静岡ガス(9543) 経常利益+6.2%の内実。補正後は+49.7%増、営業利益は△10.4%
本記事をお読みになる前に
本記事は筆者個人の見解であり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。記載内容は有価証券報告書等の公開情報にもとづく分析ですが、正確性・完全性を保証するものではなく、将来の株価や業績を約束するものでもありません。投資判断は必ずご自身で情報を確認し、責任をもって行ってください。本記事はあくまで参考情報としてご利用ください。
生成AI利用本記事は、決算短信・有価証券報告書などの一次情報をもとに、生成AIを用いて作成・編集しています。掲載する数値は一次情報との照合を行っていますが、誤りが含まれる可能性を排除できません。重要な数値は必ず出典元の原典でご確認ください。
静岡ガス株式会社
2026/08/20 時点
株価
1,275円
時価総額
971億円
配当利回り
3.53%
年間45円
PER
10.6倍
PBR
0.68倍
ROE
6.4%
ROA
4.7%
純利益ベース
自己資本比率
72.5%
配当性向
37.2%
有利子負債
206億円
D/Eレシオ
0.15倍
有利子負債÷自己資本
※ 指標は記事執筆時点のスナップショットです。最新の数値はご自身で証券会社等の情報をご確認ください。
この記事の結論
- 2026年12月期中間期の経常利益は前年同期比+6.2%増(93億20百万円→98億95百万円)にとどまるが、会社独自の「補正後経常利益」(原料費調整制度のスライドタイムラグと為替差損益を除いたベース)では87億円→131億円と+49.7%増。伸び率の圧縮は、前年同期にあったタイムラグの追い風(+10億円)が今期は逆風(△39億円)に転じたことが主因で、実力ベースの収益力はむしろ改善している。
- 一方、営業利益は前年同期比△10.4%減(98億54百万円→88億28百万円)であり、これは実態としての減益。グッドリビング等の連結子会社化による増収要因はあったものの、原料費調整によるガス販売単価の下方調整と販管費の増加(+6.8%)がそれを上回って利益を圧迫した。
- 通期業績予想は無修正(売上高2,011億30百万円、経常利益104億20百万円、純利益91億10百万円、いずれも前期比減益予想)だが、配当予想だけは44円から45円へ1円増額修正された。累進的配当・DOE・配当性向3割を組み合わせた配当方針のもとで、2023年12月期から4年連続で期初予想を上回る増額修正が続いている。
- 自己資本比率は67.0%(2025年12月末)から72.5%(2026年6月末)へ上昇した一方、有利子負債も17,982百万円から20,632百万円へ増加し、D/Eレシオは0.137倍から0.146倍とわずかに上昇した。財務健全性は高い水準を維持しているが、成長投資(海外エネルギー事業等)の拡大にともなう有利子負債の増加傾向には留意したい。
目次11項目
1. 概要
2026年8月20日時点で、株価1,275円・PER10.55倍(会社予想EPS120.89円ベース)・PBR0.68倍・ROE6.44%・予想配当利回り3.53%・自己資本比率72.5%という水準です。
2026年8月5日に発表された2026年12月期中間期(2026年1月〜6月)決算では、経常利益が前年同期比+6.2%増の98億95百万円となりました。一見すると小幅な増益ですが、会社が決算補足説明資料で独自に開示している「補正後経常利益」(原料費調整制度のタイムラグと為替差損益の影響を除いたベース)で見ると、+49.7%増という大幅な伸びです。なぜ見出しの伸び率と実態がこれほど乖離するのか、第4節で詳しく見ていきます。
一方、当中間期の営業利益は前年同期比△10.4%減の88億28百万円でした。原料費調整制度によるガス販売単価の下方調整が主因で、経常利益段階の好調さとは対照的な結果です。段階ごとに評価が分かれる決算であることを、まずお伝えしておきます。
