トヨタ自動車(7203)を10年持てるか — 増配の9割は利益成長、営業利益の打率は4割止まり
本記事をお読みになる前に
本記事は筆者個人の見解であり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。記載内容は有価証券報告書等の公開情報にもとづく分析ですが、正確性・完全性を保証するものではなく、将来の株価や業績を約束するものでもありません。投資判断は必ずご自身で情報を確認し、責任をもって行ってください。本記事はあくまで参考情報としてご利用ください。
生成AI利用本記事は、決算短信・有価証券報告書などの一次情報をもとに、生成AIを用いて作成・編集しています。掲載する数値は一次情報との照合を行っていますが、誤りが含まれる可能性を排除できません。重要な数値は必ず出典元の原典でご確認ください。
トヨタ自動車株式会社
2026/08/07 時点
株価
2,980円
配当利回り
3.36%
年間100円
PER
10.1倍
PBR
0.97倍
ROE
9.6%
ROA
3.6%
純利益ベース
自己資本比率
36.4%
配当性向
32.1%
※ 指標は記事執筆時点のスナップショットです。最新の数値はご自身で証券会社等の情報をご確認ください。
この記事の結論
- 2017年3月期から2026年3月期までの9年間で、1株配当は42.0円から95.0円へ2.26倍(年率9.49%)に伸びた。同期間の親会社の所有者に帰属する当期利益は1,831,109百万円から3,848,098百万円へ2.10倍(年率8.60%)、営業利益は1,994,372百万円から3,766,216百万円へ1.89倍(年率7.32%)にとどまる。
- 増配の伸びを分解すると、純利益の成長がおよそ9割を占め、自社株買いによる純発行済株式数の12.4%減(EPSを1.14倍に押し上げ)がおよそ2割弱のプラス寄与、配当性向の低下(34.6%→32.1%)がおよそ1割のマイナス寄与になる。KDDIのように配当性向の引き上げで増配を支える構図ではなく、Toyotaの増配は主に利益成長で説明がつく。
- ただし「利益成長」の中身には注意が要る。純利益(2.10倍)は営業利益(1.89倍)より速いペースで伸びており、この差は本業以外の要因(為替・持分法投資利益など)が下支えしている可能性がある。実際、営業利益が前期比で増えたのは直近9期のうち4期にとどまり(打率4割5分未満)、増収(7期)や増配(7期増・2期横ばい・0期減配)に比べて振れが大きい。
- 不況局面での実績は総じて底堅い。コロナ禍の2021年3月期は営業利益が-8.4%減益となったが、非営業要因の押し上げで純利益はむしろ+10.3%増え、配当も44円→48円へ増配した。半導体不足やロシア事業終了の影響とみられる2023年3月期の減益(営業利益-9.0%、純利益-14.0%)でも増配は続き、配当性向が25.3%から33.4%へ上昇した。
- 自己資本比率は2017年3月期の35.9%から2026年3月期の37.8%まで、9年間ほぼ横ばいで推移している。総資産は48.75兆円から105.5兆円へ2.2倍に膨らんだが、自己資本比率が崩れていないことから、負債への過度な依存は確認できない。ただし有利子負債の総額は本記事で確認した一次情報からは特定できなかった(§6・§10)。
目次11項目
1. 10年の要約
トヨタ自動車を10年単位で持てるかを判断するために、2017年3月期から2026年3月期までの10期を並べました。まず結論に直結する4つの数字です。
| 項目 | 2017年3月期 | 2026年3月期 | 変化 | 年率 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 27,597,193百万円 | 50,684,952百万円 | +83.7% | +6.99% |
| 営業利益 | 1,994,372百万円 | 3,766,216百万円 | +88.8% | +7.32% |
| 親会社帰属当期利益 | 1,831,109百万円 | 3,848,098百万円 | +110.2% | +8.60% |
| 1株配当 | 42.0円 | 95.0円 | +126.2% | +9.49% |
