日立製作所(6501) 調整後営業利益+39.5%でも純利益△1.4%、乖離の正体を分解する
本記事をお読みになる前に
本記事は筆者個人の見解であり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。記載内容は有価証券報告書等の公開情報にもとづく分析ですが、正確性・完全性を保証するものではなく、将来の株価や業績を約束するものでもありません。投資判断は必ずご自身で情報を確認し、責任をもって行ってください。本記事はあくまで参考情報としてご利用ください。
生成AI利用本記事は、決算短信・有価証券報告書などの一次情報をもとに、生成AIを用いて作成・編集しています。掲載する数値は一次情報との照合を行っていますが、誤りが含まれる可能性を排除できません。重要な数値は必ず出典元の原典でご確認ください。
株式会社日立製作所
2026/08/25 時点
株価
5,300円
時価総額
240,384億円
配当利回り
0.94%
年間50円
PER
26.4倍
PBR
3.60倍
ROE
12.9%
ROA
6.0%
純利益ベース
自己資本比率
43.7%
配当性向
28.1%
有利子負債
10,569億円
D/Eレシオ
0.16倍
有利子負債÷自己資本
※ 指標は記事執筆時点のスナップショットです。最新の数値はご自身で証券会社等の情報をご確認ください。
この記事の結論
- 2027年3月期第1四半期は、売上収益2兆7,095億86百万円(前年同期比+20.0%)、調整後営業利益2,942億87百万円(同+39.5%)、Adjusted EBITA 3,235億29百万円(同+36.2%)と大幅な増収増益。エナジー(電力網・原子力)セグメントの伸び(売上+36.6%、セグメント損益+64.5%)が牽引した。
- ただし親会社株主に帰属する四半期利益は1,894億50百万円(前年同期比△1.4%)で、営業段階の伸びとは逆方向に動いた。原因は①前年同期に計上されていた金融収益726億48百万円が今期は86億43百万円まで急減(△88%)、②法人所得税費用が+28%増加、③四半期利益に占める非支配持分の取り分が82億12百万円→136億96百万円(+67%)に拡大、の3点で説明できる。前年同期の金融収益の内訳(為替差益か有価証券評価益か等)は、今回のQ1決算短信の開示範囲からは特定できなかった。
- 会社は2026年4月27日時点で公表していた2027年3月期の当初予想(税引前利益は前期比△1.3%の保守的な計画)を、今回のQ1決算と同時に上方修正した。親会社株主に帰属する当期利益の予想は850,000百万円→900,000百万円(+12.2%)に引き上げられており、本業(特にエナジー)の伸びに対する会社自身の自信がうかがえる。
- 2027年3月期第1四半期のEPSは42.01円→42.24円とほぼ横ばいだが、これは期中平均株式数が自己株買いにより約2%減少した効果によるもので、実質的な収益力の伸びを示すものではない。自己株式の取得額は同四半期だけで1,479億82百万円と前年同期の約3.1倍に急増しており、期末自己株式数も2026年3月期末の35.8百万株から1Q末には64.6百万株まで増えている。
- 配当は2027年3月期、中間28.00円のみ公表され期末は未定。前期実績の年間50.00円を参考にすると、株価5,300円に対する利回りは0.94%にとどまる。判断材料としては利回りではなく、営業段階の増益がどこまで最終利益に波及するかを見る銘柄である。
目次11項目
1. 概要
2026年8月25日時点で、日立製作所の株価は5,300円、予想PER26.35倍、PBR3.6倍、自己資本比率43.7%という水準です。会社が公表している配当は2027年3月期の中間28.00円のみで期末は未定のため、参考として前期実績の年間50.00円をベースにすると、予想配当利回りは0.94%にとどまります。この銘柄を検討するうえでの論点は利回りではなく、大幅な営業増益が最終的な純利益にどこまで反映されているかにあります。
2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)は、売上収益2兆7,095億86百万円(前年同期比+20.0%)、調整後営業利益2,942億87百万円(同+39.5%)と大幅な増収増益でした。エナジー(電力網・原子力)セグメントの伸びが牽引し、会社は通期の業績予想も同じ7月29日付で上方修正しています。
一方で、親会社株主に帰属する四半期利益は1,894億50百万円で、前年同期比△1.4%の減益でした。営業段階では大きく増益しているのに、最終利益はむしろ減っている——このギャップの正体(金融収益の急減・税負担の増加・非支配持分の拡大)を第4節で詳しく分解します。