通期の業績予想(売上高2,011億30百万円、経常利益104億20百万円、純利益91億10百万円、いずれも前期比減益)は今回の決算発表でも修正されていませんが、配当予想だけは年間44円から45円へ1円増額されました。この配当政策については第5節で扱います。
2. 会社概要とビジネスモデル
静岡ガスは静岡県を地盤とする都市ガス事業者です。祖業のガス事業(家庭用・業務用・工業用への都市ガス供給と、他ガス事業者への卸供給)が売上の中心で、2026年12月期中間期の外部売上高に占める比率は74.0%です。これにLPG・その他エネルギー事業(15.6%)、受注工事・ガス機器販売・住宅リフォーム・リース等の「その他」事業(10.4%)が続きます。
近年は、グッドリビング株式会社の連結子会社化や、SHIZUOKA GAS AMERICA.COの事業開始など、グループ再編・海外展開を進めています。2026年7月には、LNG事業会社MidOcean Energy(EIGが設立・運営)へ総額1億米ドルの出資(うち62百万米ドルを実行済み)を行うなど、天然ガス・LNGの上流から下流までのバリューチェーン拡大にも動いています。
強みと弱みの整理
強み
規制色の強い都市ガス事業という安定した収益基盤
静岡県内で都市ガスの供給網(導管)を保有し、地域独占に近い事業構造を持ちます。2026年12月期中間期のお客さま数は362,248戸で前年同期比0.1%の微増と安定しており、同中間期の工業用ガス販売量は前年同期比+1.0%、卸供給は同+2.7%と伸びました。
累進的配当(減配しない)を明示した株主還元方針
配当方針として累進的配当・株主資本配当率(DOE)・配当性向3割を組み合わせて掲げており、2023年12月期以降は4年連続で期初予想を上回る配当に着地・修正されています。今回の中間決算でも、業績予想は据え置いたまま配当予想だけを44円から45円へ増額しました。
高い自己資本比率と低いD/Eレシオ
2026年6月末の自己資本比率は72.5%(2025年12月末67.0%から上昇)。有利子負債20,632百万円に対し自己資本141,389百万円と、D/Eレシオ(有利子負債÷自己資本)は0.146倍にとどまり、財務的な安全性は高い水準です。
弱み
原料費調整制度のタイムラグに業績が左右される
原料費(LNG価格・為替等)の変動を数か月遅れで販売単価に反映する制度のため、価格が急変する局面では利益が振れます。当中間期は営業利益が前年同期比△10.4%減となり、原料費調整による単価の下方調整が主因の一つです。
規模の小ささゆえの海外投資の重み
時価総額971億円(2026年8月20日時点)に対し、LNG事業会社MidOcean Energyへの出資は総額1億米ドル規模です。会社自身も業績への影響を「現在精査中」としており、投資回収やリスクの見通しはまだ明確ではありません。
純利益段階での税負担の重さ
当中間期の実効税率は29.7%(前年同期20.7%から上昇)となり、経常利益が増益でも純利益は前年同期比△2.9%の減益にとどまりました。
3. 業績の推移
数値で確認する
| 決算期 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 純利益 | 営業CF | 自己資本比率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2021/12 | 132,988 | 4,989 | 6,474 | 4,115 | -6,909 | 69.6% |
| 2022/12 | 207,325 | 8,629 | 9,491 | 5,975 | 4,116 | 58.2% |
| 2023/12 | 214,004 | 18,340 | 20,064 | 14,107 | 37,755 | 69.4% |
| 2024/12 | 202,237 | 10,302 | 13,083 | 8,776 | 10,977 | 69.4% |
| 2025/12 | 201,207 | 14,072 | 14,769 | 10,048 | 34,560 | 67.0% |
