東京電力HD(9501) 柏崎刈羽6号機再稼働も経常減益88.7%の内実
本記事をお読みになる前に
本記事は筆者個人の見解であり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。記載内容は有価証券報告書等の公開情報にもとづく分析ですが、正確性・完全性を保証するものではなく、将来の株価や業績を約束するものでもありません。投資判断は必ずご自身で情報を確認し、責任をもって行ってください。本記事はあくまで参考情報としてご利用ください。
生成AI利用本記事は、決算短信・有価証券報告書などの一次情報をもとに、生成AIを用いて作成・編集しています。掲載する数値は一次情報との照合を行っていますが、誤りが含まれる可能性を排除できません。重要な数値は必ず出典元の原典でご確認ください。
東京電力ホールディングス株式会社
2026/09/01 時点
株価
572.3円
時価総額
9,172億円
配当利回り
0.00%
年間0円
PBR
0.27倍
ROE
-12.7%
ROA
2.7%
経常利益ベース
自己資本比率
22.1%
※ 指標は記事執筆時点のスナップショットです。最新の数値はご自身で証券会社等の情報をご確認ください。
この記事の結論
- 2027年3月期第1四半期は、経常利益が前年同期比88.7%減の114億27百万円にとどまりました。一方で親会社株主純利益の赤字幅は前年同期の8,576億90百万円から97億93百万円へ縮小しています。この改善は前年同期に計上された原子力損害賠償の見積り期間延長に伴う特別損失(うち災害特別損失9,030億円)の反動によるもので、恒常的な収益力を示す経常利益ベースでは大幅な減益であることに注意が必要です。
- 2026年4月16日、柏崎刈羽原子力発電所6号機が福島第一原発事故後はじめて営業運転を開始しました。当第1四半期の原子力設備利用率は17.1%(前年同期0%)、原子力発電電力量は28.7億kWhです。ただし今期の増益要因の中心はHDセグメントの受取配当金増加(JERA等から+1,171億円)で、原子力再稼働そのものによる燃料費削減効果がPG・EPセグメントの減益(燃料・卸電力価格高騰による調達費増)を打ち消すには至っていません。再稼働の効果がフルに表れるのはこれからだと見られます。
- 配当は普通株式・優先株式とも2027年3月期(予想)まで無配が継続しています。2027年3月期の業績予想自体が、中東情勢等による燃料価格見通しの不透明さを理由に「未定」とされており、通常は通期予想を開示する大企業としては異例の状態です。
- 有利子負債の内訳とD/Eレシオは、今回入手した一次資料(決算短信・決算説明資料)からは特定できませんでした。自己資本比率は2026年3月末21.8%から2026年6月末22.1%へ小幅に改善しています。
目次11項目
1. 概要
2026年9月1日時点で、株価572.3円・PBR0.27倍(2026年6月末BPS 2,118.78円ベース)・自己資本比率22.1%・予想配当利回り0%(無配)という水準です。直近の連結純利益が赤字のためPERは算出していません。時価総額は株価572.3円と発行済株式数(自己株式控除後、約16.03億株)から算出すると約9,172億円になります(会社発表の時価総額ではなく、記事執筆時点の株価から算出した値です)。
2026年7月29日に発表された2027年3月期第1四半期(2026年4月〜6月)決算では、経常利益が前年同期比88.7%の大幅な減益となりました。一方で親会社株主に帰属する四半期純利益は、赤字額が前年同期の8,576億90百万円から97億93百万円へ大きく縮小しています。「純利益の赤字が縮小した=業績が改善した」と読むのは正確ではなく、この差がどこから来ているのかが第4節で最初に確認すべき論点です。
あわせて、この四半期は2026年4月16日に柏崎刈羽原子力発電所6号機が営業運転を開始し、福島第一原子力発電所事故後、東京電力として初めて原発が再稼働した後の最初の四半期でもあります。再稼働が業績にどこまで寄与しているのか、電気料金の原料費調整という仕組みとあわせて第4節・第6節・第7節で見ていきます。配当は無配が継続しており、2027年3月期の業績予想自体が「未定」という珍しい状態にある点も第5節で扱います。