2. 会社概要とビジネスモデル
日立製作所は、電力・鉄道・産業機器などの社会インフラとITを組み合わせた総合電機メーカーです。事業はデジタルシステム&サービス、エナジー(電力網・原子力)、モビリティ(鉄道)、コネクティブインダストリーズ(産業機器・ビルシステム等)、その他の5区分で構成されています。2026年度からは、産業分野のシステムインテグレーション(SI)事業をコネクティブインダストリーズからデジタルシステム&サービスへ移管するなど、事業区分の見直しも継続的に行っています。
2027年3月期第1四半期の売上収益(外部売上と内部売上の合計、セグメント間消去前ベース)を見ると、エナジーが911,906百万円と最大で、コネクティブインダストリーズ761,084百万円、デジタルシステム&サービス719,065百万円、モビリティ344,422百万円、その他123,441百万円と続きます。海外売上比率は65%から68%へ上昇し、日本・北米・欧州・アジア・その他の全地域が2桁の増収でした。
強みと弱みの整理
強み
エナジー事業の急成長が全体をけん引
2027年3月期第1四半期のエナジーセグメントは、売上収益が前年同期比+36.6%の911,906百万円、セグメント損益が同+64.5%の129,055百万円でした。電力網・原子力向けの需要拡大を背景に、全セグメント中で最も高い伸びを示しています。
海外売上比率が着実に上昇している
海外売上比率は前年同期の65%から2027年3月期第1四半期には68%へ上昇しました。日本・北米・欧州・アジア・その他の全地域が2桁の増収で、特定地域への依存が薄まっています。
通期業績予想を早期に上方修正
2026年4月27日時点で公表していた2027年3月期の当初予想(税引前利益は前期比△1.3%の保守的な計画)を、Q1決算と同時の2026年7月29日にはすでに上方修正しました。親会社株主に帰属する当期利益予想は850,000百万円から900,000百万円(+12.2%)に引き上げられています。
弱み
営業増益が最終利益に波及していない
2027年3月期第1四半期は調整後営業利益+39.5%の一方、親会社株主に帰属する四半期利益は△1.4%でした。金融収益の急減・税負担の増加・非支配持分の拡大という3つの要因が、営業段階の伸びを相殺しています(詳細は第4節)。
非支配持分の取り分が拡大している
四半期利益に占める非支配持分の割合は、2026年3月期第1四半期の82億12百万円から2027年3月期第1四半期には136億96百万円(+67%)に拡大しました。連結子会社の少数株主に配分される利益が増えるほど、親会社株主の取り分は目減りします。
事業区分の見直しが続き、期間比較がやや複雑
産業分野SI事業のセグメント間移管など、事業区分の変更が継続的に行われています。前年同期は新区分に組み替えて表示されているため今回のQ1同士の比較には支障ありませんが、区分変更が今後も続けば長期の時系列比較は難しくなります。
3. 業績の推移
数値で確認する
| 決算期 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 純利益 | 自己資本比率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2022/03 | 10,264,600 | 738,236 | — | 583,470 | — |
| 2023/03 | 10,881,100 | 748,144 | — | 649,124 | — |
| 2024/03 | 9,728,700 | 755,816 | — | 589,896 | — |
| 2025/03 | 9,783,370 | 971,606 | — | 615,724 | 44.0% |
| 2026/03 | 10,586,781 | 1,199,275 | — | 802,368 | 43.7% |
| 2027/03会社予想 | 11,700,000 | 1,408,000 | — | 900,000 | — |
IFRS採用会社のため、経常利益(ordinaryIncome)の開示はありません。
読み取れることは3つあります。
2024年3月期に売上高がいったん落ち込んでいます。 2023年3月期の10,881,100百万円から2024年3月期には9,728,700百万円まで減少し、2025年3月期以降は再び増加基調に戻っています。単年度の数字だけでなく、複数期を並べて初めてこの凹凸が見えます。
2026年3月期は、利益の伸びが売上の伸びを大きく上回りました。 売上収益は前期比+8.2%だったのに対し、調整後営業利益は+23.4%、親会社株主に帰属する当期利益は+30.3%でした。増収率よりも増益率が高いのは、利益率の改善(コスト構造の見直しや高採算事業の構成比上昇)が進んだことを示唆します。