配当は営業利益より速く、純利益よりもさらに速いペースで伸びています。 この記事が扱うのは、その差がどこから来ているのか、そして同じことをあと10年続けられるのか、という一点です。
1株配当・EPSはすべて2021年10月1日の株式分割(1株→5株)の調整後で記載しています。各期の決算短信に載る生の数値は、2021年3月期以前は本表の5倍です(分割を跨いだ2022年3月期の扱いは§4で説明します)。また、トヨタは2021年3月期第1四半期から会計基準を米国基準からIFRSへ移行しており、2017年3月期〜2019年3月期は米国基準、2020年3月期以降はIFRSベースの数値です。この会計基準の変更については§3で詳しく扱います。
2. 事業の持続性 — 10年後もこの事業はあるか
トヨタ自動車は、トヨタ・レクサスの両ブランドで乗用車から商用車まで手がける、国内最大手・世界最大級の自動車メーカーです。開発・生産・販売を一貫して行う体制に加え、トヨタファイナンシャルサービスを中心とする金融事業も収益の柱の一つです。日本・北米・欧州・アジア・その他の地域に販売網が分散しており、特定の地域や大口顧客に依存しない構造を持ちます。
「自動車を所有し、代金の一部を分割払いする」という収益の形は、10年後も一定程度残っている可能性が高いと考えられます。個人・法人の移動手段としての自動車需要そのものが消える種類のものではなく、金融事業も含めた収益構造は他の耐久財メーカーより裾野が広いといえます。
一方で、パワートレインの構成が10年のうちに変わりうるという制約があります。トヨタはハイブリッド(HV)・プラグインハイブリッド(PHV)・燃料電池車(FCEV)・電気自動車(BEV)を並行展開する「全方位戦略」を取っており、単一技術への依存は低いものの、地域ごとの規制・普及速度の差が大きい市場です。どの技術がどの地域で主流になるかによって、生産設備投資の配分が変わってきます。この論点は§7でさらに扱います。
3. 10期の業績推移 — 増収増益の打率
9回の前年比較で、増収・増益・増配がそれぞれ何回あったかを、各期の決算短信が示す前期比(自社発表の数値)で数えました。
| 項目 | 増加した回数 | 打率 |
|---|---|---|
| 売上高 | 7回 / 9回 | 7割8分 |
| 営業利益 | 4回 / 9回 | 4割4分 |
| 親会社帰属当期利益 | 5回 / 9回 | 5割6分 |
| 1株配当 | 7回増・2回横ばい・0回減配 | 減配ゼロ |
営業利益が増えたのは9期中4期しかありません。 増収(7回)や増配(7回増・減配ゼロ)に比べて、本業の利益はかなり振れています。純利益(5回)は営業利益よりやや打率が高く、後述するように非営業要因が下支えしている年があります。
会計基準の変更(米国基準→IFRS)と株式分割
この10期を並べる作業で、2つの「基準の切れ目」に注意する必要があることが分かりました。
1つ目は会計基準です。 トヨタは2021年3月期第1四半期からIFRSを任意適用しており、それ以前(2017年3月期〜2019年3月期を含む2020年3月期まで)は米国会計基準で開示していました。2020年3月期については、IFRS移行初年度にあたる2021年3月期の決算短信に、IFRSへ組み替えた比較数値が掲載されています。本記事はその組み替え後の数値を採用しました。両基準の差は次のとおりで、少なくとも2020年3月期時点では小さいことが確認できます。
| 項目 | 米国基準(当時の開示) | IFRS組み替え後(本記事採用) | 差 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 29,929,992百万円 | 29,866,547百万円 | -0.2% |
| 営業利益 | 2,442,869百万円 | 2,399,232百万円 | -1.8% |
| 純利益 | 2,076,183百万円 | 2,036,140百万円 | -1.9% |
| 営業活動によるキャッシュ・フロー | 3,590,643百万円 | 2,398,496百万円 | -33.2% |