2. 会社概要とビジネスモデル
東京電力ホールディングスは、関東地方を中心に電力を供給する日本最大級の総合電力グループです。持株会社(HD)の下に、事業ごとに会社を分社化した体制を取っており、決算のセグメントは大きく5つに分かれます。
- PG(送配電):送配電網の運営。地域独占的なインフラ資産で、他の電力小売事業者にも網を使わせる規制色の強い事業です。
- EP(小売電気):家庭用・法人向けの電力小売。電力小売全面自由化以降、新電力等との競争にさらされています。
- FP(燃料・火力):LNG・石炭等の燃料調達と火力発電、国内ガス事業や海外・再生可能エネルギー発電事業を含みます。
- RP(再生可能エネルギー):再エネ発電・卸電力販売。
- HD(持株会社):グループ全体の管理に加え、JERA(火力発電の共同出資会社)など持分法適用会社からの受取配当金が計上されます。
福島第一原子力発電所事故(2011年)以降、原子力損害賠償・廃炉費用の負担が経営の最大の制約になっており、これが自己資本や配当政策に長く影響してきました。2026年4月には柏崎刈羽原子力発電所6号機が事故後初めて営業運転を再開し、原子力発電の再稼働という新しい変数が加わっています。
強みと弱みの整理
強み
地域独占的な送配電インフラ
PGセグメントは送配電網という代替の効かないインフラ資産を運営しており、他の電力小売事業者からの託送収入という規制下の安定した収益源を持ちます。
柏崎刈羽6号機の再稼働という新しい燃料費削減要因
2026年4月16日の営業運転開始により、当第1四半期の原子力設備利用率は17.1%(前年同期0%)、原子力発電電力量は28.7億kWhとなりました。稼働がさらに安定すれば、火力燃料費の削減余地があります。
JERA等の持分法投資からの安定した受取配当金
当第1四半期はHDセグメントの経常利益が前年同期比+1,397億円と大きく増加しましたが、その主因はJERA等からの受取配当金の増加(+1,171億円)でした。原子力再稼働以外にも、こうした持分法投資からのキャッシュ収入が利益の下支えになっています。
弱み
燃料・卸電力価格や為替の変動を大きく受ける
当第1四半期は為替が159.6円/ドル(前年同期144.6円/ドル)、原油が112.7ドル/バレル(前年同期75.2ドル/バレル)といずれも悪化し、EP・PGセグメントの調達費用を押し上げました。原料費調整のタイムラグの中で、会社が一時的にコスト変動を吸収する構造です。
原子力損害賠償・廃炉費用の負担と特別損失計上リスク
前年同期(2025年4〜6月期)には、原子力損害賠償の見積り期間延長に伴い9,030億円もの災害特別損失が計上されました。当第1四半期もなお156億円の原子力損害賠償費を特別損失に計上しており、この負担は今後も継続的に発生し得ます。
配当は無配継続、通期業績予想も「未定」
普通株式・優先株式とも2027年3月期(予想)まで無配です。2027年3月期の業績予想自体が中東情勢等による燃料価格見通しの不透明さを理由に「未定」とされており、通常は通期予想を開示する大企業としては異例の状態が続いています。
3. 業績の推移
数値で確認する
| 決算期 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 純利益 |
|---|---|---|---|---|
| 2022/03 | 5,309,900 | 46,230 | 42,245 | 2,916 |
| 2023/03 | 8,112,200 | -228,969 | -285,393 | -123,631 |
| 2024/03 | 6,918,300 | 278,856 | 425,525 | 267,850 |
| 2025/03 | 6,810,391 | 234,452 | 254,443 | 161,278 |
| 2026/03 | 6,328,574 | 337,689 | 417,326 | -454,263 |
この表から読み取れることは3つあります。
