長期保有適性自動車2026/3期 通期

本田技研工業(7267)を10年持てるか — 最終赤字の年も増配した配当方針の中身

2026/08/26 公開2026/08/26 更新6分で読了対象決算:2026年3月期 通期

本記事をお読みになる前に

本記事は筆者個人の見解であり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。記載内容は有価証券報告書等の公開情報にもとづく分析ですが、正確性・完全性を保証するものではなく、将来の株価や業績を約束するものでもありません。投資判断は必ずご自身で情報を確認し、責任をもって行ってください。本記事はあくまで参考情報としてご利用ください。

生成AI利用本記事は、決算短信・有価証券報告書などの一次情報をもとに、生成AIを用いて作成・編集しています。掲載する数値は一次情報との照合を行っていますが、誤りが含まれる可能性を排除できません。重要な数値は必ず出典元の原典でご確認ください。

本田技研工業株式会社

東証プライム 7267 ・ 3月期決算

2026/08/06 時点

株価

1,636円

配当利回り

4.28%

年間70円

PER

15.9倍

PBR

0.52倍

ROE

3.2%

ROA

1.2%

純利益ベース

自己資本比率

35.9%

配当性向

68.1%

※ 指標は記事執筆時点のスナップショットです。最新の数値はご自身で証券会社等の情報をご確認ください。

この記事の結論

  • 2017年3月期から2026年3月期までの9年間で、1株配当は分割調整後30.67円から70.00円へ+128.3%(年率9.61%)伸びた。一方で親会社の所有者に帰属する当期利益は616,569百万円の黒字から423,941百万円の損失へ転落しており、この9年間を通した「利益成長率」は定義できない。
  • 2026年3月期の最終赤字は、北米で計画していた一部EVモデルの上市・開発中止と中国の持分法投資の減損を柱とする「四輪電動化戦略の見直し」による特別損失が原因。それでも会社は配当を増配した。理由は、2026年3月12日の開示で会社自身が明言している「安定的・継続的な配当を実現するためDOE(調整後親会社所有者帰属持分配当率)を還元指標としている」という方針にある。単年度の利益と配当を切り離す設計そのものが、赤字の年の増配を可能にしている。
  • 赤字直前の2017年3月期から2025年3月期(8年間、いずれも黒字)で増配の原資を分解すると、利益成長が寄与38%、自社株買いによるEPS押し上げが寄与18%、配当性向の引き上げ(26.9%→38.0%)が寄与43%となり、配当性向の引き上げが最大の原資だった。
  • 業績の打率は指標によって大きく異なる。売上収益は9回中7回増収(7勝2敗)だが、営業利益は3勝6敗、親会社帰属当期利益は4勝5敗と、いずれも負け越している。売上が伸び続けても利益が伸び続けるとは限らない構造が、9年間の実績にすでに表れている。
  • 2026年3月期は自己株式の消却(1,046,188百万円)を実施し、発行済株式数(自己株式を含む)が前期の52.8億株から45.33億株へ14.1%減った。自己資本は自己株式の取得と当期損失による利益剰余金の減少で前期比4,797億円減少しており、会社は自社株買い・株主還元の継続と財務体力の維持がすでにトレードオフになり始めている段階にある。
目次11項目
  1. 1. 10年の要約
  2. 2. 事業の持続性 — 10年後もこの事業はあるか
  3. 3. 10期の業績推移 — 増収増益の打率
  4. 4. ★増配の原資はどこから来ているか
  5. 5. 不況期に何が起きたか
  6. 6. 財務の耐久力
  7. 7. 10年スパンで何が変わりうるか
  8. 8. 株主還元方針と、そこから読めること
  9. 9. 長期保有を取り崩す可能性がある要因
  10. 10. リスク
  11. 11. まとめ — どういう投資家に向くか

1. 10年の要約

本田技研工業を10年単位で持てるかを判断するために、2017年3月期から2026年3月期までの10期を並べました。まず結論に直結する4つの数字です。

項目2017年3月期2026年3月期変化
売上収益13,999,200百万円21,796,610百万円+55.7%(年率+5.04%)
営業利益840,711百万円▲414,346百万円(損失)黒字から損失へ転落
親会社の所有者に帰属する当期利益616,569百万円▲423,941百万円(損失)黒字から損失へ転落
1株配当(分割調整後)30.67円70.00円+128.3%(年率+9.61%)