営業キャッシュ・フローだけは差が大きく出ています。 リース会計などIFRSと米国基準でキャッシュ・フロー計算書の区分方法が異なることが要因とみられますが、本記事で確認した決算短信の記載からは差の内訳までは特定できませんでした。2017年3月期〜2019年3月期の営業CFは米国基準のまま(IFRS組み替え版が存在しない)ため、§6の営業CFの推移はこの点を踏まえて読んでください。
2つ目は株式分割です。 2021年9月30日を基準日、同10月1日を効力発生日として、普通株式1株につき5株の割合で分割されました。本記事の1株配当・EPS・BPS・発行済株式数はすべて分割調整後(5分の1、または5倍)で統一しています。
4. ★増配の原資はどこから来ているか
ここがこの記事の中心です。1株配当が利益の伸びを上回るペースで伸びた理由を分解します。
1株配当は、利益・株数・配当性向の3つで決まります。
1株配当 = 純利益 ÷ 株数 × 配当性向
9年間でそれぞれがどう動いたかを見ます。
| 要素 | 2017年3月期 | 2026年3月期 | 倍率 |
|---|---|---|---|
| 親会社帰属当期利益 | 1,831,109百万円 | 3,848,098百万円 | 2.10倍 |
| 発行済株式数(自己株式を除く、分割調整後) | 約148.7億株 | 約130.3億株 | 0.88倍 |
| 配当性向 | 34.6% | 32.1% | 0.93倍 |
| 1株配当 | 42.0円 | 95.0円 | 2.26倍 |
検算すると、2.10 × (1÷0.88) × 0.93 ≒ 2.23 となり、実際の2.26倍とほぼ一致します(期中平均株式数と期末株式数の違いによる誤差)。つまり増配は次の3つで説明がつきます。
- 純利益の成長 … 寄与およそ9割
- 自社株買いによる株数の減少 … 寄与およそ2割弱
- 配当性向の低下 … 寄与およそ1割のマイナス
KDDIのように配当性向の引き上げで増配を支える構図ではありません。 むしろ配当性向は9年間で34.6%から32.1%へ下がっており、増配のブレーキになっています。それでも配当が2.26倍に伸びたのは、純利益そのものが2.10倍に成長したためです。
ただし「純利益の成長」の中身には注意が要る
純利益(2.10倍)は営業利益(1.89倍)より速いペースで伸びています。 この差は、為替差益や持分法投資利益といった非営業要因が寄与している可能性があります。仮に営業利益の伸びだけを原資とみなして同じ計算をすると、
1.89(営業利益の倍率) × 1.14(株数減少の倍率) × 0.93(配当性向の倍率) ≒ 2.00倍
となり、実際の配当の伸び(2.26倍)の一部(差にして0.26倍分、増配幅(1.26倍の伸び)のおよそ21%相当)は、営業利益と純利益の差に相当する非営業要因の押し上げに支えられている計算になります。この非営業要因の内訳(為替か、持分法投資利益か、他の要因か)は、本記事で確認した決算短信の主要数値からは特定できませんでした。§3で見たとおり、営業利益が前期比で増えたのは9期中4期にとどまるため、増配の実力を営業利益ベースで見ると、これまでより保守的な評価になります。
自社株買いの推移は一定ではない
株数は2017年3月期末の約148.7億株(分割調整後、自己株式控除後)から2026年3月期末の約130.3億株へ、9年で12.4%減りました。ただしペースは一定ではなく、コロナ禍の2021年3月期は自社株買いがほぼ止まっています(IR BANK集計で年間1.18億円と、前後の年の数千億円規模から大きく縮小)。2025年3月期には一転して1.18兆円規模の自社株買いを実施し、同時に約5.2億株(分割調整後)の自己株式を消却したとみられ、発行済株式数の総数が163.1億株から157.9億株へ減少しています(発行済株式数と自己株式数の差分から算出。消却の公式な公表は本記事の一次情報からは確認できませんでした)。
5. 不況期に何が起きたか
10年20年持つなら、不況を複数回またぎます。2017年3月期以降で確認できた2つの局面を見ます。
| 局面 | 営業利益の変化 | 純利益の変化 | 配当の対応 | 回復 |
|---|---|---|---|---|
| コロナ禍(2021年3月期) | -8.4% | +10.3% | 増配(44円→48円)。配当性向は29.9%→29.8%とほぼ横ばい | 翌期に営業利益+36.3% |
