スマレジ(4431) 営業利益+73.3%急伸、決済M&Aと効率化どちらが主因か
本記事をお読みになる前に
本記事は筆者個人の見解であり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。記載内容は有価証券報告書等の公開情報にもとづく分析ですが、正確性・完全性を保証するものではなく、将来の株価や業績を約束するものでもありません。投資判断は必ずご自身で情報を確認し、責任をもって行ってください。本記事はあくまで参考情報としてご利用ください。
生成AI利用本記事は、決算短信・有価証券報告書などの一次情報をもとに、生成AIを用いて作成・編集しています。掲載する数値は一次情報との照合を行っていますが、誤りが含まれる可能性を排除できません。重要な数値は必ず出典元の原典でご確認ください。
株式会社スマレジ
2026/09/14 時点
株価
3,265円
時価総額
643億円
配当利回り
0.89%
年間29円
PER
28.2倍
PBR
6.40倍
ROE
25.8%
ROA
25.5%
経常利益ベース
自己資本比率
71.0%
配当性向
20.1%
有利子負債
1億円
D/Eレシオ
0.01倍
有利子負債÷自己資本
※ 指標は記事執筆時点のスナップショットです。最新の数値はご自身で証券会社等の情報をご確認ください。
この記事の結論
- 2027年4月期第1四半期は売上高3,608百万円(前年同期比+19.7%)・営業利益1,027百万円(同+73.3%)。増収率を大きく上回る増益率の裏側には、売上総利益率の改善(原価の伸びが+9.7%にとどまった)と販管費の伸び抑制(+4.3%)の両方が確認でき、決算短信の記載からはどちらか一方に主因を絞り切れない。
- 売上総利益率は前年同期の約65.9%から約68.7%へ改善した。会社は、利益率の高い月額利用料等(ストック収入)の構成比上昇(77.4%→79.4%)と、決済関連事業の内製化による原価低減を理由に挙げている。2026年4月期からスマレジペイメントが連結子会社化されており、決済処理を外部委託していた分のコストが内部化された可能性がある。
- 販管費の伸び率(+4.3%)が売上高の伸び率(+19.7%)を大きく下回ったのは、会社の説明によればテレビCMの効率的運用による広告宣伝費の減少が主因である。人員拡大は続いており、人件費そのものが減ったわけではない。
- 通期の会社業績予想(売上高15,387百万円・営業利益4,004百万円)は第1四半期決算と同時に据え置かれた。営業利益の進捗率は25.6%で、四半期単純平均の25%をやや上回る滑り出しだが、決算短信に季節性の記載はなく、第1四半期が年間で最も利益率の高い四半期だったのかどうかは確認できない。
- 自己資本比率は68.3%(2026年4月期末)から71.0%(2027年4月期第1四半期末)へ上昇し、有利子負債は短期借入金100百万円のみで前期末から変化がない。D/Eレシオは0.01倍とほぼ無借金で、決済子会社の連結子会社化に伴う借入れの増加は確認できない。
目次11項目
1. 概要 — 何をしている会社で、なぜ伸びているか
スマレジ(4431)は、クラウド型POSレジ「スマレジ」を中核とするSaaS企業です。iPadやタブレット端末をレジ端末として使えるクラウド型POSシステムを飲食・小売業界向けに提供し、キャッシュレス決済やタイムカードなど周辺機能を束ねて「お店のOS」として展開しています。
2026年9月14日開示の2027年4月期第1四半期(2026年5月1日〜2026年7月31日)決算短信によれば、連結業績は売上高3,608百万円(前年同期比+19.7%)・営業利益1,027百万円(同+73.3%)・経常利益1,022百万円(同+71.8%)・親会社株主に帰属する四半期純利益683百万円(同+77.4%)でした。EPSは35.50円(前年同期20.02円)です。