利益が損失に転落した年に、配当はむしろ増配されています。 この記事が扱うのは、なぜそれが可能なのか、そしてそのやり方が10年20年続けられるのか、という一点です。

1株配当・EPSはすべて2023年10月1日の株式分割(1株→3株)の調整後で記載しています。2023年3月期までの決算短信に載る生の数値は、この3倍です。

2. 事業の持続性 — 10年後もこの事業はあるか

本田技研工業は、四輪車事業を中核に、二輪車事業・パワープロダクツ(汎用機)事業・金融サービス事業を併せ持つ総合輸送機器メーカーです。四輪専業の競合と異なり、収益源が四輪単独に集中していない点が構造上の特徴です。

四輪事業の収益性は、直近で悪化しています。 2026年3月12日の開示によれば、「米国での関税政策の変更に伴うICE(内燃機関)/HEV(ハイブリッド車)ビジネスへの影響や、EV開発へのリソースシフトの影響によるアジアでの商品競争力の低下」により、四輪事業の収益性が足元で悪化していると会社自身が説明しています。10年後にこの事業が存在するかという問いに対しては、「四輪車という商品自体は残るが、その中の技術(EV・HEV・ICE)の配分を会社が読み違えると収益性が大きく損なわれる」というのが、2026年3月期の実績が示す教訓です。

二輪車事業・金融サービス事業が収益の下支えになっています。 同じ開示は「二輪事業や金融サービス事業の強固な収益力とキャッシュ創出力を踏まえ、安定的な株主還元を継続していく」とも述べており、四輪事業が変調をきたした局面でも、他事業の収益基盤が株主還元の原資を支える構造になっていることがうかがえます。

3. 10期の業績推移 — 増収増益の打率

9回の前年比較で、増収・増益・増配がそれぞれ何回あったかを数えました。

項目増加した回数打率
売上収益7回 / 9回7勝2敗
営業利益3回 / 9回3勝6敗
親会社帰属当期利益4回 / 9回4勝5敗
1株配当(分割調整後)6回 / 9回(据え置き2回・減配1回)6勝1敗2分

売上収益は7勝2敗と底堅い一方、利益はどちらも負け越しています。 特に営業利益は3勝6敗で、増収が続いても増益にはつながりにくい構造がこの9年間ではっきり出ています。減益・赤字の年は2018年3月期(営業利益▲0.9%)、2019年3月期(同▲12.9%)、2020年3月期(同▲12.8%)、2023年3月期(同▲10.4%)、2025年3月期(同▲12.2%)、2026年3月期(黒字から414,346百万円の損失)の6回です。

本記事のfinancials(10期分)は、2018年・2020年・2022年・2024年・2026年に開示された5本の通期決算短信から直接取得しており、IR BANKなどの二次情報による補完は行っていません。株式分割の影響を受けるEPS・1株配当のみ、決算短信自身が示す分割調整後の数値、またはそれに準じて3分の1にした数値で統一しています(第1節・sources参照)。

4. ★増配の原資はどこから来ているか

ここがこの記事の中心です。1株配当は、利益・株数・配当性向の3つで決まります。

1株配当 = 利益 ÷ 株数 × 配当性向

2026年3月期は利益がマイナスのため、この式が成立しません。 そこでまず、赤字に転落する直前の2017年3月期から2025年3月期まで(8年間、いずれも黒字)で分解し、そのあとで2026年3月期に何が起きたかを別に扱います。

2017年3月期→2025年3月期(8年間)の分解

株数は、EPSの計算根拠と一致させるため期中平均株式数(分割調整後)を使っています。

要素2017年3月期2025年3月期倍率
親会社帰属当期利益616,569百万円835,837百万円1.356倍
期中平均株式数約54.07億株約46.71億株0.864倍
配当性向26.9%38.0%1.413倍
1株配当30.67円68.00円2.217倍

検算すると、1.356 ×(1÷0.864)× 1.413 ≒ 2.216 となり、実際の2.217倍とほぼ一致します。対数で寄与度に分解すると、次のようになります。

  • 利益成長 … 寄与およそ38%
  • 自社株買いによる株数の減少(EPS押し上げ) … 寄与およそ18%
  • 配当性向の引き上げ … 寄与およそ43%

KDDIの長期保有適性記事(本サイト既出)では利益成長と自社株買いの寄与がそれぞれ4割前後で拮抗していましたが、本田技研工業では配当性向の引き上げが最大の原資です。 配当性向は26.9%から38.0%まで、11.1ポイント上昇しました。配当性向には天井があるため、この原資は使うほど残りが減ります。