| 半導体不足等(2023年3月期) | -9.0% | -14.0% | 増配を維持(52円→60円)。配当性向は25.3%→33.4%へ上昇 | 翌期に営業利益+96.4% |
コロナ禍でむしろ純利益が増えている点が目を引きます。 営業利益は8.4%の減益でしたが、非営業要因の押し上げにより純利益は10.3%増加しました。配当性向もほぼ変わっておらず、この局面では「配当性向を犠牲にして増配を守る」動きは見られません。
2023年3月期は営業利益・純利益とも減益で、配当性向が25.3%から33.4%へ跳ね上がりました。 これは§4で見た「配当性向には天井があり、減益期に増配を維持するとそこが使われる」という関係の実例です。2024年3月期に業績が急回復(営業利益+96.4%)したため配当性向は再び20%台まで戻りましたが、業績の回復が鈍い局面で同じ判断を続ければ、配当性向は上昇したまま定着する可能性があります。
本記事の確認範囲(2017年3月期以降)に、リーマンショック級の落ち込みは含まれていません。 IR BANKの二次情報によれば、2009年3月期(リーマンショック直後)は営業利益・純利益とも赤字に転落していますが、これは本記事の10年トレンドの対象期間外であり、財務諸表の突き合わせは行っていません。参考情報として付記するにとどめます。
6. 財務の耐久力
営業キャッシュ・フローと配当総額の倍率を、確認できた期間の両端で比較します。
| 期 | 営業CF | 配当金の支払総額 | 倍率 |
|---|---|---|---|
| 2017年3月期 | 3,414,237百万円 | 627,551百万円 | 5.4倍 |
| 2026年3月期 | 5,472,920百万円 | 1,238,224百万円 | 4.4倍 |
倍率はやや低下していますが、配当総額の4倍以上を営業CFで賄える水準は維持しています。 フリーキャッシュ・フロー(営業CF+投資CF)も、2017年3月期(+444,298百万円)・2026年3月期(+3,952,613百万円)とも確認できた両端でプラスでした。
自己資本比率は9年間ほぼ横ばい
| 期 | 総資産 | 自己資本比率 | 親会社所有者帰属持分 |
|---|---|---|---|
| 2017年3月期 | 48,750,186百万円 | 35.9% | 17,514,812百万円 |
| 2022年3月期 | 67,688,771百万円 | 38.8% | 26,245,969百万円 |
| 2026年3月期 | 105,522,331百万円 | 37.8% | 39,918,854百万円 |
総資産は9年で2.2倍に膨らみましたが、自己資本比率は35.9%〜38.8%のレンジでほぼ横ばいです。 KDDIのように自己資本比率が半分近くまで低下するような財務レバレッジの上昇は、本記事で確認した範囲では見られません。ただし、総資産の増加分が自動車事業(生産設備投資)と金融事業(貸付債権の拡大)のどちらに多く配分されているかは、決算短信の主要数値からは切り分けられませんでした。
有利子負債の総額は、本記事の一次情報からは特定できませんでした。 IR BANKの「有利子負債」欄は2019年3月期から2026年3月期まで同一の値(38兆7,098億円)が表示されており、明らかに更新されていない不良データです。決算短信の要旨部分にも有利子負債の単一の開示項目が無く、社債・長期借入金・短期借入金等が自動車事業・金融事業のセグメントごとに分散して開示されている可能性があります。有価証券報告書まで確認しないと総額を特定できないとみられ、この点は次回更新時の課題とします。
7. 10年スパンで何が変わりうるか
パワートレインの構成比率が変わりうる点は§2で述べたとおりです。 EVシフトの速度は地域によって差が大きく、10年のうちにどの技術が主流になるかで生産設備投資の配分が変わります。
通商政策・関税は個社の努力で変えられない外部要因として繰り返されています。 2026年3月期は米国の関税措置により営業利益が1兆3,800億円押し下げられました。10年のスパンでは、同種の措置が再び発生する可能性は否定できません。