この記事で扱う論点は1つです。増収率+19.7%を大きく上回る営業増益率+73.3%は、何によって生まれたのか。 2026年4月期にスマレジペイメント(決済事業)を連結子会社化したこと、既存のPOS-SaaS事業で人員拡大が一巡し費用対効果が改善したこと、この2つの仮説を決算短信の損益計算書から検証します(§4)。結論を先に言うと、両方の効果が数字として確認できる一方、決算短信の開示だけではどちらが主因かを完全には切り分けられません。
通期の会社業績予想は売上高15,387百万円(+15.3%)・営業利益4,004百万円(+24.5%)で、第1四半期決算と同時に修正なしで据え置かれています。指標の時点は2026年9月14日(決算短信開示日)、株価は2026年9月11日終値3,265円(時価総額約643億円)です。
2. ビジネスモデルと収益構造
スマレジの売上は3つに分かれます。決算短信の販売内訳(2026年4月期通期、千円)によれば、月額利用料等10,089,510千円(構成比75.6%、前期比+31.7%)、機器販売等2,822,811千円(同21.2%、同△7.4%)、その他433,084千円(同3.2%、同+22.5%)です。iPadなどの機器やライセンスを売り切る「機器販売等」から、月額課金の「月額利用料等」へ収益の重心が移っています。
この構成比シフトは、会社が「機器販売」から「機器サブスク」プランへの転換を期初予想を上回るペースで進めていることとも整合します。月額利用料等はPOS本体の月額利用料に加え、キャッシュレス決済の取扱手数料、タイムカード(勤怠管理)、EC関連(2026年5月1日に吸収合併した株式会社ネットショップ支援室が持っていた機能)などを含みます。
会社が開示するARR(年間経常収益)は、2026年4月期末11,055百万円から2027年4月期第1四半期末には11,589百万円まで積み上がっています。内訳(2026年7月時点)はスマレジ利用料関連7,203百万円、キャッシュレス決済2,754百万円、タイムカード863百万円、EC関連769百万円です。POS本体だけでなく、決済・勤怠・ECという周辺サービスへのクロスセルがARRの4割弱を占めるところまで育っています。
有料プラン登録店舗数は2026年4月末の48,297店舗から2026年7月末には49,952店舗へ増えました(四半期の純増1,655店舗)。店舗数の増加とクロスセルの進展が、同時にストック型収益を押し上げる構造です。
3. 成長の実績
決算短信とIR BANKから取った通期業績の推移です。単位は百万円です。2027年4月期は会社予想です。
| 期 | 売上高 | 増収率 | 営業利益 | 営業利益率 | 純利益 | 自己資本比率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2020年4月期 | 3,250 | — | 751 | 23.1% | 547 | 81.9% |
| 2021年4月期 | 3,324 | +2.3% | 845 | 25.4% | 584 | 81.7% |
| 2022年4月期 | 4,297 | +29.3% | 637 | 14.8% | 558 | 80.5% |
| 2023年4月期 | 5,914 | +37.6% | 894 | 15.1% | 888 | 76.0% |
| 2024年4月期 | 8,386 | +41.8% | 1,735 | 20.7% | 1,213 | 75.1% |
| 2025年4月期 | 11,066 | +32.0% | 2,380 | 21.5% | 1,645 | 70.3% |
| 2026年4月期 | 13,345 | +20.6% | 3,216 | 24.1% | 2,228 | 68.3% |
| 2027年4月期(会社予想) | 15,387 | +15.3% | 4,004 | 26.0% | 2,781 | — |
この表から読み取れることは3つあります。
1つめは、増収率が2023〜2024年度(+37.6%〜+41.8%)でピークをつけたあと、鈍化を続けていることです。2026年4月期は+20.6%、2027年4月期の会社予想は+15.3%まで下がっており、それでも二桁成長は維持しています。