| 2026/12会社予想 | 201,130 | 9,620 | 10,420 | 9,110 | — | — |
この表から読み取れることは3つあります。
1つ目は、2022年12月期の売上高急増と、2023年12月期の利益急拡大です。 2022年12月期の売上高は前期比+55.9%と急増し、2023年12月期にかけては経常利益が前期比+111.4%、純利益は同+136.1%とさらに拡大しました。エネルギー価格(LNG・原油)の高騰が影響したとみられますが、有価証券報告書等で確認できる範囲を超えるため、詳細な要因までは特定できませんでした。
2つ目は、2024年12月期にかけての反動減です。 経常利益は2023年12月期の200億64百万円から2024年12月期は130億83百万円へ34.8%減少し、純利益も141億07百万円から87億76百万円へ37.8%減少しました。2023年12月期の水準がエネルギー価格高騰による一時的な押し上げだったとすれば、2024年12月期にかけての落ち込みは正常化の過程と見ることができます。
3つ目は、自己資本比率と営業キャッシュ・フローの振れ幅の大きさです。 自己資本比率は2021年12月期の69.6%から2022年12月期は58.2%まで11.4ポイント低下し、その後69%台へ回復、2025年12月期は67.0%です。営業キャッシュ・フローも、2021年12月期は△69億09百万円とマイナスだった一方、2023年12月期は377億55百万円まで拡大しており、年によって大きく振れています。良い時期だけでなく、こうした変動の大きさも踏まえておく必要があります。
なお、2026年12月期は会社予想で減益(営業利益前期比△31.6%、経常利益同△29.4%、純利益同△9.3%)です。中間期時点の実態がどう評価できるかは、次の第4節で詳しく扱います。
4. 経常利益+6.2%の内実 ― 補正後は+49.7%増、その差はどこから来るか
2026年12月期中間期の決算短信を見出しだけで読むと、経常利益は前年同期比+6.2%増(93億20百万円→98億95百万円)という小幅な増益に見えます。しかし、会社が決算補足説明資料で独自に開示している「補正後経常利益」を見ると、印象が大きく変わります。
| 項目 | 2025年中間期 | 2026年中間期 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 補正後 経常利益 | 87億円 | 131億円 | +43億円(+49.7%) |
| 補正前 経常利益(決算短信の経常利益) | 93億円 | 98億円 | +5億円(+5.4%) |
| うちスライドタイムラグ | +10億円 | △39億円 | △49億円 |
| うち為替差損益(匿名組合投資分) | △4億円 | +7億円 | +11億円 |
出典:決算補足説明資料(億円未満切捨てのため、決算短信の経常利益98億95百万円とはわずかな丸め差がある)
会社の「補正後経常利益」は、決算短信の経常利益から「スライドタイムラグ」(原料費調整制度による価格転嫁の時間差の影響)と「為替差損益」(匿名組合を通じた海外投資分)の2つを除いたベースです。これで見ると、当中間期の経常利益は前年同期比+49.7%増という大幅な伸びになります。
この差を生んでいるのは、主にスライドタイムラグの符号が反転したことです。前年同期(2025年中間期)はスライドタイムラグが+10億円のプラスに寄与していましたが、当中間期は逆に△39億円のマイナスに転じました。その差は△49億円で、これがそのまま補正前・補正後の経常利益の伸び率の差に直結しています。一方、為替差損益(匿名組合投資分)は前年同期の△4億円から当中間期は+7億円へと改善し、+11億円のプラス材料になりました。