金融事業の拡大に伴う金利感応度も変わりうる要因です。 総資産が9年で2.2倍に増える中、その中身の多くが金融事業の貸付債権であれば、10年前より金利変動の影響を受けやすい構造になっている可能性があります。§6で述べたとおり、本記事はこの内訳を特定できていません。
連結範囲の変更も今後の比較可能性に影響します。 2027年3月期第1四半期には日野自動車とその連結子会社70社が連結対象から除外されました。本記事の10年トレンドの対象期間(2026年3月期まで)には含まれませんが、次回以降の更新では連結範囲の変更を踏まえた比較が必要になります。
8. 株主還元方針と、そこから読めること
本記事で確認した決算短信からは、累進配当・DOEや配当性向目標といった明文の方針を確認できませんでした。 実績としての配当性向は次のように推移しています。
| 期 | 2017/03 | 2020/03 | 2023/03 | 2024/03 | 2026/03 |
|---|---|---|---|---|---|
| 配当性向 | 34.6% | 29.9% | 33.4% | 20.4% | 32.1% |
明文の方針は確認できない一方で、興味深い実績があります。 2025年3月期決算発表(2025年5月)時点で示された2026年3月期の配当予想は95.00円でしたが、その後2026年3月期の業績予想自体は期中に下方修正されており(2026年3月期の営業利益は前期比-21.5%の減益)、それでも配当は期初予想どおり95.00円で着地しました。利益予想が下振れても配当予想を据え置く運用がうかがえますが、これが会社の明文化された方針によるものか、その期その期の判断かは、本記事の一次情報からは特定できません。
9. 長期保有を取り崩す可能性がある要因
10年持つつもりで買った場合に、途中で判断を変える必要が出てくるのは次のような場合です。
自社株買いが2021年3月期のように大きく縮小・停止したとき。 EPSを押し上げる寄与(9年でおよそ1.14倍)が失われれば、純利益の伸び以上に配当を伸ばす余地が狭まります。
配当性向が上昇トレンドに転じ、35%〜40%台で定着したとき。 過去9年は32%前後を軸に低下方向でしたが、減益期には33%台まで跳ねる実績があります。これが常態化すれば、増配の原資は利益成長だけに一段と依存することになります。
営業利益の増益が9期中4期という打率からさらに下がり、かつ純利益がそれを上回るペースで下支えされなくなったとき。 §4で見た「増配の原資の9割は利益成長」という評価の前提が崩れます。
連結範囲の変更(日野自動車の除外など)が今後も続き、系列としての比較が難しくなったとき。 本記事の10年トレンドの前提が成り立たなくなります。
10. リスク
通商政策・関税のリスク。 2026年3月期だけで営業利益を1兆3,800億円押し下げた要因であり、外部要因のため個社の努力では完全には制御できません。
営業利益の変動性。 前期比で増益だったのは直近9期のうち4期にとどまります。増収・増配の安定感に比べ、本業の収益力そのものは振れが大きいという実績があります。
非営業要因への依存が一部にある可能性。 純利益の成長率(2.10倍)は営業利益の成長率(1.89倍)を上回っており、その差の内訳(為替か、持分法投資利益か)は本記事の一次情報からは特定できていません。この要因が反転すれば、配当の伸びのうち一部(試算でおよそ21%相当)を支えてきた土台が弱まります。
本記事のデータの制約。 有利子負債の総額は特定できませんでした。会計基準の変更(米国基準→IFRS)に伴う営業キャッシュ・フローの断層(2020年3月期時点で-33.2%の差)も、内訳までは確認できていません。総資産の増加が自動車事業と金融事業のどちらに多く配分されているかも切り分けられていません。
11. まとめ — どういう投資家に向くか
10年持てるかという問いに対して、増配の原資という点では強い材料があります。 9年間の増配(2.26倍)のうち、およそ9割は純利益の成長で説明がつき、配当性向の引き上げには頼っていません。自己資本比率も35.9%〜38.8%のレンジでほぼ横ばいを保ち、コロナ禍でも減配はありませんでした。