2027年3月期の会社予想は、通期でも増収増益基調を見込んでいます。 売上収益+10.5%・調整後営業利益+17.4%・親会社株主に帰属する当期利益+12.2%という会社予想は、2026年4月27日の当初予想からすでに上方修正された後の数字です(第2節参照)。ただし、この通期予想の伸び率と、実際のQ1(四半期)単体の純利益が前年同期比△1.4%だったこととの関係は、第4節で扱う論点そのものです。
4. 調整後営業利益+39.5%と純利益△1.4%——乖離の正体
ここが本記事の中心です。
増益率がどこで目減りしているか
2027年3月期第1四半期の連結損益計算書を、調整後営業利益から親会社株主に帰属する四半期利益まで順に追います。
| 項目 | 2026年度Q1 | 2027年度Q1 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|
| 調整後営業利益 | 211,016百万円 | 294,287百万円 | +39.5% |
| 金融収益 | 72,648百万円 | 8,643百万円 | △88.1% |
| 税引前四半期利益 | 272,043百万円 | 295,109百万円 | +8.5% |
| 法人所得税費用 | △71,627百万円 | △91,963百万円 | +28.4% |
| 四半期利益 | 200,416百万円 | 203,146百万円 | +1.4% |
| うち非支配持分 | 8,212百万円 | 13,696百万円 | +66.8% |
| 親会社株主に帰属する四半期利益 | 192,204百万円 | 189,450百万円 | △1.4% |
出典:2027年3月期第1四半期決算短信(連結損益計算書)
この表から、調整後営業利益の伸び(+39.5%)が親会社株主に帰属する四半期利益の減益(△1.4%)に転じるまでに、3つの段階で目減りしていることが分かります。
1つ目は金融収益の急減です。 前年同期に計上されていた金融収益726億48百万円が、今期は86億43百万円まで減っています(△88.1%、差額で約640億円)。この差だけで、調整後営業利益の増加額(約833億円)の大部分を相殺する規模です。ただし、前年同期の金融収益726億48百万円が何に起因するか(為替差益か、保有有価証券の評価益・売却益か等)は、今回のQ1決算短信の開示範囲では特定できませんでした。 四半期決算短信は年度の有価証券報告書に比べて注記が簡略なため、内訳の断定は避け、今後の検証課題として扱います。
2つ目は法人所得税費用の増加です。 税引前四半期利益は+8.5%しか伸びていないのに対し、法人所得税費用は+28.4%増えており、実効税率が前年同期より上昇したことを示しています。
3つ目は非支配持分の拡大です。 四半期利益(非支配持分を含む合計)に占める非支配持分の取り分は、82億12百万円から136億96百万円へと67%近く増えました。連結子会社の少数株主に配分される利益が増えるほど、親会社株主の取り分は相対的に目減りします。
この3つが重なった結果、税引前四半期利益は+8.5%まで伸び率が縮小し、非支配持分を差し引いた親会社株主に帰属する四半期利益では、最終的に前年同期を下回りました。
EPSの横ばいは自己株買いが下支えしている
基本EPSは42.01円から42.24円へとほぼ横ばい(+0.5%)でした。しかし親会社株主に帰属する四半期利益自体は△1.4%の減益です。EPSがプラスに転じているのは、期中平均株式数が45億7,483万9,752株から44億8,462万4,524株へ約2%減少したためで、この分子(利益)が減っているのに分母(株式数)の縮小がそれを上回ってEPSを押し上げたという構図です。株式数が減った背景には、後述する自己株式取得の急増があります。
通期予想はQ1決算と同時に上方修正された
日立は2026年4月27日の期初時点で、2027年3月期について「税引前利益は前の期に比べて1.3%の減益」という保守的な計画を公表していました。ところが、Q1決算の発表と同じ2026年7月29日に、この予想を大幅に引き上げています。
| 項目 | 当初予想(4月27日公表) | 修正後予想(7月29日公表) | 修正幅 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 11,100,000百万円 | 11,700,000百万円 | +600,000百万円 |
| 調整後営業利益 | 1,315,000百万円 | 1,408,000百万円 | +93,000百万円 |