1つ目は、2023年3月期が突出した異常値の年だったことです。 売上高は前期比52.8%増加して8兆1,122億円まで膨らみましたが、営業利益・経常利益・純利益はいずれも大幅な赤字に転落しました。ウクライナ侵攻後のエネルギー価格急騰の影響を受けたとみられ、燃料費の高騰に料金転嫁が追いつかなかった一時的な年だったことがうかがえます。
2つ目は、2024年3月期にかけて損益が急速に正常化したことです。 売上高は前期比14.7%減少した一方、営業利益・経常利益・純利益はいずれも大幅な黒字に転換しました。2023年3月期の落ち込みが底だったことが分かります。2025年3月期には売上高が横ばい(前期比1.6%減)となる一方、営業利益は前期比15.9%減、経常利益は同40.2%減、純利益は同39.8%減と、利益は再び縮小しています。
3つ目は、2026年3月期に営業利益・経常利益と純利益が逆方向に動いたことです。 営業利益は前期比44.0%増、経常利益は同64.0%増と本業の収益力は改善した一方、純利益は前期の黒字1,612億78百万円から一転して赤字4,542億63百万円に転落しました。この「経常利益は増益なのに純利益は大幅赤字」という組み合わせは、第4節で見る当第1四半期の減益(今回は逆方向の乖離)とも根が同じ構図です。
4. 柏崎刈羽6号機の再稼働と、純利益からは見えない経常減益88.7%の実態
当第1四半期の決算は、2つのことを同時に押さえないと実態を見誤ります。1つは柏崎刈羽原子力発電所6号機の再稼働、もう1つは純利益と経常利益が逆方向に動いていることです。
原発再稼働は始まったが、まだ利益の押し上げ役ではない
経済産業省資源エネルギー庁によれば、2026年4月16日に柏崎刈羽原子力発電所6号機が営業運転を開始しました。福島第一原子力発電所事故後、東京電力の原子力発電所が再稼働するのはこれが初めてです。 約14年にわたる稼働停止の間、東京電力は安全対策工事や原子力災害対策の強化を進めてきました。
当第1四半期は、この再稼働が数字に初めて表れた四半期です。原子力設備利用率は17.1%(前年同期0%)、原子力発電電力量は28.7億kWh(前年同期はほぼゼロ)となり、水力(29.7億kWh、前年比87.0%)・火力(0.3億kWh、前年比93.5%)とあわせた発電電力量合計は58.9億kWhと、前年同期の34.7億kWhから69.8%増加しました。
しかし、原子力再稼働そのものが今期の利益を押し上げたかというと、セグメント別の経常損益を見る限りそうとは言えません。 当第1四半期のセグメント別経常損益は次のとおりです。
| セグメント | 前第1四半期(2025/4-6) | 当第1四半期(2026/4-6) | 増減 | 主因 |
|---|---|---|---|---|
| HD(持株会社) | 1,629億円 | 3,027億円 | +1,397億円 | JERA等からの受取配当金の増加(+1,171億円) |
| FP(燃料・火力) | 394億円 | 566億円 | +172億円 | 国内火力・ガス事業や海外・再エネ発電事業の利益増加 |
| PG(送配電) | 224億円 | △312億円 | △537億円 | 需給調整に係る費用の増加など |
| EP(小売) | 306億円 | △509億円 | △815億円 | 販売電力量の減少・調達単価の増加 |
| RP(再エネ) | 235億円 | 281億円 | +45億円 | 卸電力販売の増加 |
| 調整額 | △1,778億円 | △2,940億円 | △1,162億円 | ー |
| 連結経常利益 | 1,012億円 | 114億円 | △898億円(△88.7%) | ー |
出典:2026年度第1四半期決算説明資料(2026年7月29日公表)
原子力の増加分が主に含まれるはずのHDセグメントの増益(+1,397億円)は、実際にはJERA等からの受取配当金の増加(+1,171億円)が中心で、原子力発電による燃料費削減効果とは別の要因です。一方でEPセグメント(小売)は815億円の減益、PGセグメント(送配電)も537億円の減益となっており、燃料・卸電力市場価格の高騰(原油112.7ドル/バレル、前年同期75.2ドル/バレル)と円安(159.6円/ドル、前年同期144.6円/ドル)に伴う調達費用の増加を、原子力再稼働による燃料費削減効果が打ち消すには至っていません。「原発は動き始めたが、まだ利益の押し上げ役ではない」というのが当第1四半期の実態に近い姿です。 6号機の稼働期間はこの四半期の一部にとどまるため、再稼働のフルな寄与を見るには次の四半期以降の実績を待つ必要があります。