一方で、その「利益成長」を営業利益ベースで見ると評価は変わります。 営業利益が前期比で増えたのは9期中4期にとどまり、純利益はそれを上回るペースで伸びています。この差を埋めているとみられる非営業要因の中身は、本記事では特定できませんでした。
判断の分かれ目は2つです。
| 論点 | Aと見るなら | Bと見るなら |
|---|---|---|
| 増配の原資の9割が純利益の成長 | 配当性向の引き上げに頼らない、実力に裏付けられた増配として評価できる | 純利益の伸びは営業利益の伸びを上回っており、増配の一部は非営業要因に支えられている |
| 営業利益の打率4割4分 | 単年の振れであり、増収・増配の一貫性の方が長期保有の判断材料としては重い | 「連続」ではなく「五分五分未満」であり、本業の収益力に予見性は無い |
Aで見るなら、配当性向を上げずに増配を続けられる余地がある会社として、長期保有に向きます。Bで見るなら、増配の記録の裏にある本業の振れの大きさと、純利益を押し上げている非営業要因の正体を見極める必要がある会社ということになります。 本記事はどちらが正しいかを決めるものではありません。分かれ目がここにあることを示すのが目的です。
なお、この記事は年に1回、通期決算の発表後に更新する予定です。次回はまず、§6で特定できなかった有利子負債の総額と、総資産の増加が自動車事業・金融事業のどちらに多く配分されているかを、有価証券報告書まで遡って確認します。
この記事の見立てが外れたと判断する条件
以下のいずれかが起きた場合、本記事の整理は前提から崩れます。買うかどうかを判断する際は、 強気材料と同じだけこちらも見てください。
- 自社株買いが2021年3月期のように大きく縮小・停止した場合。EPSを押し上げる寄与(9年でおよそ1.14倍)が失われ、純利益の伸び以上に配当を伸ばす余地が狭まる。
- 配当性向が長期的な上昇トレンドに転じ、35%〜40%台で定着した場合。過去9年は32%前後を軸に低下方向だったが、2023年3月期のように減益期に33%台まで跳ねた実績があり、これが常態化すれば利益成長への依存度がさらに高まる。
- 営業利益の増益が今後も9期中4期程度の打率にとどまり、かつ純利益がそれを上回るペースで下支えされなくなった場合(非営業要因の反転)。本記事の増配分解の前提(利益成長が原資の9割)が崩れる。
- 2027年3月期第1四半期に日野自動車を連結除外するなど、連結範囲の変更が今後も続いた場合。本記事の10年トレンドはトヨタ単体の連結ベースで組んでおり、範囲変更が続くと今後の系列比較が難しくなる。
- 会社が減配、または配当予想の据え置き方針を転換して減額修正した場合。本記事の確認範囲(2017年3月期以降)で減配は一度も無く、この前提が崩れれば増配の継続性そのものを見直す必要がある。
よくある質問
- トヨタ自動車は何年連続で増配していますか?
- 本記事が集計した限りでは、2021年3月期から2026年3月期まで6期連続で増配しています(2027年3月期も予想どおりなら7期連続)。ただしこれは本記事独自の集計で、会社が「連続増配」を公式に打ち出しているわけではありません。2019年3月期・2020年3月期は前期比横ばいで、2017年3月期以降に減配した実績は確認できませんでした。
- トヨタ自動車は長期保有に向いていますか?
- 判断材料としては、1株配当が2017年3月期からの9年で42円から95円へ2.26倍に伸び、その原資のおよそ9割が純利益の成長で説明できる点はプラス材料です。自己資本比率も35.9%から37.8%までほぼ横ばいを保っています。一方で、営業利益が前期比で増えたのは直近9期のうち4期にとどまり、純利益の伸びの一部は非営業要因に支えられている可能性があります。どちらを重く見るかで結論は変わるため、本記事は判断材料の提示にとどめています。
- トヨタ自動車は過去に減配したことがありますか?
- 本記事が確認した2017年3月期以降の範囲では、減配は確認できませんでした。2019年3月期・2020年3月期は前期比横ばい(44.0円)でしたが、コロナ禍の2021年3月期や半導体不足の影響がみられた2023年3月期といった減益局面でも増配を維持しています。
- トヨタ自動車の増配は自社株買いによる部分が大きいのですか?