2026年3月期 — この式が壊れた年

2026年3月期は親会社帰属当期利益が423,941百万円の損失です。それでも1株配当は68.00円から70.00円へ増配されました。上の式に当てはめると、分子(利益)がマイナスなのに配当が増えているという、算数として破綻した状態です。

これを可能にしているのが、会社が明言する配当方針です。 2026年3月12日の開示で、会社は「安定的・継続的な配当を実現するためDOE(調整後親会社所有者帰属持分配当率)を還元指標としている」と述べ、通期業績予想を大きく下方修正した同じ発表の中で「配当予想につきましては変更いたしません」と明記しています。DOE(親会社所有者帰属持分配当率)自体は、決算短信の配当の状況欄に毎期記載されており、2017年3月期から2026年3月期まで1.9%〜2.8%の狭いレンジで推移しています。

言い換えると、本田技研工業の配当は「その年に稼いだ利益の一定割合」ではなく「自己資本の一定割合」を目安に決まっています。 単年度の損益と配当を切り離す設計そのものが、赤字の年の増配を可能にした一方、利益の裏付けを欠いた配当が続くリスクとも表裏一体です。実際、2026年3月期の自己資本(親会社の所有者に帰属する持分)は、自己株式の取得と当期損失による利益剰余金の減少により、前期末の12,326,529百万円から11,817,512百万円へ4,797億円減少しました。配当の原資を「その年の利益」から「蓄積した自己資本」へ切り替えている以上、赤字が続けば自己資本そのものが目減りしていきます。

5. 不況期に何が起きたか

10年20年持つなら、不況を複数回またぎます。この10年間で確認できた3つの局面を見ます。

局面営業利益の変化配当の対応回復
新型コロナ初期(2020年3月期)▲12.8%増配(分割調整後37.00円→37.33円)翌期に営業増益
新型コロナ通年影響(2021年3月期)+4.2%(営業利益は増益)減配(37.33円→36.67円)
EV戦略見直し(2026年3月期)黒字から414,346百万円の損失増配(68.00円→70.00円)未確認(2027年3月期は会社予想のみ)

新型コロナ禍は、売上と利益で逆方向に動いた点が特徴的です。 売上収益は2020年3月期▲6.0%、2021年3月期▲11.8%と2年連続で落ち込み、この10年で最大の減収でした。ところが営業利益は2021年3月期に+4.2%の増益で、コスト削減が生産・販売の落ち込みを上回るペースで進んだとみられます。それでも配当は2021年3月期に減配しており、営業利益が増えた年に減配し、営業利益が減った年に増配するという、直感に反する組み合わせが実際に起きています。 配当がその年の利益と単純に連動していない(DOE方針)ことの裏付けとも言えます。

2026年3月期のEV戦略見直しは、この10年で最大の損益インパクトです。 会社は2026年3月12日の開示で、北米の一部EVモデルの上市・開発中止と中国の持分法投資の減損を柱に、8,200億円〜1兆1,200億円の営業費用と1,100億円〜1,500億円の持分法投資損失が発生する見通しを示し、次期以降の追加損失も含めると最大2兆5,000億円に達する可能性があるとしています。この追加損失が2027年3月期以降にも及ぶかどうかが、次回更新での最重要確認事項です。

6. 財務の耐久力

営業キャッシュ・フローと配当金総額の関係は、2025年3月期に一度、危険水域に入りました。

営業CF配当金総額倍率
2017年3月期885,073百万円165,809百万円5.3倍
2023年3月期2,129,022百万円202,134百万円10.5倍(10年で最高)
2025年3月期292,152百万円307,347百万円0.95倍
2026年3月期1,135,261百万円272,860百万円4.2倍

2025年3月期は、営業キャッシュ・フローが配当金総額を下回りました。 この年の配当は営業活動で稼いだ現金だけでは賄いきれておらず、手元資金や他の活動からの資金で補われた計算になります。翌2026年3月期には営業CFが1,135,261百万円まで回復していますが、9年間のうちに一度、配当の原資が単年度のキャッシュフローだけでは説明できない年があったという事実は、財務の耐久力を評価するうえで無視できません。