純利益の赤字縮小は、前年の特別損失の反動にすぎない
もう一つの論点は、純利益と経常利益が逆方向に動いていることです。
| 項目 | 前第1四半期(2025/4-6) | 当第1四半期(2026/4-6) | 前年同期比 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 1兆4,251億23百万円 | 1兆4,811億97百万円 | +3.9% |
| 営業利益 | 646億99百万円 | △342億70百万円 | ー(黒字→赤字転落) |
| 経常利益 | 1,012億75百万円 | 114億27百万円 | △88.7% |
| 親会社株主に帰属する四半期純利益 | △8,576億90百万円 | △97億93百万円 | ー(赤字幅縮小) |
出典:決算短信(2026年7月29日発表、2026年8月13日レビュー完了版)
当第1四半期の親会社株主純利益は赤字幅が8,576億90百万円から97億93百万円へ大きく縮小しており、見出しだけを見ると業績が大きく改善したように映ります。しかし、これは決算説明資料の特別損益の内訳を見ると理由がはっきりします。
| 項目(億円) | 前第1四半期(2025/4-6) | 当第1四半期(2026/4-6) | 増減 |
|---|---|---|---|
| 特別損失 | 9,549 | 156 | △9,392 |
| うち災害特別損失 | 9,030 | ー | △9,030 |
| うち原子力損害賠償費 | 519 | 156 | △362 |
| 特別損益 | △9,549 | △156 | +9,392 |
出典:2026年度第1四半期決算説明資料
前年同期(2025年4〜6月期)には、原子力損害賠償に関する「出荷制限指示等による損害、風評被害および間接損害等その他に係る見積額の算定期間延長による増加等」を理由に、9,030億円という巨額の災害特別損失が一時的に計上されていました。 当第1四半期はこの反動がなくなったために赤字幅が縮小しただけで、経常利益ベースでは前年同期比88.7%の大幅な減益です。「純利益の赤字が縮小した=業績が改善した」という読み方は正確ではありません。 恒常的な収益力に近い経常利益で見れば、当第1四半期はむしろ悪化しています。
同じ構図は前期(2026年3月期)通期でも起きています。第3節で見たとおり、2026年3月期は経常利益が前期比64.0%増益だったにもかかわらず、純利益は黒字1,612億78百万円から赤字4,542億63百万円に転落しました。直近の東京電力の純利益は、原子力損害賠償に関する特別損益の見積りに強く左右される状態が続いていると見たほうがよさそうです。
5. 配当の推移
| 決算期 | 期初予想 | 年間配当 | 期初比 | 配当性向 |
|---|---|---|---|---|
| 2023/03 | — | 0円 | — | — |
| 2024/03 | — | 0円 | — | — |
| 2025/03 | — | 0円 | — | — |
| 2026/03 | 0円 | 0円 | 0円 | — |
| 2027/03会社予想 | 0円 | 0円 | — | — |
- 2023/03:福島第一原子力発電所事故以降、無配が継続。
- 2027/03:2027年3月期の業績予想自体は「未定」だが、配当予想は0円で「直近に公表されている配当予想からの修正の有無:無」と明記されている。普通株式に加えA種・B種優先株式も配当0円。
配当は福島第一原子力発電所事故以降、無配が続いています。2026年3月期・2027年3月期(予想)とも普通株式・A種優先株式・B種優先株式のすべてで年間配当0円です。決算短信では「直近に公表されている配当予想からの修正の有無:無」と明記されており、当第1四半期の時点で配当方針に変化はありません。