スライドタイムラグと、決算短信の定性的説明にある「原料費調整制度によるガス販売単価の下方調整」は、同じ制度に起因する現象です。原料費調整制度は、LNG・原油等の原料費の変動を数か月遅れでガス販売単価に反映する仕組みで、当中間期は原料価格の変動に対して販売単価の調整が追いついていない局面(あるいは、過去に上振れた原料費転嫁の反動)にあったとみられます。この制度は、売上高・営業利益の段階では「単価の下方調整」という形で圧迫要因として現れ(当中間期の売上高は前年同期比△0.5%、営業利益は同△10.4%)、経常利益の段階では「スライドタイムラグ」という会社独自の調整項目として、前年同期の追い風から今期の逆風への反転という形で現れています。つまり、同じ制度の異なる現れ方であって、矛盾する話ではありません。
当中間期の営業利益(本業の粗利ベース)は、原料費調整による単価下落と販管費増加(前年同期比+6.8%、146億39百万円→156億35百万円)が重なり、実態として前年同期比△10.4%の減益でした。グッドリビング等の連結子会社化やSHIZUOKA GAS AMERICA.COの事業開始による増収効果はあったものの、単価下落と費用増加の圧迫がそれを上回った形です。
まとめると、この中間決算は評価が段階によって分かれます。営業利益は原料費調整による単価下落等が重なり、実態としての減益です。一方、経常利益は見出し上+6.2%増にとどまりますが、これは前年同期にあった一時的な追い風の反動という要因が大きく、それを除いた実力ベース(補正後経常利益)では+49.7%増という強い伸びを示しています。「営業利益は弱い、経常利益は見た目より強い」という、単純に一方向では語れない決算だという点を押さえておく必要があります。
5. 配当の推移
| 決算期 | 期初予想 | 年間配当 | 期初比 | 配当性向 |
|---|---|---|---|---|
| 2021/12 | 18円 | 18円 | 0円 | — |
| 2022/12 | 19円 | 19円 | 0円 | — |
| 2023/12 | 20円 | 25円 | +5円 | — |
| 2024/12 | 26円 | 40円 | +14円 | — |
| 2025/12 | 41円 | 43円 | +2円 | 32.2% |
| 2026/12会社予想 | 44円 | 45円 | — | 37.2% |
- 2023/12:期初20円予想→中間10円・期末15円で実績25円に着地。期初比+25.0%。
- 2024/12:期初26円予想→期中に40円(中間13円・期末27円)へ修正、実績40円で着地。期初比+53.8%。
- 2025/12:期初41円予想→42円→43円(中間20.50円・期末22.50円)と2段階で増額。期初比+4.9%。
- 2026/12:期初44円予想を、今回の中間決算にあわせて45円(中間22.00円・期末23.00円予想)へ増額修正。通期の利益予想は据え置いたままの配当上方修正で、現時点で期初比+2.3%。
静岡ガスの配当方針は、累進的配当(原則として減配しない)・株主資本配当率(DOE)・配当性向3割を目安水準とする組み合わせです。DOEは2025年12月期の2.60%から2026年12月期(予想)は2.63%、配当性向は32.2%から37.2%への上昇が見込まれています。
表からわかるとおり、2023年12月期以降は4年連続で、期初予想に対して配当が上方修正されて着地(または修正)しています。期初予想に対する上振れ率は、2023年12月期+25.0%、2024年12月期+53.8%、2025年12月期+4.9%でした。2026年12月期は現時点(今回の中間決算での修正)で+2.3%(44円→45円)の上方修正が発生済みです。
特筆すべきは、今回の中間決算では業績(利益)予想が据え置かれた一方、配当予想だけが44円から45円へ引き上げられた点です。通期の経常利益・純利益予想は無修正のままなので、この増配は業績の上振れを反映したものではなく、配当性向3割という目安水準に近づけるための調整とみられます。
会社が配当予想を明示的に開示しているため、予想配当利回り3.53%(45円÷株価1,275円)はそのまま使える数字です。ただし、期中の上方修正が常態化している会社であることを踏まえると、この45円という予想も、期末にかけてさらに修正される可能性は排除できません。
6. 会社の現状と直近の動き