2つめは、営業利益率が2022年4月期に一時14.8%まで落ち込み、そこから5期連続で改善していることです。2022年4月期に何が利益率を押し下げたのかは、今回集めた一次情報からは特定できませんでした。ただしその後の回復は一貫しており、2027年4月期の会社予想26.0%は過去8期で最高水準です。
3つめは、第1四半期の営業利益+73.3%という増益率が、この「増収鈍化・利益率改善」という長期トレンドのなかでも際立って大きいことです。詳しい中身は§4で検証します。
1株当たり利益の推移を見るときは、株式分割に注意が必要です。 同社は2021年9月1日付で普通株式1株を2株にする株式分割を実施しています。分割後の株数を前提に算定されているのは2022年4月期以降のEPSで、28.66円(2022年4月期)から115.71円(2026年4月期)、会社予想144.38円(2027年4月期)まで一貫して増えています。分割をまたぐ2020・2021年4月期のEPSは、単純比較を避けるためこの記事では扱っていません。
4. ★増益+73.3%を分解する — M&Aか、効率化か
第1四半期の四半期連結損益計算書(千円、前年同期→当期)を費目ごとに並べます。
| 費目 | 2026年4月期第1四半期累計 | 2027年4月期第1四半期累計 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 3,013,994 | 3,608,158 | +19.7% |
| 売上原価 | 1,029,146 | 1,129,407 | +9.7% |
| 売上総利益 | 1,984,847 | 2,478,751 | +24.9% |
| 販売費及び一般管理費 | 1,391,869 | 1,451,238 | +4.3% |
| 営業利益 | 592,977 | 1,027,512 | +73.3% |
売上原価の伸び(+9.7%)は売上高の伸び(+19.7%)を大きく下回り、売上総利益率は前年同期の約65.9%(1,984,847千円÷3,013,994千円)から当期の約68.7%(2,478,751千円÷3,608,158千円)へ、2.8ポイント改善しました。一方、販管費の伸びは+4.3%とさらに小さく、売上高の伸びをほぼ丸ごと下回っています。増益+73.3%は、原価率の低下(粗利改善)と販管費の伸びの抑制の両方が効いた結果です。
粗利改善の理由 — 決済事業の内製化とストックシフト
決算短信は粗利改善の理由を、有料店舗数の増加とキャッシュレス決済等のクロスセルによってストック型収益(月額利用料等)の構成比が上昇したことに求めています。実際、当第1四半期の月額利用料等は2,863百万円(前年同期2,333百万円、+22.7%)で、売上高に占める構成比は77.4%から79.4%へ上昇しました。機器販売等(機器の原価が相対的に重い区分)は618百万円(前年同期577百万円、+7.1%)にとどまっています。単価の低い機器販売の比率が下がり、粗利率の高い月額課金の比率が上がれば、全体の売上総利益率は機械的に上がります。
もう1つの要因として、決済関連事業の内製化による原価低減が考えられます。2026年4月期第1四半期より、決済関連事業の拡大を見据えて株式会社スマレジペイメントが新たに連結範囲に含まれました。決済処理を外部の決済代行会社に委託していた分のコストが、連結子会社化によって内部化・圧縮された可能性がありますが、決算短信は決済事業単体の原価率を開示していないため、この効果の大きさを金額で特定することはできません。
販管費抑制の理由 — 広告宣伝費の減少
決算短信は、組織拡大により人件費は増加したものの、テレビCMの最適化によって広告宣伝費が減少し、販管費全体の伸び率が売上高の伸び率を下回ったと説明しています。人員は増えている(人件費は増加要因)にもかかわらず販管費全体の伸びが+4.3%に収まったということは、広告宣伝費の減少幅がそれなりに大きかったことを示唆しますが、費目別の内訳は開示されていないため、広告宣伝費が具体的にいくら減ったかは確認できませんでした。
通期予想に対する進捗と、季節性の有無