| 税引前当期利益 | 1,257,000百万円 | 1,335,000百万円 | +78,000百万円 |
| 親会社株主に帰属する当期利益 | 850,000百万円 | 900,000百万円 | +50,000百万円 |
出典:2026年3月期決算短信(当初予想)、2027年3月期第1四半期決算短信(修正後予想)
「期初は保守的に計画し、四半期の実績を見てすぐに引き上げる」という値動きのパターンと、その修正の主因がエナジー事業を中心とした本業の伸びであることは、通期の増益基調を裏付ける材料です。一方で、Q1で見えた「営業段階は伸びても最終利益は伸び悩む」という構図(金融収益の反動・税負担増・非支配持分増)が通期でも同じように効いてくるのかどうかは、次の中間決算(2026年11月上旬予定)で確認すべき点です。
5. 配当の推移
| 決算期 | 期初予想 | 年間配当 | 配当性向 |
|---|---|---|---|
| 2022/03 | — | 125円 | 20.7% |
| 2023/03 | — | 145円 | 21.0% |
| 2024/03 | — | 180円 | 28.3% |
| 2025/03 | — | 43円 | 32.0% |
| 2026/03 | — | 50円 | 28.1% |
| 2027/03会社予想 | — | — | — |
- 2025/03:2024年7月1日付の普通株式1株につき5株の株式分割により、前期(2024年3月期)の180円は分割前の実額。分割後の株式数に換算すると180÷5=36円相当となり、当期の43円は実質+19.4%の増配にあたる。
- 2027/03:期末配当は本記事執筆時点(2026年8月26日)で未定のため、年間合計は確定していない。中間配当28.00円は前年同期の23.00円から+21.7%。
2024年3月期から2025年3月期にかけて、年間配当が180円から43円へ大きく減っているように見えますが、これは2024年7月1日付の普通株式1株につき5株の株式分割によるものです。分割前の180円を分割後の株式数に換算すると180÷5=36円相当となり、2025年3月期の43円は実質的には増配(+19.4%)にあたります。他の情報源で日立の過去の配当を確認する際は、この分割をまたいでいないか確認することをおすすめします。
配当性向は2025年3月期の32.0%から2026年3月期には28.1%へやや低下しました。増益のペースが増配のペースを上回った結果です。
2027年3月期の配当は、本記事執筆時点(2026年8月26日)では中間28.00円のみが公表されており、期末は未定です。 中間配当だけを比べると、前年同期の23.00円から+21.7%の増配です。期末配当が決まっていない以上、通期の配当性向・利回りを会社予想ベースで確定的に語ることはできません。参考として前期実績の年間50.00円をそのまま据え置いたと仮定すると、株価5,300円に対する利回りは0.94%です。
日立は配当と同時に自己株式取得も積極化しています。2026年3月期の自己株式取得額は352,260百万円(前期比+75.9%)で、配当金と自己株式取得を合わせた総還元性向は2025年3月期の32.5%から2026年3月期には72%まで急上昇しました。2027年3月期第1四半期だけでもすでに147,982百万円を投じており、前年同期(47,534百万円)の約3.1倍のペースです。配当利回りの低さを補う要素として、この自己株買いの規模も判断材料になります。
6. 会社の現状と直近の動き
2027年3月期1Q末(2026年6月30日)時点の財政状態を見ます。資産合計は15兆414億10百万円、資本合計は6兆7,628億59百万円、親会社株主持分は6兆5,737億58百万円で、自己資本比率は43.7%(2026年3月期末と変わらず)です。
有利子負債(短期借入金・1年内償還予定の長期債務・長期債務の合計)は、2026年3月期末の1,009,037百万円から2027年3月期1Q末には1,056,927百万円に増えました。D/Eレシオ(有利子負債÷親会社株主持分)は0.154倍から0.161倍へわずかに上昇しています。 この四半期での増加の具体的な要因は、今回参照した決算短信の開示範囲からは特定できませんでした。なお、IR BANKが公表している有利子負債の時系列(2026年3月期末で43,407百万円)は、本記事が決算短信の連結財政状態計算書から独自に計算した値(同時点で1,009,037百万円)と大きく異なります。集計している負債の範囲の定義が異なるとみられ、本記事では決算短信から直接計算した値を採用しています。