セグメント別に見ると、増益・減益がはっきり分かれています。
| セグメント | 2025年中間期 外部売上高 | 2026年中間期 外部売上高 | 2025年中間期 セグメント利益 | 2026年中間期 セグメント利益 |
|---|---|---|---|---|
| ガス | 81,914 | 76,276 | 10,334 | 8,946 |
| LPG・その他エネルギー | 15,323 | 16,066 | 1,269 | 1,686 |
| その他 | 6,369 | 10,723 | 306 | 129 |
| 全社費用等調整額 | - | - | △2,056 | △1,933 |
| 連結計 | 103,607 | 103,066 | 9,854 | 8,828 |
単位:百万円。出典:決算短信セグメント情報
当中間期のガスセグメントは、外部売上高が前年同期比△6.9%、セグメント利益は同△13.4%でした。第4節で見た原料費調整によるガス販売単価の下方調整が、主力セグメントの利益を直接圧迫した形です。一方、当中間期のLPG・その他エネルギー事業は外部売上高が前年同期比+4.8%、セグメント利益は同+32.9%と伸びています。当中間期の「その他」事業(受注工事・ガス機器販売・リフォーム・リース等)は、グッドリビング等の連結子会社化を主因に外部売上高が前年同期比+68.4%と大きく伸びましたが、セグメント利益は同△57.8%の減益でした。増収減益となった具体的な理由は、決算資料からは特定できませんでした。
財政状態にも触れておきます。2026年6月末の総資産は194,930百万円、自己資本比率は72.5%(2025年12月末67.0%から改善)です。有利子負債(社債・長短借入金・1年以内に期限到来の固定負債の合計、決算短信のBS内訳から本記事側で算出)は2025年12月末の17,982百万円から2026年6月末は20,632百万円へ増加し、D/Eレシオ(有利子負債÷自己資本)は0.137倍から0.146倍へわずかに上昇しました。内訳は、社債が5,000百万円から5,050百万円、長期借入金が10,322百万円から11,382百万円、短期借入金が227百万円から1,662百万円、1年以内に期限到来の固定負債が2,433百万円から2,538百万円と、いずれも増加しています。決算補足説明資料によれば、当中間期のキャッシュアウトには成長投資50億円(海外事業での新規井戸掘削、電力・再エネ事業でのガスエンジン増設・系統用蓄電池・PV設備、くらしサービス事業での共同開発・共和不動産の株式取得等)とレジリエンス投資等30億円(都市ガス導管への投資、吉田ガスの株式取得等)が含まれており、これらの投資と借入金返済10億円を合わせた資金需要が、有利子負債の増加につながったとみられます。ただし、個々の借入と個々の投資案件を直接対応させる記載は決算資料にはなく、対応関係を断定することはできません。
なお、IR BANKが集計する有利子負債(2025年12月末15,500百万円)は、本記事が決算短信のBS内訳から算出した値(同17,982百万円)と一致しません。集計対象の範囲(1年以内に期限到来の固定負債を含めるかどうか等)の定義差とみられます。
重要な後発事象として、静岡ガスは2026年7月30日、LNG事業会社MidOcean Energyへ、総額1億米ドルの出資のうち62百万米ドルを実行しました。天然ガス・LNGの上流から下流までのバリューチェーンを国内外で拡大する狙いですが、会社自身が「2026年12月期の連結業績に与える影響は現在精査中」としており、業績への織り込みはこれからです。時価総額971億円(2026年8月20日時点)の同社にとって、1億米ドルは決して小さくない投資規模です。海外事業としてはこのほかに北米シェールガス開発事業も継続しており、成長投資50億円の一部として新規井戸掘削への投資が続いています。
7. 業界とセクターの状況
