円→13,235百万円)と大きく伸びた後、2025年3月期11.7%増、2026年3月期10.7%増と伸び率が落ち着いています。純利益は2026年3月期に前期比1.1%減(9,570百万円→9,460百万円)となっており、営業利益・経常利益が増加した年に純利益だけが減少しています。特別損益や税負担の年ごとの変動が影響しているとみられますが、その詳細な内訳を本資料から特定することはできませんでした。
3つ目、2027年3月期の会社予想は増収増益を見込むが、第1四半期の実績はこれに対して大きく下振れている。 通期予想は売上高200,000百万円(前期比2.8%増)・営業利益18,000百万円(同6.2%増)・経常利益17,500百万円(同6.9%増)・純利益10,000百万円(同5.7%増)ですが、第1四半期累計の営業利益は1,180百万円にとどまり、通期予想に対する進捗はかなり低い水準です。この点は§4で詳しく扱います。
4. ファッション事業の営業損失転落と、据え置かれた通期・増配予想の関係
2027年3月期第1四半期で最も重要な論点は、主力のファッション事業が営業損失に転落するという明確な逆風のなかで、会社が通期業績予想と増配予想の両方を据え置いた理由です。
まず当第1四半期のセグメント別の明暗を数字で確認します。当第1四半期のファッション事業は売上高21,332百万円(前年同期比4.2%減)、セグメント利益は202百万円の損失(前年同期は753百万円の利益)でした。決算短信は「5月まではカジュアル衣料の伸長等により既存店は堅調に推移したものの、6月の天候不順による気温低下等の影響を受け」と説明しており、通年で不振だったわけではなく、6月単月の天候要因が響いた形です。一方、当第1四半期のエンターテイメント事業は売上高18,596百万円(前年同期比2.0%増)、セグメント利益1,608百万円(同3.9%増)と増収増益、当第1四半期の不動産賃貸事業も売上高1,869百万円(同5.6%増)、セグメント利益434百万円(同17.0%増)と好調でした。当第1四半期のアニヴェルセル・ブライダル事業は売上高2,512百万円(同7.2%減)、セグメント利益は301百万円の損失(前年同期は57百万円の損失)で、損失が拡大しています。
4セグメント合計の営業利益(セグメント利益)は1,538百万円でしたが、報告セグメントに配分されない全社費用等の調整額(△360百万円)を差し引いた連結営業利益は1,180百万円です。さらに経常利益1,041百万円から、特別損失として減損損失460百万円(前年同期178百万円。内訳はファッション事業23百万円、エンターテイメント事業437百万円で、いずれも店舗閉鎖決定に伴うもの)を控除した結果、税金等調整前四半期純利益は591百万円まで縮み、最終的な親会社株主に帰属する四半期純利益は318百万円となりました。
決算短信は自ら「当第1四半期連結累計期間の業績について、コストが上昇傾向にあるなか各事業において経費削減に努めましたが、ファッション事業で既存店売上高が低調に推移したこと等により売上高が計画をやや下回った結果、営業利益は通期の進捗に対し下回って推移いたしました」と述べています。それにもかかわらず、「中東情勢緊迫化の長期化懸念や継続する物価上昇に伴う消費者の節約志向のさらなる高まりなど先行きは不透明」としながらも、2026年5月12日に開示した通期業績予想を変更していません。
同時に注目すべきは、この減益決算のさなかに配当予想を前期実績80円から90円へ、10円の増配とした点です。配当性向は2023年3月期30.1%から2024年3月期55.5%、2025年3月期65.9%、2026年3月期71.1%へと急上昇しており、2027年3月期予想の配当性向は90円÷118.82円≈75.8%とさらに切り上がる計算になります。増配のペースが純利益の伸びを上回っている状態です。この据え置きが妥当かどうかを断定はできませんが、背景として考えられるのは、(1)ファッション事業の不振が6月単月の天候要因という比較的一時的な性質のものであり通期では挽回可能とみている、(2)自己資本比率67.9%という財務の厚みが増配を続ける余力の裏付けになっている、という2点です。ただしこれらはいずれも会社の説明や財務データから推測できる範囲にとどまり、確定的な根拠として短信に明記されているわけではありません。次の答え合わせは2026年11月上旬に予定される第2四半期(中間)決算で、ファッション事業が天候要因から回復するか、通期予想・配当予想の修正有無を確認することになります。
5. 配当の推移