営業利益の通期進捗率は25.6%(1,027百万円÷4,004百万円)で、単純な4分の1(25.0%)をわずかに上回っています。営業利益率で比べると、第1四半期実績の28.5%(1,027百万円÷3,608百万円)は、通期会社予想の26.0%(4,004百万円÷15,387百万円)や前期実績の24.1%を上回っています。
第1四半期が年間で最も利益率の高い四半期である可能性がありますが、決算短信に四半期ごとの季節性についての記載はなく、この点は確認できませんでした。 通期予想どおりに着地するなら、第2〜第4四半期の営業利益率は第1四半期より低い水準になる計算です。次の四半期以降の利益率推移が、季節性なのか、それとも第1四半期の水準が続くのかを判定する材料になります。
以上をまとめると、決算短信の数字からは、粗利改善(ストックシフト+決済事業の内製化)と販管費抑制(広告費効率化)の両方が営業増益+73.3%に寄与していることが確認できます。ただし、決済事業のM&A効果と既存事業の効率化のどちらが主因かを金額で切り分けるだけの内訳は開示されていません。 この切り分けは、次の四半期以降の数字を追うことでしか検証できません。
5. 黒字化・利益率のシナリオ
スマレジは営業黒字であり、赤字を許容する枠(/method の成長株の基準における例外条件)には該当しません。したがって黒字化のタイムラインという論点はなく、論点は利益率の水準そのものです。
2026年4月期決算短信で開示された第3次中期経営計画は、「営業利益水準20%前後を意識した資本規律」を掲げ、成長投資(戦略的M&Aへの優先配分を含む)の原資として利益水準を管理する方針を示しています。ところが、直近の営業利益率は第1四半期実績28.5%、通期会社予想26.0%と、いずれもこの「20%前後」という水準をすでに上回っています。
この差をどう読むかは2通りあります。1つは、20%前後という表現が保守的な下限目標であり、実績がそれを上回ること自体は方針と矛盾しないという読み方です。もう1つは、現在の高い利益率は一時的なもので、今後の戦略的M&Aへの再投資によって利益率が20%近辺まで低下していく可能性を示唆しているという読み方です。決算短信の開示だけでは、どちらが会社の意図に近いかを断定できません。 通期の実績、および今後のM&Aの有無と規模(§6・watchpoints参照)が、この判断材料になります。
6. 財務とキャッシュ
2027年4月期第1四半期末の財政状態です。
- 総資産13,856百万円(2026年4月期末14,080百万円)
- 純資産9,833百万円(同9,612百万円)
- 自己資本比率71.0%(同68.3%)
- 現金及び預金7,660百万円(同8,138百万円)
決算短信の記載する増減要因によれば、流動資産は174百万円減少しました(現金及び預金△478百万円、商品+325百万円等)。流動負債は221百万円減少(未払法人税等△276百万円、買掛金△67百万円等)、固定負債は223百万円減少(繰延税金負債△217百万円)で、負債合計は444百万円減って4,023百万円になりました。純資産は220百万円増加し、内訳は配当支払いによる利益剰余金△462百万円と四半期純利益+683百万円です。現金の減少は主に2026年4月期期末配当(24円)の支払いによるもので、事業活動の悪化を示すものではありません。
有利子負債は短期借入金100百万円のみで、2026年4月期末・2027年4月期第1四半期末とも変化がありません。長期借入金はゼロです。D/Eレシオ(有利子負債÷自己資本)は0.01倍で、実質的にほぼ無借金の状態です。 スマレジペイメントの連結子会社化に伴って新たな借入れが発生した形跡は確認できず、また買収の原資が現金購入だったのか株式交換だったのかについても、今回集めた一次情報からは特定できませんでした。
株数の面では、期末発行済株式数19,693,800株(自己株式431,503株)・期中平均株式数19,262,297株は前年同期とほぼ同水準です。潜在株式調整後EPS(35.46円)と基本EPS(35.50円)の差は0.1%程度にとどまり、新株予約権等による大きな希薄化は起きていません。