セグメント別では、エナジーの伸び(売上収益+36.6%、セグメント損益+64.5%)が突出しています。モビリティも売上収益+20.7%、セグメント損益+40.2%と大きく伸びました。一方、全社及び消去のセグメント損益は△1,252百万円から△9,528百万円へ悪化幅が拡大しています。
キャッシュ・フローを見ると、営業活動によるキャッシュ・フローは442,091百万円から496,174百万円に増加し、フリー・キャッシュ・フローも367,699百万円から467,109百万円に拡大しました。一方で財務活動によるキャッシュ・フローは、前年同期の+9,519百万円から今期は△306,444百万円へ大きく流出超過に転じています。主因は前述の自己株式取得の急増(147,982百万円)と、親会社株主に対する配当金支払(100,713百万円→121,493百万円)です。なお投資活動によるキャッシュ・フローの内訳では「有価証券及びその他の金融資産の売却」が276百万円から95,847百万円へ急増していますが、これは前述の金融収益の減少とは別の勘定科目であり、何を売却したのかは今回参照した決算短信からは特定できませんでした。
2026年7月1日、モビリティセグメント傘下のHitachi Rail Ltd.を通じて、米国の公共交通機関向け高度道路交通システム(ITS)会社Clever Devices Holdings LLCを取得対価302百万米ドル(479億19百万円)で完全子会社化しました。 同社の借入金45百万米ドル(71億93百万円)も返済しています。この取引は2026年6月30日締めの今回Q1実績には反映されておらず、次のQ2以降の決算に影響する見込みです。のれん等の取得価額は、取得原価配分(PPA)が未完了のため開示されていません。
なお、2026年8月19日に「個別決算における投資有価証券売却益(特別利益)の計上に関するお知らせ」がTDnetで開示されていますが、これは親会社単体(個別決算)の話であり、今回取り上げている連結のQ1決算とは対象期間・対象範囲が異なります。混同しないよう注意してください。
7. 業界とセクターの状況
日立が属する重電・社会インフラ機器セクターには、個社の努力では変えられない構造的な制約がいくつかあります。
公共インフラ投資サイクルへの連動。 電力網・鉄道・原子力向けの設備は、電力会社や鉄道事業者、各国政府の予算・投資計画に左右されます。需要のタイミングは会社側でコントロールできるものではなく、業界共通の制約です。
大型プロジェクトの受注・引き渡し時期による四半期損益の振れ。 発電設備や鉄道車両のような大型プロジェクトは、受注から売上計上までの期間が長く、四半期ごとの数字は個別プロジェクトの進捗によって振れやすい構造です。今回のエナジーセグメントの大幅増益も、特定の大型案件の進捗が寄与している可能性がありますが、その内訳までは開示されていません。
為替・海外プロジェクトのリスク。 海外売上比率が68%まで上昇していることは成長の裏付けである一方、為替変動や海外での契約・規制リスクへのエクスポージャーも同時に高まっていることを意味します。これも重電・インフラ機器業界に共通する特性です。
世界的な競合とのシェア争い。 電力網・重電機器の分野では、シーメンスエナジーやGEベルノバ、ABBなど海外大手との競合が構造的に存在します。個社の技術力・価格競争力だけでなく、各国のエネルギー政策(脱炭素・電力インフラ更新投資など)の追い風・向かい風も業績に影響します。
8. 今後のスケジュール
2027年3月期 第2四半期(中間) 決算発表
過去の発表時期からの推定
2027年3月期 第3四半期 決算発表
過去の発表時期からの推定
2027年3月期 通期 決算発表
過去の発表時期からの推定
2028年3月期 第1四半期 決算発表
過去の発表時期からの推定
発表日はいずれも過去の傾向からの推定です。確定日は会社のIRサイトで確認してください。
9. 想定されるカタリスト
エナジー事業の増益ペースが続くか、Q1で見られた金融収益急減・税負担増・非支配持分増という3つの要因が中間期でも同様に働くかを確認できる最初の機会。
モビリティセグメント傘下で2026年7月1日付に取得対価302百万米ドル(479億19百万円)で完全子会社化。2026年6月30日締めの今回Q1実績には未反映で、Q2以降の売上・利益に寄与する見込み。
2027年3月期第1四半期だけで1,479億82百万円の自己株式取得を実施し、前年同期の約3.1倍のペース。継続すれば1株当たり指標を押し上げる一方、財務キャッシュ・フローの流出も拡大する。
今回のQ1決算短信の開示範囲では内訳が特定できなかった。有価証券報告書等で内容が判明すれば、今期の急減が一過性か構造的かを判断する材料になる。
10. 想定されるリスク
第2節の強みと同じ分量で、弱気材料を整理します。