自己資本比率は10年で最低水準

総資産自己資本比率
2017年3月期18,958,123百万円38.5%
2023年3月期24,670,067百万円45.3%(10年で最高)
2026年3月期33,509,285百万円35.3%(10年で最低)

自己資本比率は2023年3月期の45.3%をピークに、2026年3月期には35.3%まで低下しました。2026年3月期単年の低下理由は、会社自身の説明(第4節)で「自己株式の取得」と「当期損失による利益剰余金の減少」の両方だと特定できています。KDDIの記事で残った「特定できなかった」という留保は、本田技研工業の直近期については当てはまりません。ただし2023年3月期から2024年3月期にかけての低下(45.3%→42.6%)についてまで理由を特定したものではなく、その点は本記事のデータの制約として第10節に記載します。

7. 10年スパンで何が変わりうるか

EVシフトのペース自体が、会社の想定どおりに進むとは限りません。 2026年3月期の損失は、長期的にはEVが最適解だという判断のもとで進めてきた投資の一部を、市場の鈍化を理由に中止したことが原因です。今後10年で再びEV需要が加速する可能性、逆にさらに鈍化する可能性のどちらも残っており、そのたびに投資計画の見直しが損益に直接影響する構造は変わりません。

通商政策・関税は、会社の努力だけでは変えられない要因です。 2026年3月期の四輪事業収益性の悪化には「米国での関税政策の変更」が明示的に挙げられています。今後10年、同様の政策変更が繰り返される可能性は否定できません。

中国事業の位置づけが変わりつつあります。 2026年3月期には中国の持分法投資で減損損失の計上が見込まれており、開示は「中国における競争激化」を理由に挙げています。新興EVメーカーとの競争が今後も続けば、中国事業からの持分法投資損益(2026年3月期は162,080百万円の損失)が今後も業績の変動要因になります。

二輪車事業は新興国需要への感応度を持ちます。 四輪車事業に比べて新興国での需要比率が高いとみられ、新興国通貨の変動や現地景気の影響を受けやすい性格を保ったままです。

8. 株主還元方針と、そこから読めること

会社は2026年3月12日の開示で、「安定的・継続的な配当を実現するためDOE(調整後親会社所有者帰属持分配当率)を還元指標としている」と明言しています。「調整後」が具体的に何を調整しているのか(一時損失の除外方法など)は、本記事で確認した開示からは特定できませんでした。

実績としてのDOE(親会社所有者帰属持分配当率、決算短信記載の値)は次のように推移しています。

2017/032020/032023/032024/032025/032026/03
DOE2.4%2.4%1.9%2.8%2.5%2.4%

1.9%〜2.8%という狭いレンジに収まっており、実績はこの方針と整合しています。 配当性向(利益に対する配当の比率)が26.9%から38.0%まで大きく変動したのに対し、DOE(自己資本に対する配当の比率)は相対的に安定しています。会社が優先しているのは「利益の一定割合を配当する」ことではなく「自己資本の一定割合を配当し続ける」ことだ、という行動様式がここから読み取れます。この設計は、赤字の年でも配当を維持しやすい一方、自己資本そのものが目減りする局面(第4節・第6節)では、配当の原資が実質的に取り崩されていくリスクを内包します。

9. 長期保有を取り崩す可能性がある要因

10年持つつもりで買った場合に、途中で判断を変える必要が出てくるのは次のような場合です。

EV戦略見直しに伴う追加損失が2027年3月期以降も続いたとき。 会社自身が「次期以降の連結業績において、追加的な費用または損失が計上される可能性がある」と明言しており、2026年3月期の損失と合わせて最大2兆5,000億円という試算も示しています。この試算の実現度合いが、10年保有の前提を左右します。

自己資本の減少が続いたとき。 配当の原資がDOE(自己資本の一定割合)である以上、自己資本が減り続ければ、配当を維持するために自己資本を切り崩す度合いが強まります。2026年3月期はすでに自己株式の取得と当期損失の両方で自己資本が減少しました。

営業キャッシュ・フローが配当金総額を再び下回ったとき。 2025年3月期に一度発生した実績があり、これが常態化すれば、DOE方針があっても配当の継続性そのものが疑わしくなります。