会社が開示している2027年3月期の配当予想は、第2四半期末30.00円・期末60.00円の合計90.00円です。株価1,704円に対する予想配当利回りは5.28%になります。
| 決算期 | 期初予想 | 年間配当 | 期初比 | 配当性向 |
|---|---|---|---|---|
| 2023/03 | 15円 | 20円 | +5円 | 30.1% |
| 2024/03 | 27円 | 50円 | +23円 | 55.5% |
| 2025/03 | 55円 | 75円 | +20円 | 65.9% |
| 2026/03 | 80円 | 80円 | 0円 | 71.1% |
| 2027/03会社予想 | 90円 | 90円 | — | 75.8% |
- 2026/03:期中修正は無く、期初予想どおり着地。2023〜2025年3月期は3期連続で期初予想から大幅増額修正していた。
- 2027/03:第2四半期末30.00円・期末60.00円の合計。前期比+10円の増配予想。
この会社の配当には、明確な癖があります。2023年3月期は期初予想15円から実績20円へ、2024年3月期は期初予想27円から実績50円へ、2025年3月期は期初予想55円から実績75円へと、3期連続で期初に保守的な予想を出し、期中に大幅増額修正するパターンが続きました。ところが2026年3月期は期初予想80円のまま期中修正が無く、実績もそのとおり80円で着地しています。そして今回開示された2027年3月期の期初予想は90円で、前期実績比+10円の増配です。
配当性向は2023年3月期30.1%から2026年3月期71.1%へと大きく上昇しており、2027年3月期予想の配当性向は75.8%とさらに切り上がります。純利益の伸び(2023年3月期5,630百万円→2027年3月期予想10,000百万円、この間の年平均成長率は約15%)に対して、配当の伸び(同期間で20円→90円、年平均成長率は約46%)の方がはるかに速いペースで増えています。増配自体は株主還元として評価できる一方、配当性向が7割を超える水準まで来ており、今後も同じペースで増配を続けられるかどうかは、通期業績予想(進捗が計画を下回っている)の達成状況にかかっています。
6. 会社の現状と直近の動き
貸借対照表面では、2026年6月末の総資産は206,056百万円(2026年3月末225,455百万円から19,399百万円減)、純資産は140,310百万円(同145,208百万円から4,897百万円減)でした。決算短信によれば、資産の減少は主に現金及び預金(27,008百万円→15,824百万円)と売掛金(14,479百万円→8,109百万円)の季節的な減少、負債の減少は買掛金の季節的な減少と未払法人税等の支払い、純資産の減少は利益剰余金が親会社株主に帰属する四半期純利益と配当金の支払いの結果4,735百万円減少したことによるものです。自己資本は140,006百万円(同144,902百万円)、自己資本比率は64.3%から67.9%へ3.6ポイント上昇しました。
有利子負債にも触れておきます。2026年6月末の有利子負債(短期借入金1,000百万円、1年内返済予定の長期借入金8,385百万円、長期借入金16,011百万円の合計)は25,396百万円で、2026年3月末の29,965百万円(短期借入金1,000百万円、1年内返済予定の長期借入金10,005百万円、長期借入金18,960百万円の合計)から4,569百万円(15.2%)減少しました。決算短信は負債の減少要因として「固定負債は、長期借入金が29億48百万円減少したこと等により」と明記しており、スケジュールに沿った借入金の返済が進んだことが分かります。新規の大型投資やM&Aによる調達増加ではなく、むしろ返済が進んで有利子負債が減っている局面です。自己資本(140,006百万円)に対するD/Eレシオは0.18倍(2026年3月末は0.21倍)で、前回取り上げたオリエントコーポレーション(8585、D/Eレシオ8.89倍)のような信販業とは対照的に、外部調達への依存度が低い財務構造です。
損益計算書の内訳は§4で述べたとおりです。営業外費用では支払利息が前年同期63百万円から80百万円へ増加した一方、営業外収益の受取利息は28百万円から19百万円へ減少しており、経常利益の押し下げ要因の一部になっています。特別損失の減損損失460百万円(ファッション事業23百万円・エンターテイメント事業437百万円)は、いずれも店舗閉鎖決定に伴うもので、前年同期(178百万円)から大きく増加しました。