営業増益が最終利益に波及しない構図が続くリスク。 2027年3月期第1四半期は調整後営業利益+39.5%に対し、親会社株主に帰属する四半期利益は△1.4%でした。金融収益の急減・税負担の増加・非支配持分の拡大という3つの要因が一過性なのか構造的なのかは、次の中間決算で確認するまで判断できません。
前年同期の金融収益726億48百万円の内訳が不明であること。 今回のQ1決算短信の開示範囲からは特定できませんでした。仮にこれが構造的に発生しにくい一時的な要因(有価証券の評価益等)だった場合、前年同期との比較自体の意味合いが変わってきます。
非支配持分の拡大による親会社株主取り分の目減り。 四半期利益に占める非支配持分は前年同期比+67%に拡大しました。連結子会社の業績が伸びても、その分だけ親会社株主の取り分が相対的に薄まる構造です。
大型プロジェクトの受注・進捗タイミングへの依存。 エナジーセグメントの急成長(セグメント損益+64.5%)が今回の増益の主因ですが、大型プロジェクトの進捗ペースに左右される事業特性上、この伸び率がそのまま続く保証はありません。
財務レバレッジが上昇余地を持つこと。 有利子負債は2026年3月期末の1,009,037百万円から1Q末に1,056,927百万円へ、D/Eレシオも0.154倍から0.161倍へ上昇しました。自己株式取得のペース(1Q だけで1,479億82百万円)が続けば、資金調達面で有利子負債がさらに積み上がる可能性があります。
11. まとめ:どう判断材料にするか
事業面では、2027年3月期第1四半期は大幅な増収増益で、通期の会社予想もQ1決算と同時にすでに上方修正されています。エナジーセグメントの伸びが牽引役であることは明確です。
判断の分かれ目は、大きく2つあります。
1つ目は、どの利益指標を重視するかです。 調整後営業利益ベースで見れば+39.5%の大幅増益ですが、親会社株主に帰属する四半期利益ベースで見れば△1.4%の減益です。両方とも同じ決算から導かれる正しい数字であり、どちらを重視するかで受け止め方が変わります。金融収益の急減・税負担増・非支配持分増という3つの要因が一過性だと見るなら前者(営業段階の伸び)を評価する余地があり、これらが今後も繰り返されると見るなら後者(最終利益の伸び悩み)を重く見るべきというのが分かれ目です。
2つ目は、この銘柄に何を求めるかです。 会社予想ベースの配当利回りは、期末未定のため確定的には計算できませんが、前期実績の50円を参考にしても0.94%と高配当株の水準ではありません。一方で、増益基調と大規模な自己株買いを組み合わせた株主還元の勢いを評価するなら、判断材料は違ってきます。
営業段階の増益トレンドとエナジー事業の成長を評価するか、それとも純利益ベースでの伸び悩みが解消されるまで様子を見るか。 この2点が、次の中間決算(2026年11月上旬予定)までに確認しておくべき分かれ目になります。
この記事の見立てが外れたと判断する条件
以下のいずれかが起きた場合、本記事の整理は前提から崩れます。買うかどうかを判断する際は、 強気材料と同じだけこちらも見てください。
- 次の中間決算(2026年11月上旬予定)でも、調整後営業利益が伸びる一方で親会社株主に帰属する利益が前年同期比マイナスという同じ構図が続いた場合。金融収益の反動・税負担増・非支配持分増が一過性ではなく構造的な要因であることを示唆する。
- 2027年3月期の会社予想(親会社株主に帰属する当期利益900,000百万円、前期比+12.2%)が、今後の四半期決算で下方修正された場合。会社は2026年4月27日時点の当初予想850,000百万円を、7月29日のQ1決算発表と同時にすでに一度上方修正している。
- エナジーセグメントの増益ペースが明確に鈍化した場合。2027年3月期第1四半期はセグメント損益が前年同期比+64.5%、売上収益が同+36.6%と全セグメント中で突出しており、通期上方修正の主因もこのセグメントの伸びによるところが大きい。
- 自己株式取得が減速・停止したにもかかわらず、EPSの伸びが横ばい〜微増にとどまった場合。2027年3月期第1四半期のEPS+0.5%(42.01円→42.24円)は、期中平均株式数が自己株買いで約2%減少した効果に支えられており、この効果が消えると実力が問われる。
- 有利子負債(1Q末1,056,927百万円)とD/Eレシオ(同0.161倍)が、自己株買いの原資調達等を理由に大きく上昇し続けた場合。2026年3月期末の1,009,037百万円・0.154倍からの変化幅を上回るペースでの増加が続けば、財務レバレッジの構造的な上昇と見る必要がある。
よくある質問
- 日立製作所の2027年3月期の配当はいくらですか?
