損益計算書の読み方 — 売上高から純利益まで
一言でいうと
損益計算書(P/L)は、一定期間(通常は1年)にどれだけ稼いだかを示す表です。一番上の売上高から始まり、性質の違う費用を段階的に引いていって、最後に当期純利益にたどり着きます。
途中に利益が5段階で並ぶのが特徴です。それぞれ「どこまでの費用を引いた後か」が違うので、同じ「利益」でも意味が異なります。上から順に、本業の儲け、財務まで含めた通常の実力、一過性の損益まで含めた最終結果、と守備範囲が広がっていきます。
どの段階の利益がどれだけ伸びたかを比べることが、この表を読む要点です。 段階ごとの伸び方が食い違う決算には、必ず理由があります。
計算方法
利益は上から次の順に計算されます。階段状に費用が引かれていくイメージです。
売上高
− 売上原価 → 売上総利益(粗利)
− 販売費及び一般管理費 → 営業利益 … 本業の儲け
+ 営業外収益 − 営業外費用 → 経常利益 … 財務まで含めた通常の実力
+ 特別利益 − 特別損失 → 税引前当期純利益
− 法人税等 → 当期純利益 … 最終的に株主に残る利益
愛知時計電機(7723)の2026年3月期を当てはめると、次のようになります。
| 段階 | 金額 | 前期比 |
|---|---|---|
| 売上高 | 591億16百万円 | +8.9% |
| 営業利益 | 47億10百万円 | +19.5% |
| 経常利益 | 52億08百万円 | +9.3% |
| 当期純利益 | 48億01百万円 | +35.9% |
それぞれの段階で伸び率が違う点に注目してください。この会社では最終利益がほかの段階を大きく上回って伸びています。理由は「よくある誤解」で扱います。
どう読むか
4つの利益の意味
| 利益 | 引いた後の費用 | 何を表すか |
|---|---|---|
| 売上総利益 | 売上原価 | 商品・サービスそのものの利幅 |
| 営業利益 | +販管費 | 本業で稼ぐ力。事業の実力に最も近い |
| 経常利益 | +営業外損益 | 財務コスト(支払利息など)を含めた通常の実力 |
| 当期純利益 | +特別損益・税金 | 一過性の要因も含めた最終結果 |
事業の実力を見るなら営業利益が中心です。営業外損益には受取利息・支払利息・為替差損益などが入り、特別損益には固定資産の売却益や減損損失といった、その期だけの一時的な項目が入ります。下の段階にいくほど、実力とは無関係のノイズが混ざりやすくなります。
利益率で他社と比べる
金額の大小は会社の規模に依存するので、比較には利益率(各利益 ÷ 売上高)を使います。営業利益率が高い会社ほど、価格競争に巻き込まれず利幅を確保できているといえます。当サイトが扱う銘柄では、愛知時計電機の営業利益率が8.0%、未来工業が14.7%で、差別化製品を持つ後者のほうが高く出ています。
よくある誤解
1. 純利益の伸びが一番大きい=好決算、とは限らない
冒頭の愛知時計電機の表では、当期純利益が+35.9%と、営業利益+19.5%・経常利益+9.3%を大きく上回っています。一見すると絶好調ですが、この伸びの差こそ注意すべき点です。
通常、経常利益から純利益へは法人税等(実効税率で約30%)が引かれるため、純利益は経常利益より2〜3割小さくなります。実際、同社の2025年3月期は経常47億64百万円に対して純利益35億33百万円で、目減り率は約26%でした。ところが2026年3月期は経常52億08百万円に対し純利益48億01百万円で、目減りはわずか8%です。
考えられるのは、特別利益の計上(政策保有株式や不動産の売却益など)か、税負担の一時的な軽減です。同期の包括利益が72億28百万円と純利益を大きく上回っていることからも、保有有価証券の評価に大きな動きがあったことがうかがえます。
これが重要なのは、PER(株価収益率)が純利益をもとに計算されるからです。一過性の利益で膨らんだ純利益をそのまま使うと、株価は割安に見えます。最終利益だけが不自然に伸びた決算では、一つ上の経常利益の伸びを実力の目安とするほうが安全です。
2. 営業利益と経常利益で増減の方向が逆になることがある
営業利益は増益なのに経常利益は減益、という決算があります。両者の差は営業外損益なので、多くの場合、原因は財務コストです。借入が増えれば支払利息が増え、営業利益より下の段階で利益が削られます。
ツムラ(4540)の2027年3月期の会社予想がこの形です。
| 項目 | 会社予想 | 前期比 |
|---|---|---|
| 営業利益 | 375億円 | +6.5% |
| 経常利益 | 355億円 | −11.3% |
本業は増益予想なのに経常利益は減益予想です。設備投資のための借入が膨らみ、支払利息が営業外費用としてのしかかるためで、貸借対照表の変化が損益計算書に波及した例といえます。
3. 増収なら増益、ではない
売上高が伸びても、原価や販管費の伸びがそれを上回れば減益になります。ツムラの2026年3月期は売上高1,926億円(+6.4%)と過去最高を更新しながら、営業利益は352億円(−12.2%)と減益でした。原料生薬の調達コスト上昇で売上原価率が48.7%(2022年3月期)から52.5%へ上がったためです。売価を自社で決められない事業では、増収と増益が一致しない局面が定期的に訪れます。
4. 「利益」とだけ書かれた数字は段階を確認する
ニュースや要約で「利益が◯%増」とだけ書かれている場合、それが営業利益なのか純利益なのかで意味が変わります。前述のとおり、同じ決算でも段階によって伸び率は+9.3%にも+35.9%にもなります。数字を引用するときは、必ずどの段階の利益かをセットで確認してください。
当サイトでの扱い
当サイトの銘柄分析記事では、業績推移の表に売上高・営業利益・経常利益・当期純利益の4段階を並べ、段階ごとの伸び率の食い違いを読み取れるようにしています。
- 愛知時計電機(7723) 2026年3月期 — 純利益+35.9%に対し経常利益+9.3%。増益の大半が本業以外から出ている「利益の質」を扱った記事
- ツムラ(4540) 2026年3月期 — 増収減益、および営業利益と経常利益で予想の方向が逆になる例
- 未来工業(7931) 2026年3月期 — 営業利益率14.7%という高い利幅を、差別化戦略の裏付けとして読む例
段階利益のうち純利益がPERの分母になる点は PER(株価収益率)とは を、経常利益がROAの分子に使われる点は ROEとROA を参照してください。損益計算書と対になる貸借対照表は 貸借対照表の読み方、利益と現金のズレは 利益とキャッシュはなぜズレるのか で扱います。