店舗数の面では、ファッション事業はORIHICAで3店舗新規出店、AOKIで1店舗閉鎖の結果613店舗(前期末611店舗)、エンターテイメント事業は快活CLUBで3店舗・FiT24で2店舗新規出店、快活CLUB・コート・ダジュールでそれぞれ2店舗閉鎖の結果775店舗(前期末773店舗)となっています。
7. 業界とセクターの状況
AOKIホールディングスが属する複合小売・個人向けサービスのセクターには、個社の努力だけでは変えられない構造がいくつかあります。
第一に、事業ポートフォリオの分散がリスクを完全には消せないという点です。性格の異なる複数の店舗型事業を組み合わせることで単一事業の景気変動リスクを緩和できますが、各セグメントはそれぞれ異なる構造的な逆風にさらされています。ファッション事業は天候要因、アニヴェルセル・ブライダル事業は少子化・婚姻数の減少、エンターテイメント事業は余暇消費の多様化という具合に、逆風の種類が事業ごとに異なるため、分散はしていても「どのセグメントも同時に不振」というリスクはゼロにはなりません。今回のように主力のファッション事業だけが崩れる局面では、他のセグメントがどこまで下支えできるかが業績を左右します。
第二に、郊外ロードサイド立地の店舗網が多く、出退店のペースと既存店売上高の増減が損益に直結する構造です。AOKIホールディングスの各セグメントも、新規出店による純増効果と既存店の売上動向の両方で業績が決まります。当第1四半期はファッション事業・エンターテイメント事業ともに店舗数は純増でしたが、ファッション事業は既存店売上高の低調が響いて減収となっており、出店による拡大と既存店の実力が必ずしも一致しない点が表れています。
第三に、季節性への感応度です。ファッション事業のスーツ・ビジネスウェアは夏・冬の気温に左右される季節商品の比率が高く、6月の気温低下という単月の天候要因だけでセグメント全体が営業損失に転落する脆さを持っています。これは同社固有の弱点というより、季節商品を主力とする小売業全般に共通する構造的な制約です。
8. 今後のスケジュール
2027年3月期 第2四半期(中間) 決算発表
過去の発表時期からの推定。ファッション事業が天候要因から回復し既存店売上高が持ち直すか、通期予想の修正有無が焦点。
2027年3月期 第3四半期 決算発表
過去の発表時期からの推定。
2027年3月期 通期 決算発表
過去の発表時期からの推定。通期業績予想(売上高2,000億円・営業利益180億円・配当90円)の着地を確認する回。
2028年3月期 第1四半期 決算発表
過去の発表時期からの推定。
第2四半期以降の発表日は、過去の傾向からの推定です。確定日は必ず同社のIRサイトで確認してください。
9. 想定されるカタリスト
6月の気温低下による既存店売上高の低調が一過性のものか、7月以降も続いているかが焦点。中間決算での通期予想修正の有無も併せて確認できる。
ファッション事業は季節商品の比率が高く、猛暑・冷夏・暖冬など天候の振れが既存店売上高に直接響きやすい。
2027年3月期第1四半期はエンターテイメント事業が客数増加により増収増益となった。この基調が続けば、ファッション事業の不振を補う下支えとして機能し続ける可能性がある。
進捗が計画を下回るなかで据え置かれた通期予想と増配予想が、最終的にどう着地するかを確認する回。
10. 想定されるリスク
強気材料と同じ重さで、リスク要因を整理します。
ファッション事業の不振が長期化するリスク。 6月の天候要因による売上減・営業損失転落が一過性のものであれば通期での挽回余地がありますが、消費者の節約志向の強まりが続けば、天候が回復しても既存店売上高の戻りが鈍い可能性があります。ファッション事業は売上構成比が最も大きいセグメントであり、この不振が長引けば通期業績予想の達成そのものが揺らぎます。
進捗の低さと通期予想据え置きの不確実性。 決算短信自身が「営業利益は通期の進捗に対し下回って推移」と認めており、それでも通期予想を据え置いた判断が、中間決算までに正当化されるかどうかは未確定です。下方修正となれば、増配予想の前提も揺らぎます。
配当性向の急上昇による増配余地の縮小。 配当性向は2023年3月期30.1%から2027年3月期予想75.8%へと急上昇しており、増配のペースが純利益の伸びを上回っています。今後も同じペースでの増配を続けられる保証はなく、利益成長が伴わなければ配当性向はさらに切り上がることになります。