- いいえ、KDDIなど一部の企業とは異なり、トヨタの増配の主因は自社株買いではなく純利益の成長です。9年間の増配(2.26倍)を要因分解すると、純利益の成長がおよそ9割、自社株買いによる株数減少(純発行済株式数が9年で12.4%減)がおよそ2割弱のプラス寄与、配当性向の低下がおよそ1割のマイナス寄与という構成になります。
参考文献・引用元
- 01トヨタ自動車株式会社「平成30年3月期 決算短信〔米国基準〕(連結)」
2018年5月9日開示。2017年3月期・2018年3月期の売上高・営業利益・税引前当期純利益・当社株主に帰属する当期純利益・株主資本比率・1株当たり株主資本・営業活動によるキャッシュ・フロー・配当の状況(配当性向)、および期末発行済株式数・期末自己株式数(株数の起点)を参照。米国会計基準ベース。 / 2018/05/09 開示
- 02トヨタ自動車株式会社「2020年3月期 決算短信〔米国基準〕(連結)」
2020年5月12日開示。2019年3月期・2020年3月期の売上高・営業利益・税引前当期純利益・純利益・株主資本比率・営業CF・配当の状況、期末発行済株式数・期末自己株式数を参照。米国会計基準ベース(本記事の2020年3月期financialsはIFRS移行年短信の比較値を採用しており、本資料の数値とは異なる。§3で詳述)。 / 2020/05/12 開示
- 03トヨタ自動車株式会社「2021年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」
2021年5月12日開示。IFRS任意適用初年度の短信で、2020年3月期の比較数値をIFRSに組み替えて掲載している。本記事のfinancialsはこのIFRS組み替え後の2020年3月期数値を採用した。2021年3月期(コロナ禍)の実績、株式分割(2021年9月30日基準日・1株→5株)の決議、期末発行済株式数・期末自己株式数を参照。 / 2021/05/12 開示
- 04トヨタ自動車株式会社「2022年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」
2022年5月11日開示。株式分割の効力発生(2021年10月1日、1株→5株)を確認し、2021年3月期・2022年3月期の財務数値・EPS・BPS・期末発行済株式数・期末自己株式数を分割調整後で参照。2022年3月期の年間配当金(分割調整後52円)の注記も参照。 / 2022/05/11 開示
- 05トヨタ自動車株式会社「2024年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」
2024年5月8日開示。2023年3月期・2024年3月期の売上高・営業利益・税引前利益・純利益・自己資本比率・営業CF・配当の状況・期末発行済株式数・期末自己株式数を参照。ロシアでの生産事業終了による2023年3月期の損失影響(欧州セグメントで898億円)にも言及。 / 2024/05/08 開示
- 06トヨタ自動車株式会社「2025年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」
2025年5月8日開示。2026年3月期の配当予想(期初予想、95.00円)を参照。この期初予想が実績と一致したことの裏付けに使用。 / 2025/05/08 開示
- 07トヨタ自動車株式会社「2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」
2026年5月8日開示。2025年3月期・2026年3月期の売上高・営業利益・税引前利益・純利益・自己資本比率・営業CF・配当の状況(配当性向)・期末発行済株式数・期末自己株式数(株数の終点)を参照。 / 2026/05/08 開示
- 08トヨタ自動車株式会社「2027年3月期 第1四半期 決算短信〔IFRS〕(連結)」
2026年8月4日開示。metricsのasOf時点の株価に対応する実績EPS・BPS・自己資本比率、および2027年3月期配当予想(据え置き、100円)を参照。 / 2026/08/04 開示
- 09IR BANK「トヨタ自動車(7203) 決算まとめ」
二次情報。上記決算短信と突き合わせ、売上高・営業利益・純利益・EPS・自己資本比率・BPS・1株配当・配当性向の系列がおおむね一致することを確認した(2026年8月24日時点の表示)。ただし「有利子負債」欄は2019年3月期〜2026年3月期まで同一の値(38兆7098億円)が表示されており、明らかに更新されていない不良データのため本記事では採用しなかった(§6・§10)。自社株買いの年間実施額(IR BANK集計)も参考として本文で言及した。