都市ガス事業は、導管という地域独占に近いインフラ資産の上に成り立つ規制色の強い事業です。ガス料金のうち託送料金部分は国の認可を必要とし、事業者が自由に価格を決められる範囲には制約があります。原料費調整制度は、LNG・原油価格や為替の変動を数か月遅れで販売単価に反映する仕組みで、これは静岡ガスに限らず都市ガス事業者全体に共通する構造です。第4節で見たスライドタイムラグの反転も、この制度に組み込まれた性質であり、個社の努力で避けられるものではありません。
2017年の都市ガス小売全面自由化以降は、電力会社や新規参入者との顧客獲得競争にもさらされています。当中間期の家庭用・業務用の販売量はそれぞれ前年同期比△4.6%・△5.6%と減少している一方、お客さま数自体は362,248戸と前年同期比0.1%の微増でした。販売量減少が気温要因によるものか競争要因によるものかは、決算資料からは切り分けられません。工業用・卸供給の販売量はそれぞれ前年同期比+1.0%・+2.7%と増加しており、地域の産業需要に一定支えられている面もあります。
こうした規制色の強い事業構造は、株主還元の安定性(累進的配当方針など)の裏付けになる一方、料金転嫁のタイムラグという制約を常に抱えている、という点はセクター共通の特徴です。
8. 今後のスケジュール
2026年12月期 第3四半期 決算発表
2026年12月期 通期 決算発表
過去の発表時期からの推定
2027年12月期 第1四半期 決算発表
過去の発表時期からの推定
2027年12月期 第2四半期(中間) 決算発表
過去の発表時期からの推定
9. 想定されるカタリスト
「補正後経常利益」の伸び(当中間期+49.7%)が第3四半期以降も続くか、原料費調整のスライドタイムラグの反転が一過性で終わるかを確認する最初の機会。通期業績予想の修正有無もあわせて公表される見込み。
原料費調整制度により価格転嫁には数か月のタイムラグがある。当中間期はこのタイムラグの反転(前年同期+10億円→今期△39億円)が経常利益の伸びを圧縮した主因であり、今後の資源価格・為替次第でタイムラグの符号は再び反転しうる。
会社は「2026年12月期の連結業績に与える影響は現在精査中」としている。時価総額971億円の同社にとって金額的にはまとまった規模の海外投資であり、今後の開示が待たれる。
2023年12月期以降4年連続で配当予想が期中に上方修正されている。今回の中間決算でも44円→45円への修正が既に発生しており、期末にかけてさらに修正が入るかが焦点。
10. 想定されるリスク
利益の質・タイムラグ反転のリスク。 第4節で見たとおり、当中間期の経常利益+6.2%増は、実力ベース(補正後経常利益)では+49.7%増という強い伸びに支えられています。裏を返せば、スライドタイムラグが今後さらに逆風方向に振れれば、経常利益はより大きく圧迫される可能性があります。原料価格・為替の動向次第で、このタイムラグの符号は今後も変わり得ます。
営業利益の実態としての減益。 当中間期の営業利益は前年同期比△10.4%減でした。既存事業の収益力は原料費調整による単価下方修正と販管費増加の影響を受けており、通期の会社予想でも営業利益は前期比△31.6%の大幅減益を見込んでいます。この下振れ傾向が続く可能性があります。
海外投資の不確実性。 MidOcean Energyへの1億米ドル出資は、会社自身が業績への影響を「現在精査中」としているとおり、収益貢献・リスクともに現時点では見通せません。北米シェールガス開発事業とあわせ、資源価格・為替の変動に業績が左右される範囲が今後広がる可能性があります。
税負担率の上昇。 実効税率は前年同期の20.7%から当中間期は29.7%へ上昇し、経常利益の増益幅(+6.2%)に対して純利益は前年同期比△2.9%の減益となりました。前年同期の低い税負担率が特殊要因だった可能性があり、今後の税負担の水準は不透明です。
「その他」事業の増収減益。 当中間期の「その他」セグメントは外部売上高が前年同期比+68.4%と大きく伸びた一方、セグメント利益は同△57.8%の減益でした。増収減益の理由は決算資料からは特定できませんでしたが、この構造が続けば収益性の面で懸念材料になり得ます。
11. まとめ:どう判断材料にするか