アニヴェルセル・ブライダル事業の損失拡大と収益性の指標が基準に届いていない点。 ブライダル事業は施行組数の減少と広告宣伝費の増加で営業損失が拡大しました。加えて、予想ROE7.14%・予想ROA4.85%(純利益ベース)は当サイトのスクリーニング基準(ROE8%以上・ROA5%以上)にわずかに届いておらず、厚い自己資本の裏返しとして資本効率が見劣りする面があります。
11. まとめ:どう判断材料にするか
2027年3月期第1四半期は、主力のファッション事業が天候要因で営業損失に転落し、営業利益が前年同期比49.9%減、純利益が75.6%減という大幅な減益で着地しました。エンターテイメント事業・不動産賃貸事業は増収増益でこれを一部相殺していますが、会社自身も「通期の進捗に対し下回って推移」と認めています。それでも通期業績予想は据え置かれ、配当予想は前期実績80円から90円への増配とされました。
判断が分かれるのは、この据え置きと増配予想を、6月単月の天候要因という一過性の逆風からの挽回を見込んだ判断と見るか、それとも配当性向が7割を超える水準まで来た増配ペースの持続可能性に無理が生じ始めている予兆と見るかという1点です。配当利回り5.28%・自己資本比率67.9%という財務の厚みは魅力的に映る一方、PBR1.02倍は当サイトの基準(1倍以下)をわずかに上回り、予想ROE7.14%・予想ROA4.85%という収益性の指標も基準にわずかに届いていません。次の確認ポイントは2026年11月の中間決算で、ファッション事業が天候要因から回復するか、通期予想・配当予想の修正有無が焦点になります。
この記事の見立てが外れたと判断する条件
以下のいずれかが起きた場合、本記事の整理は前提から崩れます。買うかどうかを判断する際は、 強気材料と同じだけこちらも見てください。
- 2026年11月の中間決算で、ファッション事業の既存店売上高・セグメント利益が引き続きマイナス圏(営業損失)にとどまり、それでも会社が通期業績予想(営業利益180億円)を据え置いた場合、または進捗の乖離を理由に下方修正した場合。
- 2027年3月期の配当予想(第2四半期末30円・期末60円、合計90円)が減額修正された場合。過去に期中で増額修正した実績はあるが、今回は減益決算下での増配予想であり、逆方向の修正が起きれば「保守的に出して増額する」という過去の癖が崩れたことを意味する。
- 配当性向が2027年3月期予想の75.8%からさらに上昇し(目安として80%超)、かつ営業利益・純利益の回復が伴わない場合。増配ペースが利益の伸びを上回る状態が続いていることを意味する。
- 自己資本比率が2026年6月末の67.9%から明確に低下(目安として60%を下回る水準)し、有利子負債・D/Eレシオ(現在25,396百万円・0.18倍)が大きく増加した場合。大型投資やM&Aなどで低レバレッジ構造が転換したことを示唆する。
- 特別損失としての減損損失(当第1四半期460百万円、前年同期178百万円)が今後の四半期でも同水準以上で継続的に計上され、店舗閉鎖が構造的に増え続けている場合。
参考文献・引用元
- 01株式会社AOKIホールディングス「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」
2026年8月7日開示。連結経営成績(売上高・営業利益・経常利益・親会社株主に帰属する四半期純利益・EPS・包括利益)、連結財政状態(総資産・純資産・自己資本比率)、配当の状況、通期業績予想、経営成績の概況(セグメント別の定性的情報・財政状態の概況)、四半期連結貸借対照表(有利子負債の各項目・利益剰余金の増減)、四半期連結損益計算書(営業外損益・特別損益・減損損失の内訳)、セグメント情報の注記(前年同期・当期のセグメント別売上高・利益、減損損失の内訳)を参照。 / 2026/08/07 開示
- 02IR BANK「AOKIホールディングス(8214) 会社業績・財務状況」
二次情報。2023年3月期〜2026年3月期の売上高・営業利益・経常利益・純利益の集計値、PBRの2010年以降のレンジ(0.27〜1.32倍)、株価・時価総額・PER・PBR・ROE・ROA・大株主構成のスナップショットを参照した。ROAは純利益÷総資産の定義で、当サイトのスクリーニングツールが使う経常利益ベースの定義とは異なる。 / 2026/08/14 開示
- 03IR BANK「AOKIホールディングス(8214) 配当金の推移」
二次情報。2023年3月期〜2026年3月期の期初予想・期中修正・実績配当と配当性向の推移を参照。2023〜2025年3月期は3期連続で期初予想から大幅増額修正された一方、2026年3月期は期中修正が無く期初予想どおり着地している。