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基礎知識

利益とキャッシュはなぜズレるのか — 運転資本と減価償却費

2026/07/23 更新4分で読了

一言でいうと

損益計算書の当期純利益と、実際に手元で増える現金は一致しません。 「利益が出ている=現金が増えている」と思い込むと、財務の実態を読み違えます。

ズレが生まれるのは、会計が発生主義というルールで利益を計算するからです。商品を売れば、代金を現金で受け取る前でも「売上」に計上します。設備を買えば、支払いは一括でも「費用」は何年かに分けて計上します。利益は「権利や義務が発生した時点」で記録され、現金は「実際にお金が動いた時点」で動く。 このタイミングのズレが、利益と現金の差になります。

ズレの主な要因は2つ、運転資本減価償却費です。この2つを押さえると、キャッシュ・フロー計算書の営業キャッシュ・フローが、なぜ純利益と違う数字になるのかが説明できます。

計算方法

営業キャッシュ・フローは、純利益を出発点にして、現金のズレを調整する形で計算されます(間接法)。要点だけ取り出すと次のようになります。

当期純利益
 + 減価償却費          (現金が出ていない費用を足し戻す)
 − 運転資本の増加        (売上債権・在庫の増加は現金を寝かせる)
 = 営業キャッシュ・フロー(おおよそ)

運転資本は、事業を回すために立て替えているお金で、ざっくり次で表せます。

運転資本 = 売上債権(未回収の代金) + 棚卸資産(在庫) − 仕入債務(未払いの代金)

売上債権や在庫が増えると、その分の現金が回収されず商品に化けたまま寝ているので、利益が出ていても現金は入ってきません。逆に減価償却費は、過去に払った設備代を費用として計上しているだけで、その期に現金は出ていきません。だから利益からは引かれても、現金の計算では足し戻します。

どう読むか

ズレの向きを読む

要因利益への影響現金への影響向き
減価償却費減らす減らさない現金は利益より多くなる
在庫・売上債権の増加影響なし減らす現金は利益より少なくなる
在庫・売上債権の減少影響なし増やす現金は利益より多くなる

装置産業のように減価償却費が大きい会社は現金が利益を上回りやすく、急成長で在庫や売掛が膨らむ会社は現金が利益に届きにくくなります。利益と営業キャッシュ・フローを並べ、どちらがどれだけ大きいかで、その会社の現金の体質が見えます。

よくある誤解

1. 黒字なら倒産しない、は誤り

利益が出ていても、手元の現金が尽きれば支払いは止まります。これが黒字倒産です。売上を計上しても代金の回収が先で、その間に仕入代金や給料の支払いが来れば、帳簿は黒字でも現金が足りなくなります。急成長で売上債権と在庫が一気に膨らむ局面ほど、この危険は高まります。利益は意見、キャッシュは事実という言い方があるほど、現金の裏付けは重視されます。

2. 減価償却費は「現金が出ていかない費用」

減価償却費は、過去に買った設備の代金を、使う年数に分けて費用計上したものです。費用なので利益は減りますが、その期に現金は出ていきません(現金が出たのは設備を買った時点)。

そのため、減価償却費の大きい会社は「利益は小さいのに現金は潤沢」ということが起こります。逆に、設備投資を積極化している会社は、投資した期には現金が大きく出ていく(投資キャッシュ・フローがマイナスになる)一方、その設備の減価償却費は翌期以降に費用として乗ってきて利益を押し下げます。投資の現金支出(今期)と、費用計上(翌期以降)はタイミングがずれることを押さえておきます。

3. 在庫を増やすと、利益は良く見え現金は悪くなる

在庫(棚卸資産)は資産なので、増やしても費用にはなりません。売上原価になるのは、売れて出荷された分だけです。つまり在庫を積み増すと、その期の利益は押し下げられない一方、仕入代金の現金は先に出ていきます。 利益と現金が逆向きに動く典型です。

ツムラ(4540)の2026年3月期は、原料生薬の在庫を積み増しました。生薬相場の上昇に備える合理的な行動ですが、運転資本を圧迫し、営業キャッシュ・フローを押し下げる要因になりました。「在庫が増えた」という一事も、利益・現金・リスク管理のどの角度から見るかで評価が変わります。 単純に悪材料とは読めません。ただし在庫が過剰になれば、将来の評価損リスクにつながります。

4. 利益とキャッシュのズレは、成長期・投資期に大きくなる

売上が伸びている会社は、売上債権と在庫が先に膨らむため、利益ほどには現金が増えません。愛知時計電機(7723)の2026年3月期は、純利益48億01百万円に対して営業キャッシュ・フローが28億20百万円でした。利益は伸びているのに現金がついてきていない状態で、運転資本の増加や現金を伴わない利益が背景にあると考えられます。

このズレが一時的なのか構造的なのかは、増配の持続性を左右します。 利益を配当の原資と考えると余裕があるように見えても、現金ベースで見ると薄い、ということが起こるためです。

当サイトでの扱い

当サイトの銘柄分析記事では、利益とキャッシュを別々に確認し、両者がズレているときはその理由まで踏み込むようにしています。増配の原資が今の稼ぎ(キャッシュ)なのか、バランスシートの余力なのかは、この視点でしか見分けられません。

現金の動きそのものを3区分で追う表は キャッシュ・フロー計算書の読み方、利益の段階構造は 損益計算書の読み方、設備投資や借入が積み上がる先の貸借対照表は 貸借対照表の読み方 を参照してください。