キャッシュ・フロー計算書の読み方 — 現金の増減を3つに分ける
一言でいうと
キャッシュ・フロー計算書(C/F)は、1年間で現金がいくら増えたか・減ったかと、その理由を示す表です。損益計算書の「利益」は帳簿上の計算値で、実際の現金の動きとはズレます(詳しくは 利益とキャッシュはなぜズレるのか)。そのズレを埋め、現金の実態を見せるのがこの表です。
現金の出入りを、性質の違う3つの区分に分けるのが特徴です。
- 営業キャッシュ・フロー — 本業で稼いだ現金。ここがプラスであることが大前提
- 投資キャッシュ・フロー — 設備投資やM&Aに使った現金。成長企業では通常マイナス
- 財務キャッシュ・フロー — 借入・返済・配当・自社株買いによる現金の増減
3区分の符号(プラスかマイナスか)の組み合わせで、会社が今どういう局面にあるかが読めます。
計算方法
3区分を足し合わせると、その期の現金の純増減になります。
営業キャッシュ・フロー(本業で稼いだ現金)
+ 投資キャッシュ・フロー(設備投資などに使った現金:通常マイナス)
─────────────────────
= フリーキャッシュフロー(会社が自由に使える現金)
+ 財務キャッシュ・フロー(借入・配当などによる増減)
─────────────────────
= 現金の純増減
途中に出てくるフリーキャッシュフロー(FCF)は、営業キャッシュ・フローから設備投資などの投資を差し引いた残りで、会社が借入返済や配当に自由に回せる現金を表します。実務では簡便に「営業キャッシュ・フロー − 設備投資」で見ることも多いです。
ツムラ(4540)の3期を並べると、投資フェーズの動きがはっきり出ます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|
| 営業キャッシュ・フロー | 56億円 | 338億円 | 247億円 |
| 設備投資 | −184億円 | −287億円 | −353億円 |
| フリーキャッシュフロー | −137億円 | +89億円 | −256億円 |
| 財務キャッシュ・フロー | −44億円 | −199億円 | +326億円 |
出典:IR BANK集計(有価証券報告書・決算短信ベース)。金額は億円単位の概数。
どう読むか
3区分の符号を組み合わせて局面を読む
| 営業CF | 投資CF | 財務CF | 典型的な局面 |
|---|---|---|---|
| + | − | − | 健全な成熟企業(稼いだ範囲で投資し、借入返済・配当もできている) |
| + | − | + | 積極投資期(稼ぎを超えて投資し、不足を借入で補っている) |
| + | + | − | 事業縮小・資産売却で現金を作り、返済に充てている |
| − | … | … | 本業で現金を稼げていない。最も注意すべき状態 |
営業キャッシュ・フローのプラスは絶対条件です。ここがマイナスの会社は、利益が出ていても本業で現金を生み出せておらず、借入や資産売却でしのいでいる可能性があります。
よくある誤解
1. フリーキャッシュフローがマイナス=危ない、とは限らない
FCFがマイナスなのは、営業キャッシュ・フローを超える金額を投資に回したという意味です。これが将来の成長のための前向きな投資なら、必ずしも悪くありません。
ツムラの2026年3月期はFCFが−256億円でした。原因は営業キャッシュ・フロー247億円に対して設備投資が353億円と大きかったことで、生薬の調達・加工能力を増強する成長投資です。問われるのは「FCFがマイナスか」ではなく「その投資が数年後に利益として返ってくるか」です。返ってくるなら現在の株価は割安であり、返ってこなければ財務悪化だけが残ります。
一方、設備投資が横ばいなのに営業キャッシュ・フローが落ちてFCFがマイナスになったのなら、それは本業の変調を疑うべきです。同じFCFマイナスでも、原因が投資の増加か本業の悪化かで意味は正反対です。
2. 財務キャッシュ・フローがプラスは、良いことではないことが多い
財務キャッシュ・フローは、借入をすれば増え(プラス)、返済や配当・自社株買いをすれば減り(マイナス)ます。稼げている成熟企業は返済と株主還元で通常マイナスになるので、財務CFのプラスは「外部からお金を入れて穴埋めした」サインであることが多いのです。
ツムラの2026年3月期は財務キャッシュ・フローが+326億円でした。これはFCFの−256億円の不足を借入で埋めた結果であり、3区分をつなげて読むと「稼ぎを超えて投資し、足りない分を借りた」という一連の流れが見えます。財務CFの符号だけで判断せず、営業・投資とセットで読む必要があります。
3. 営業キャッシュ・フローは純利益と一致しない
損益計算書の純利益と営業キャッシュ・フローはしばしば大きく食い違います。愛知時計電機(7723)の2026年3月期は、純利益48億01百万円に対して営業キャッシュ・フローは28億20百万円で、6割程度にとどまりました。
利益は出ているのに現金がついてきていない状態です。原因は運転資本の増加や、現金を伴わない利益(有価証券の評価益など)で、その仕組みは 利益とキャッシュはなぜズレるのか で扱います。利益とキャッシュがズレるときは、キャッシュのほうが実態に近いことが多く、増配の持続性などを判断する際は営業キャッシュ・フローを重視します。
4. 減価償却費の大きい会社は営業CFが利益より大きくなる
逆に、営業キャッシュ・フローが純利益を上回る会社もあります。減価償却費は現金の出ていかない費用なので、利益からは引かれますが現金は減りません。設備の重い装置産業では、この足し戻しが大きく、営業キャッシュ・フローが利益をかなり上回ります。利益が小さくても現金は潤沢、という会社を見落とさないために、両方を並べて見ます。
当サイトでの扱い
当サイトの銘柄分析記事では、営業キャッシュ・フロー・設備投資・フリーキャッシュフローを並べ、利益とは別に「現金がどう動いたか」を確認しています。増配の原資が今の稼ぎなのか、バランスシートの余力なのかは、この表でしか分かりません。
- ツムラ(4540) 2026年3月期 — 設備投資353億円でFCF−256億円、不足を借入で賄い財務CF+326億円。3区分をつなげて投資フェーズを読んだ記事
- 愛知時計電機(7723) 2026年3月期 — 営業キャッシュ・フロー28億円が純利益48億円に届かず、フリーキャッシュフローが薄い例
- 未来工業(7931) 2026年3月期 — 厚い自己資本と現金を背景に、配当を支払う体力が財務面から確認できる例
利益とキャッシュがなぜズレるのかは 利益とキャッシュはなぜズレるのか、キャッシュを生む事業の実力を映す損益計算書は 損益計算書の読み方 を参照してください。