静岡ガスは、静岡県内で都市ガス供給網を持つ地域基盤の強い会社です。当中間期の決算は、見出しの数字だけを見ると経常利益+6.2%増・営業利益△10.4%減という、方向感の掴みにくい内容でした。しかし段階を分けて見ると、営業利益ベースでは原料費調整による単価下方修正が実際に利益を圧迫している一方、経常利益ベースでは会社独自の「補正後経常利益」で+49.7%増という強い実力を示しています。
判断の分かれ目は、この「補正後経常利益」の伸びをどこまで実力として評価するかです。スライドタイムラグの反転(前年同期+10億円→当中間期△39億円)を一時的な会計上のブレと見るなら、経常利益の実態は着実に改善していると評価できます。逆に、原料費調整のタイムラグは今後も方向感が読みにくく、次に逆方向へ振れる可能性もゼロではないと見るなら、+49.7%という伸び率を額面どおりには評価しにくくなります。
もう一つの分かれ目は、業績予想を据え置いたまま配当予想だけを44円から45円へ引き上げたことをどう見るかです。累進的配当・DOE・配当性向3割という配当方針に沿った調整と見るなら自然な動きですが、4年連続の期中上方修正という癖を踏まえると、期末にかけてさらなる修正がある可能性も、逆に据え置かれる可能性も、どちらも排除できません。
次の確認ポイントは、2026年11月11日に予定される第3四半期決算です。補正後経常利益の伸びが継続しているか、通期業績予想・配当予想に修正が入るかを確認してください。
この記事の見立てが外れたと判断する条件
以下のいずれかが起きた場合、本記事の整理は前提から崩れます。買うかどうかを判断する際は、 強気材料と同じだけこちらも見てください。
- 2026年12月期通期の経常利益が会社予想104億20百万円を明確に下回り、補正後経常利益の伸び(+49.7%)が中間期限りの一時的なものだったと判明した場合。
- 営業利益が通期予想96億20百万円をさらに下回り、原料費調整のタイムラグ以外の構造的な収益力低下(顧客離反や採算悪化など)が確認された場合。
- 通期配当が予想45円を下回って着地した場合、または「減配しない」累進的配当方針自体が撤回・修正された場合。
- MidOcean Energyへの出資やシェールガス開発事業で、資源価格の急落・減損等により追加の損失が計上され、有利子負債・D/Eレシオが大きく悪化した場合。
参考文献・引用元
- 01静岡ガス株式会社 2026年12月期 第2四半期(中間)決算短信〔日本基準〕(連結)
2026年8月5日発表。連結経営成績、中間連結損益計算書の内訳、配当の状況、通期業績予想、連結貸借対照表、セグメント情報、キャッシュ・フロー、重要な後発事象(MidOcean Energyへの出資)を参照。有利子負債(20,632百万円)は貸借対照表の社債・長短借入金・1年以内に期限到来の固定負債を本記事側で合算して算出したもので、決算短信に会社独自の合計額の明記があるわけではない。
- 02静岡ガス株式会社 2026年12月期 第2四半期 決算補足説明資料
2026年8月5日発表。会社独自の「補正後経常利益」(スライドタイムラグ・為替差損益を除いたベース)、配当方針(累進的配当・DOE・配当性向)、キャッシュアロケーション、通期見通しを参照。同資料の金額は億円未満切捨てのため、決算短信の百万円単位の数値とはわずかな丸め差がある。
- 03IR BANK「静岡ガス(9543) 決算まとめ/キャッシュフロー/配当金の推移」
通期業績・自己資本比率・キャッシュ・フローの過年度推移(2021年12月期〜2025年12月期)、配当の期初予想・修正・実績の履歴、株価指標を、有価証券報告書・決算短信を集計した二次情報として参照した(2026年8月20日時点の表示)。同サイトが集計する有利子負債(2025年12月末15,500百万円)は、本記事が決算短信のBS内訳から算出した値(同17,982百万円)と一致しない。集計対象の範囲の定義差とみられる。
- 04kabutan「静岡ガス(9543)」株価情報
2026年8月20日終値1,275円(前日比+9円)、出来高等の株価データを参照。