利益の打率(3勝6敗・4勝5敗)がさらに悪化したとき。 売上収益が伸び続けても利益がそれに連動しない構造が、9年間の実績としてすでに確認されています。

10. リスク

配当と利益が切り離された設計そのもののリスク。 DOE方針は「安定配当」を実現する一方、赤字の年に利益の裏付けなく配当を続けることを可能にします。自己資本を取り崩しながらの配当が何年も続けば、いずれ方針の持続性そのものが問われます。

四輪事業の技術選択(EV・HEV・ICE)を読み違えるリスク。 2026年3月期の損失は、長期的な技術トレンドの読みと足元の需要の乖離から生じました。今後も同様の戦略修正が発生する可能性があります。

通商政策・関税のリスク。 米国の関税政策変更の影響がすでに四輪事業の収益性悪化の一因として明示されています。

財務レバレッジの上昇。 自己資本比率35.3%は10年で最低水準です。ROEとROAで述べたとおり、自己資本が薄くなる局面ではROEの高さを収益力の高さと読み替えることはできません(本田技研工業の2026年3月期はROEもマイナスです)。

本記事のデータの制約。 financialsの10期分はすべて決算短信の実数(5本の通期決算短信)から直接取得しており、二次情報には依存していません。ただし2023年3月期から2024年3月期にかけての自己資本比率低下(45.3%→42.6%)の理由までは特定していません。また株式分割の調整計算(3分の1)は本記事で行った単純計算であり、会社自身が調整後の数値を開示していない期(2017年3月期〜2022年3月期の1株配当・EPS)を含みます。

11. まとめ — どういう投資家に向くか

10年持てるかという問いに対して、実績は割れています。 売上収益は7勝2敗と伸びが続いており、事業自体が消える種類のものではありません。一方で営業利益は3勝6敗、親会社帰属当期利益は4勝5敗と、利益は負け越しています。配当は9年間で+128%(年率+9.61%)伸びましたが、2026年3月期は最終赤字の年でした。

判断の分かれ目は2つです。

論点Aと見るならBと見るなら
DOE方針による増配の継続(赤字の年も増配)利益の単年度変動に左右されない、株主にとって予測しやすい還元方針として評価できる利益の裏付けを欠いた配当が自己資本を取り崩しながら続いており、持続可能性に疑問がある
増配の原資の43%が配当性向の引き上げ資本政策の柔軟性として評価できる。DOE方針のもとでは配当性向という指標自体の重要性が低い配当性向にはいずれ天井があり、利益成長(寄与38%)だけではこれまでのペースを維持できない

Aで見るなら、DOE方針にもとづく予測可能な株主還元を評価し、四輪事業の技術選択の巻き返しに賭ける長期保有先になります。Bで見るなら、利益が負け越している9年間の実績と、赤字の年に自己資本を取り崩して配当を続けた2026年3月期の対応を重く見て、様子見が妥当という評価になります。 本記事はどちらが正しいかを決めるものではなく、分かれ目がここにあることを示すのが目的です。

なお、この記事は年に1回、通期決算の発表後に更新する予定です。次回はまず、四輪電動化戦略の見直しに伴う追加損失が2027年3月期にどこまで発生したか、そして2025年3月期に一度崩れた営業CFと配当金総額の関係が回復を維持しているかを確認します。

この記事の見立てが外れたと判断する条件

以下のいずれかが起きた場合、本記事の整理は前提から崩れます。買うかどうかを判断する際は、 強気材料と同じだけこちらも見てください。

  • 2027年3月期以降も2期以上連続で最終赤字となった場合。四輪電動化戦略の見直しが一過性でなく構造的な問題だったことを意味する。
  • 配当性向が2025年3月期の38.0%からさらに上がり、50%を超えて定着した場合。DOE方針があっても、配当総額を支える利益の裏付けが薄くなっていることに変わりはない。
  • 自社株買い・自己株式の消却のペースが大きく縮小した場合。9年間のEPS押し上げの寄与(推定18%)が失われ、増配ペースは利益成長のペース(2017〜2025年で年率5.8%程度)に鈍化する。
  • 営業キャッシュ・フローが再び配当金総額を下回った場合。2025年3月期に営業CF 292,152百万円に対し配当金総額307,347百万円という、CFが配当を下回る実績が一度ある。
  • 会社が減配を決定した場合。2021年3月期に一度、110.00円(前期112.00円)への減配の実績がある。