このサイトは「高配当・割安」だけを銘柄選びの基準にしているわけではありませんが、この銘柄が配当利回りゼロである事実は明記しておきます。配当再開の条件や時期について、決算短信・決算説明資料の一次情報で確認できた範囲では言及がありませんでした。決算説明資料では、原子力損害賠償・廃炉費用(「福島責任」)に充てる資金を継続的に確保する方針が示されており、株主還元の再開よりも、この負担への対応が優先されている状況がうかがえます。
6. 会社の現状と直近の動き
2027年3月期の業績予想は「未定」です。 決算短信では、売上高・営業損益・経常損益・純損益のいずれについても、中東情勢等による燃料価格見通しの不透明さを理由に予想を示していません。通常は通期予想を開示する大企業としては珍しい状態で、次の中間決算(2026年11月頃予定)で予想が示されるかどうかが、次に確認すべきポイントになります。
財政状態について見ると、当第1四半期末の総資産は15兆3,702億82百万円で、前期末(15兆5,756億02百万円)から2,053億20百万円減少しました。決算説明資料によれば、固定資産(電気事業固定資産)が3,408億円増加した一方、流動資産が3,222億円減少し、差し引きで総資産が減少しています。負債側は未払金・未払費用・未払税金の減少により2,114億円減少しました。純資産はその他の包括利益累計額の増加などにより61億円増加し、自己資本比率は前期末21.8%から当第1四半期末22.1%へ改善しています。
有利子負債の絶対額とD/Eレシオ(有利子負債÷自己資本)については、今回入手した決算短信・決算説明資料の記載範囲からは特定できませんでした。 借入金・社債等の内訳が示された貸借対照表の詳細ページまでは確認できておらず、増減の理由(設備投資・借換え等)も含めて、推測で埋めずにここでは「特定できなかった」とお断りします。
柏崎刈羽原子力発電所については、6号機は特定重大事故等対処施設の設置期限が2031年4月(規則改正後2031年9月)の予定です。7号機は設置期限が2025年10月で、工事完了は2029年8月を予定しており、当第1四半期時点ではまだ再稼働していません。原子力発電所の再稼働・稼働継続は、安全対策工事の完了時期という会社が単独で短縮できないスケジュールに左右されます。
7. 業界とセクターの状況
電力事業は、送配電網という地域独占的なインフラ資産の上に成り立つ規制色の強い事業です。送配電の託送料金は国の認可を必要とし、事業者が自由に価格を決められる範囲には制約があります。一方で、2016年の電力小売全面自由化以降は、新電力等との顧客獲得競争にもさらされており、「規制に守られた安定業種」という前提は部分的にしか当てはまりません。
原燃料(LNG・原油・石炭)価格や為替の変動は、原料費調整制度によって数ヶ月遅れで料金に転嫁される仕組みになっています。当第1四半期のEP・PGセグメントの減益は、まさにこのタイムラグの中で、原油高・円安による調達費用の増加を会社側が一時的に吸収した結果です。価格が急変した局面で転嫁までのタイムラグが利益を圧迫するのは、個社の努力で避けられるものではなく、業界構造として組み込まれた制約です。
東京電力に固有の構造としては、原子力発電所の再稼働・稼働継続が、原子力規制委員会による安全審査や特定重大事故等対処施設の設置期限といった、会社が単独で短縮できないスケジュールに左右される点があります。第6節で見たとおり、7号機は当第1四半期時点でまだ再稼働しておらず、再稼働の完了時期そのものが規制プロセス次第という構造的な制約を抱えています。また、原子力損害賠償・廃炉費用の負担は、東京電力の経営に長期にわたって組み込まれた制約であり、これも個社の努力だけでは解消できません。
8. 今後のスケジュール
2027年3月期 第2四半期(中間) 決算発表
過去の発表時期からの推定
2027年3月期 第3四半期 決算発表
過去の発表時期からの推定
2027年3月期 通期 決算発表
過去の発表時期からの推定
2028年3月期 第1四半期 決算発表
過去の発表時期からの推定
9. 想定されるカタリスト
「未定」としている通期業績予想が示されるかどうかの最初の確認機会。柏崎刈羽6号機の稼働が丸1四半期分反映される最初の決算でもある。
設備利用率がさらに上がれば燃料費削減効果が本格化する一方、トラブルによる停止や追加の安全対策工事の必要が生じれば再び逆風になる。
