ROEとROA — 同じ会社でも数字が違って見える理由
一言でいうと
どちらも「預けた元手に対して、どれだけ利益を生んだか」を測る指標です。違うのは、何を元手とみなすかです。
- ROE(自己資本利益率) — 株主が出したお金に対する利回り。株主の視点
- ROA(総資産利益率) — 借入金も含めた事業全体の資産に対する利回り。事業そのものの効率
同じ会社でもROEのほうが高く出るのが普通です。借入を使って自己資本より大きな資産を動かせば、株主の元手あたりの利益は膨らむためです。
計算方法
ROE(%) = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100
ROA(%) = 利益 ÷ 総資産 × 100
ROEの定義はほぼ固まっていますが、ROAは「利益」に何を置くかが統一されていません。ここが本記事の中心です。
ROAの分子は少なくとも3通りある
| 分子 | 呼び方 | 使う場面 |
|---|---|---|
| 経常利益 | 総資産経常利益率 | 決算短信の記載。日本の実務で最も一般的 |
| 当期純利益 | 総資産純利益率 | 海外の Return on Assets に近い。IR BANKなど |
| 事業利益(営業利益+受取利息配当金) | 総資産事業利益率 | 財務分析の教科書的定義 |
さらに分母も、期末の総資産を使うか、期首と期末の平均(期中平均総資産)を使うかで変わります。
どう読むか
水準の目安
| 指標 | 目安 | 補足 |
|---|---|---|
| ROE | 8%以上 | 日本の機関投資家が最低ラインとする水準として定着している |
| ROA | 5%以上 | ただし分子の定義に依存する。同じ定義同士でしか比べられない |
当サイトのスクリーニング条件はROE8%以上・ROA5%以上です。ROE8%という線は、伊藤レポート(2014年)以降、日本企業が意識するようになった水準を踏襲しています。
ROEは3つに分解して読む
ROEは次の3つの積に分解できます(デュポン分解)。
ROE = 売上高純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
(儲かるか) (効率よく回すか) (どれだけ借りるか)
この分解が重要なのは、ROEは借入を増やすだけでも上がるからです。財務レバレッジ(総資産 ÷ 自己資本)は自己資本比率の逆数なので、自己資本比率が下がればROEは機械的に上がります。ROEが改善したという発表を見たときは、3つのうちどれが効いたのかを確認する価値があります。
ROAにはこの財務レバレッジの項がありません。だからこそ、ROEとROAを並べて見ることで、資本効率の改善が事業の実力によるものか、借入によるものかを切り分けられます。
よくある誤解
1. ROAがROEより高い、という逆転が実際に起きる
冒頭で「ROEのほうが高く出るのが普通」と書きましたが、当サイトが扱った未来工業(7931)では逆になっています。
| 指標 | 値 |
|---|---|
| ROE | 8.7% |
| ROA(スクリーナー表示) | 10.2% |
これは同社の資本効率が特殊なのではなく、2つの指標で分子が違うために起きた見かけ上の逆転です。ROAの10.2%は経常利益68億99百万円をもとにした総資産経常利益率で、決算短信の記載とも一致します。一方ROEの8.7%は、法人税を引いた後の当期純利益46億96百万円をもとにしています。分子が3割ほど小さくなれば、比率も下がります。
同じ会社について、IR BANKは純利益ベースのROAとして6.84%を掲載しています。10.20%と6.84%。どちらも間違いではありませんが、1.5倍の開きがあります。
2. 定義が揃えば、数字はきちんとつながる
上の6.84%という数字は、検算に使えます。財務レバレッジは自己資本比率の逆数なので、
ROA(純利益ベース) ÷ 自己資本比率 ≒ ROE
6.84% ÷ 0.807 = 8.5%
実際のROE8.7%とおおむね一致します(ROEは期中平均自己資本で計算されることが多いため、完全には一致しません)。定義を揃えれば矛盾は消えます。逆に言えば、数字が噛み合わないときは、まず定義を疑うべきです。
ツムラ(4540)のROA7.6%も同じく経常利益ベースであり、純利益ベースの数字とは直接比較できません。他サイトの数値と突き合わせるときは、必ず分子を確認してください。
3. ROEが高い会社が良い会社とは限らない
デュポン分解が示すとおり、ROEは自己資本を薄くすれば上がります。極端な場合、自社株買いで自己資本を減らせば事業が何も変わらなくてもROEは改善します。
逆に、自己資本比率が高すぎてROEが伸びない会社もあります。未来工業の自己資本比率は80.7%で、財務レバレッジは1.24倍しかありません。事業の稼ぐ力(ROA)が同じでも、レバレッジをかけない分ROEは低く出ます。ROE8.7%という数字は、事業が非効率だからではなく、財務が保守的だからという読み方になります。
この点は 自己資本比率と有利子負債 で詳しく扱います。
4. ROEは自己資本が小さいほど不安定になる
赤字で自己資本が大きく毀損した会社は、翌期に小さな黒字が出ただけで異常に高いROEを記録します。ROEを見るときは、単年ではなく5期程度の推移で判断します。
当サイトでの扱い
ROAの定義の揺れは、当サイトが記事を書く過程で最初につまずいた点でした。そのため、記事のデータ構造そのものに歯止めを入れています。
銘柄分析記事にROAを書く場合、その定義(roaBasis)を書かないとサイトのビルドが失敗する設定にしてあります。数値だけが独り歩きしないよう、機械的に強制する仕組みです。当サイトの記事に載っているROAは、すべて経常利益ベースであることが指標カードに明記されます。
実際の記事では次のように扱っています。
- 未来工業(7931) 2026年3月期 — ROE8.7%・ROA10.2%(経常利益ベース)。自己資本比率80.7%との関係
- ツムラ(4540) 2026年3月期 — ROE8.74%・ROA7.6%。設備投資で総資産が急増した期であり、ROAの分母が膨らむ局面
- 愛知時計電機(7723) 2026年3月期 — ROE9.1%・ROA7.8%。純利益の伸びが経常利益の伸びを上回った期で、分子の選び方が結果に効く例
指標を組み合わせて使うときの注意点は PERとPBRだけで割安判断してはいけない理由 も参照してください。