よくある質問

本田技研工業は連続増配していますか?
いいえ。本記事で確認した2017年3月期以降では、2021年3月期に前期比の減配(分割調整後37.33円→36.67円)が一度あります。その後は増配・据え置きが続き、2026年3月期は最終赤字の年にもかかわらず68.00円から70.00円へ増配しました。
本田技研工業はなぜ2026年3月期に最終赤字になったのですか?
北米で計画していた一部EVモデルの上市・開発中止を柱とする「四輪電動化戦略の見直し」に伴う特別損失と、中国の持分法投資の減損が主因です。会社は2026年3月12日、この見直しにより8,200億円〜1兆1,200億円の営業費用と1,100億円〜1,500億円の持分法投資損失が発生する見通しを開示しました。
最終赤字の年に、なぜ配当を増配できたのですか?
会社が「安定的・継続的な配当を実現するためDOE(調整後親会社所有者帰属持分配当率)を還元指標としている」と明言しているためです(2026年3月12日開示)。単年度の利益水準と配当を直接連動させない方針のため、赤字の年でも増配が可能でした。ただしこの方針は、利益の裏付けを欠いた配当が続くリスクと表裏一体です。
本田技研工業は長期保有に向いていますか?
判断材料としては、売上収益は9年間で7勝2敗と伸びが続いている一方、営業利益は3勝6敗、親会社帰属当期利益は4勝5敗と負け越しています。配当はDOE方針により9年間で128%伸びましたが、原資の43%は配当性向の引き上げ(26.9%→38.0%)によるもので、利益成長の寄与は38%にとどまります。売上の伸びを重く見るか、利益の負け越しを重く見るかで評価が分かれるため、本記事は判断材料の提示にとどめています。

参考文献・引用元

  1. 01
    本田技研工業株式会社「平成30年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」

    2018年4月27日開示。2017年3月期・2018年3月期の売上収益・営業利益・親会社の所有者に帰属する当期利益・基本的1株当たり当期利益・親会社所有者帰属持分比率・営業活動によるキャッシュ・フロー・配当の状況(DOE含む)、期末発行済株式数・期末自己株式数・期中平均株式数を参照。 / 2018/04/27 開示

  2. 02
    本田技研工業株式会社「2020年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」

    2020年5月12日開示。2019年3月期・2020年3月期の同上の各数値を参照。2021年3月期の配当予想が新型コロナウイルス感染拡大の影響で「未定」とされたことを確認。 / 2020/05/12 開示

  3. 03
    本田技研工業株式会社「2022年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」

    2022年5月13日開示。2021年3月期・2022年3月期の同上の各数値を参照。配当の支払い回数が年4回(四半期)から年2回(中間・期末)に変わったことをこの短信の配当の状況欄で確認。 / 2022/05/13 開示

  4. 04
    本田技研工業株式会社「四輪電動化戦略の見直しに伴う損失の発生および通期連結業績予想の修正に関するお知らせ」

    2026年3月12日開示。北米で生産予定であった一部EVモデルの上市・開発中止、中国の持分法投資の減損見通しなど、2026年3月期に発生する損失の内容と背景を参照。「安定的・継続的な配当を実現するためDOE(調整後親会社所有者帰属持分配当率)を還元指標としている」という配当方針の明文はここから引用。 / 2026/03/12 開示

  5. 05
    本田技研工業株式会社「2024年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」

    2024年5月10日開示。2023年3月期・2024年3月期の同上の各数値を参照。2023年10月1日の株式分割(1株→3株)の実施と、分割を考慮した場合・しない場合それぞれの配当金・EPS・株数を確認。 / 2024/05/10 開示

  6. 06
    本田技研工業株式会社「2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」

    2026年5月14日開示。2025年3月期・2026年3月期の同上の各数値、連結持分変動計算書(自己株式の取得・処分・消却の内訳)、連結キャッシュ・フロー計算書を参照。親会社所有者に帰属する当期利益が423,941百万円の損失に転落したこと、自己株式の消却1,046,188百万円を実施したことをここで確認。 / 2026/05/14 開示

  7. 07
    本田技研工業株式会社「2027年3月期 第1四半期 決算短信〔IFRS〕(連結)」

    2026年8月5日開示。株価スナップショット時点(2026年8月6日)に最も近い、通期業績予想・配当性向(68.1%への修正)を参照。 / 2026/08/05 開示