原料費調整制度により転嫁には数ヶ月のタイムラグがある。当第1四半期は為替159.6円/ドル・原油112.7ドル/バレルと、いずれも前年同期より悪化した水準だった。
前年同期には見積り期間延長に伴う9,030億円の災害特別損失が計上された。同様の見直しが再度発生すれば特別損失が膨らむ。
10. 想定されるリスク
燃料・卸電力価格や為替変動のリスク。 第4節・第7節で見たとおり、当第1四半期はEP・PGセグメントで燃料・卸電力価格の高騰と円安が調達費用を押し上げ、815億円・537億円の減益要因になりました。原料費調整のタイムラグがある以上、原油高・円安が続けば次四半期以降も同様の圧迫が続く可能性があります。
原子力損害賠償・廃炉費用の見積り見直しリスク。 前年同期には見積り期間延長に伴い9,030億円もの災害特別損失が計上されました。当第1四半期にも156億円の原子力損害賠償費が特別損失に計上されており、この種の見積り見直しはいつでも再発し得ます。
業績予想が「未定」であることそのもののリスク。 2027年3月期の通期業績予想が示されていないため、市場が織り込む水準と実際の着地にどの程度の差があるかを、会社の開示だけからは判断しづらい状態です。
柏崎刈羽6号機の稼働継続リスク。 第4節で見たとおり、原子力再稼働の増益効果はまだ限定的です。仮に稼働率が今後低下したり、追加の安全対策工事やトラブルで停止したりすれば、期待されている燃料費削減効果自体が失われます。
配当が継続して無配であることのリスク。 普通株式・優先株式とも無配が続いており、配当収入を求める投資家にとっては魅力に乏しい状態です。配当再開の条件・時期は一次情報で確認できた範囲では示されていません。
11. まとめ:どう判断材料にするか
東京電力ホールディングスは、送配電という地域独占的なインフラ事業と、燃料・卸電力価格や為替に連動する事業を併せ持つ会社です。当第1四半期は、福島第一原発事故後初めて柏崎刈羽原子力発電所6号機が再稼働した四半期であると同時に、経常利益が前年同期比88.7%の大幅減益になった四半期でもありました。親会社株主純利益の赤字幅縮小は、前年同期にあった一過性の特別損失(原子力損害賠償の見積り期間延長に伴う9,030億円の災害特別損失)の反動にすぎず、経常利益ベースで見た実態は悪化しています。
判断の分かれ目は、原発再稼働の効果をどう評価するかです。当第1四半期の増益要因はJERA等からの受取配当金の増加が中心で、原子力再稼働による燃料費削減効果はEP・PGセグメントの減益を打ち消すにはまだ至っていません。再稼働がこの四半期の一部にしか反映されていない点を踏まえ、寄与がこれから本格化すると見るか、燃料・卸電力価格の悪化という逆風の方が大きいと見るかで、次の四半期の受け止め方は変わります。
もう一つの分かれ目は、「未定」とされた2027年3月期業績予想と、配当ゼロという現状をどう位置づけるかです。原子力損害賠償・廃炉費用への対応が優先される限り、株主還元の再開は当面見込みにくい状態です。次の確認ポイントは、2026年11月上旬に予定される第2四半期(中間)決算で、通期業績予想が示されるかどうか、そして柏崎刈羽6号機の稼働が丸1四半期分反映された実績がどう出るかです。
この記事の見立てが外れたと判断する条件
以下のいずれかが起きた場合、本記事の整理は前提から崩れます。買うかどうかを判断する際は、 強気材料と同じだけこちらも見てください。
- 柏崎刈羽6号機の設備利用率が今後の四半期で明確に低下する、または追加の安全対策工事・トラブルにより運転を停止した場合。
- 2026年11月頃に公表が見込まれる2027年3月期の中間期業績予想が、市場の想定を大きく下回る内容で示された場合(現時点で通期予想は「未定」)。
- 燃料・卸電力価格や為替が当第1四半期の水準(為替159.6円/ドル、原油112.7ドル/バレル)以上に悪化し、EP・PGセグメントの減益が当第1四半期の経常減益88.7%からさらに拡大した場合。
- 原子力損害賠償・廃炉費用の見積りが再度上振れし、前年同期(9,030億円の災害特別損失)と同規模の特別損失が再計上された場合。
よくある質問
- 東京電力ホールディングスの配当はいくらですか?