- 2026年7月29日時点で会社が公表しているのは中間配当28.00円のみで、期末配当は未定です。前期(2026年3月期)の実績は年間50.00円(中間23.00円・期末27.00円)でした。中間配当だけを比べると28.00円は前年同期の23.00円から+21.7%です。期末が未定のため、年間の配当性向・利回りは本記事執筆時点(2026年8月26日)では確定していません。参考として前期実績の50.00円を株価5,300円で割った利回りは0.94%です。
- なぜ営業利益は増えているのに純利益は減益なのですか?
- 2027年3月期第1四半期の調整後営業利益は前年同期比+39.5%でしたが、親会社株主に帰属する四半期利益は△1.4%でした。差の主因は3つです。①前年同期に計上されていた金融収益726億48百万円が今期は86億43百万円まで急減(△88%)、②法人所得税費用が+28%増加、③四半期利益に占める非支配持分の取り分が82億12百万円から136億96百万円(+67%)に拡大——この3点が営業段階の伸びを相殺しました。なお前年同期の金融収益の内訳(為替差益か有価証券評価益か等)は、今回の決算短信の開示範囲からは特定できませんでした。
- 日立製作所の自己株式が急増しているのはなぜですか?
- 2027年3月期第1四半期だけで1,479億82百万円の自己株式を取得しており、前年同期(475億34百万円)の約3.1倍のペースです。この結果、期末自己株式数は2026年3月期末の35,798,823株から2027年3月期1Q末には64,552,492株まで増えました。期中平均株式数も約2%減少しており、EPSがほぼ横ばい(42.01円→42.24円)にとどまった一因になっています。取得目的や資金使途の詳細は、本記事で参照した決算短信の開示範囲からは確認できませんでした。
参考文献・引用元
- 01株式会社日立製作所「2027年3月期 第1四半期決算短信〔IFRS〕(連結)」
2026年7月29日開示。連結経営成績・財政状態・配当の状況・通期業績予想(修正)・連結損益計算書(金融収益・法人所得税費用・非支配持分の内訳)・連結財政状態計算書(有利子負債の算出)・持分変動計算書(自己株式の取得)・キャッシュ・フロー計算書・セグメント情報・後発事象(Clever Devices Holdings LLCの完全子会社化)を参照。 / 2026/07/29 開示
- 02株式会社日立製作所「2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」
2026年4月27日開示(通期実績)。2025年3月期・2026年3月期の連結経営成績、配当の状況、株式分割(2024年7月1日、1:5)の注記、財政状態、および2027年3月期の当初連結業績予想(2026年7月29日の修正予想との比較に使用)を参照。 / 2026/04/27 開示
- 03IR BANK「日立製作所(6501) 業績」
二次情報。2022年3月期〜2024年3月期の売上収益・調整後営業利益・親会社株主に帰属する当期利益・EPS・ROE・ROAの実績(決算短信ベースの集計)として参照した(2026年8月25日時点の表示)。2027年3月期予想の「当期利益」列は非支配持分を含む合計値960,000百万円である点に注意し、本記事のfinancialsには会社公表の親会社株主に帰属する当期利益予想900,000百万円を採用した。同ページの有利子負債の時系列は、決算短信の貸借対照表から本記事が独自に計算した値と定義が異なるとみられ大きく食い違うため、本記事のmetrics.interestBearingDebt/deRatioには採用していない。
- 04IR BANK「日立製作所(6501) 配当金の推移」
二次情報。2022年3月期〜2024年3月期の配当実績(決算短信ベースの集計、株式分割前の実額)、および自己株式取得額・総還元性向の推移として参照した(2026年8月25日時点の表示)。
- 05IR BANK「日立製作所(6501)」株式情報ページ
二次情報。2026年8月25日時点の株価・時価総額・PER・PBR・自己資本比率の参考値として参照した。ROE・ROAは決算短信の実績値(12.9%・6.0%)と定義が異なりIR BANK表示値(12.22%・5.33%)とは一致しないため、本記事のmetricsには決算短信の実績値を採用している。