- 2027年3月期(予想)も2026年3月期(実績)も、普通株式・A種優先株式・B種優先株式とも 年間配当0円です。会社は「直近に公表されている配当予想からの修正の有無:無」としており、 配当再開の条件や時期については一次情報で確認できた範囲では言及がありません。
- 柏崎刈羽原子力発電所はいつ再稼働しましたか?
- 2026年4月16日に6号機が営業運転を開始しました。福島第一原子力発電所事故後、東京電力の 原子力発電所が再稼働するのはこれが初めてです。2026年4〜6月期(当第1四半期)の原子力設備 利用率は17.1%、原子力発電電力量は28.7億kWhでした。
- 純利益の赤字が縮小したのに、なぜ「減益」と言われるのですか?
- 2027年3月期第1四半期の親会社株主純利益は赤字幅が前年同期の8,576億90百万円から97億93百万円へ 大きく縮小しましたが、これは前年同期に計上された一過性の特別損失(原子力損害賠償の見積り期間 延長に伴う引当計上、9,549億円)の反動にすぎません。本業の実力に近い経常利益は前年同期比 88.7%の減益で、収益力自体はむしろ悪化しています。
参考文献・引用元
- 01東京電力ホールディングス株式会社 2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)
2026年7月29日発表、2026年8月13日にレビュー完了版を再開示(数値に変更なし)。連結経営成績、連結財政状態、配当の状況、業績予想(未定)、発行済株式数を参照。
- 02東京電力ホールディングス株式会社 2026年度第1四半期決算説明資料
2026年7月29日公表。特別損益の内訳、セグメント別経常損益、外部要因(為替・原油価格・原子力設備利用率)、販売電力量、発電電力量、柏崎刈羽原子力発電所の状況、貸借対照表増減の内訳を参照。
- 03経済産業省 資源エネルギー庁「エネこれ」東京電力・柏崎刈羽原子力発電所6号機の再稼働について
2026年5月12日公開。柏崎刈羽原子力発電所6号機が2026年4月16日に営業運転を開始し、福島第一原発事故後、東京電力の原発として初の再稼働となったことを確認する目的で参照。
- 04東京電力ホールディングス株式会社 2026年3月期決算短信〔日本基準〕(連結)
2026年4月30日発表。前期(2025年3月期)・当期(2026年3月期)の通期経営成績、財政状態、配当の状況を参照。TDnetの原本が失効しているため、決算短信配信サービスのミラーを利用。
- 05IR BANK「東京電力ホールディングス(9501) 決算まとめ」
2022年3月期〜2024年3月期の売上高・営業利益・経常利益・純利益・EPS・自己資本比率の時系列を、決算短信原本が入手できなかった期間の補完として参照した二次情報。2025年3月期・2026年3月期は同サイトの数値と決算短信原本の数値が一致することを確認済み。