営業キャッシュ・フローは2026年4月期通期で3,120百万円(前期2,465百万円)と5期連続で増加基調にあります。同期の投資キャッシュ・フローは△606百万円(有形固定資産取得382百万円・無形固定資産取得314百万円等)、財務キャッシュ・フローは△288百万円(主に配当金支払い)でした。SaaS企業らしく、大きな設備投資を伴わずに営業CFが積み上がる構造です。
7. 業界とセクターの状況
クラウド型POS・店舗SaaSの市場には、個社の努力だけでは変えられない構造がいくつかあります。
1つは競合の多さと価格競争の圧力です。この分野にはリクルートの「Airレジ」のように初期費用・基本料金を無料で提供する競合が存在し、POS単体の月額課金だけでは差別化しにくい構造があります。スマレジが決済・タイムカード・ECなど周辺機能を束ねてクロスセルを進めているのは、この価格競争を避けるための構造的な対応と読めます。
2つめは決済事業の収益性が金融インフラの規制・手数料体系に依存することです。キャッシュレス決済の取扱手数料は、クレジットカードネットワークや資金決済法の枠組みのなかで決まる部分が大きく、一企業の努力だけで利幅を大きく広げられる領域ではありません。決済事業の内製化(スマレジペイメントの連結子会社化)は、この制約のなかでマージンを確保するための手段の1つと位置づけられます。
3つめは店舗数・出店動向という外部環境への連動です。決算短信は「POS/飲食・小売業界の事業環境は緩やかに持ち直し」と記載しており、消費動向や人手不足への対応(省人化需要)が新規契約の追い風にも逆風にもなりえます。会社が成長戦略の柱の1つに「消費減税対応・省人化需要の取り込み」を挙げているのは、外部環境の変化を取り込む前提に立っているためです。
8. バリュエーションの前提
2026年9月11日終値3,265円、時価総額約643億円を前提にした指標です(2026年9月14日時点)。
- 実績PER:28.22倍(2026年4月期EPS 115.71円)
- 予想PER:22.61倍(2027年4月期会社予想EPS 144.38円)
- PBR:6.4倍(第1四半期末BPS 510.6円)
- 予想配当利回り:0.89%(年間29円、期末一括)
実績ROE25.8%・総資産経常利益率25.5%(いずれも2026年4月期の決算短信記載値、経常利益ベース)という高い資本効率のもとでは、PER・PBRとも一般的な「割安」水準の目安(/method参照)を大きく上回るのが通例です。PBR6.4倍は、有形資産をあまり必要としないSaaSモデルの自己資本規模の小ささを反映しており、資産価値としての意味は薄く、実質的にはPERで見る指標です。
予想PER22.61倍は、会社予想の純利益成長率+24.8%(2,781百万円÷2,228百万円)とおおむね近い水準です。第3次中期経営計画はARRのCAGR25%超・2029年4月期ARR222億円を掲げており、現在の株価はこの中期計画がある程度実現することをすでに織り込んだ水準にあると読めます。 本記事は株価の到達水準を予想しません。判断材料として、第1四半期のARR成長ペース(前期末比+4.8%)と中期計画が求めるペース(年率+29.0%)の間にまだ開きがあることを提示するにとどめます。
9. 経営陣と株主構成
本記事が参照した決算短信の抜粋には、代表者名や大株主の持株比率についての具体的な記載が含まれておらず、確認できていません。 創業者が筆頭株主付近に残っているかどうかは成長株を見るうえで重要な項目ですが、今回集めた一次情報の範囲では判断材料を持たないため、ここでは提示しません。次回の経過観察までに有価証券報告書等で確認する項目とします。
10. リスク
増益+73.3%の主因を完全に切り分けられないこと自体が不確実性です。 §4で見たとおり、決済事業のM&A効果と既存事業の効率化のどちらがどれだけ寄与したかは、決算短信の開示だけでは判定できません。仮に今回の粗利改善の大半がスマレジペイメントの連結初年度効果(一時的な会計上の変化)だった場合、次の四半期以降に増益率が大きく鈍化する可能性があります。
第1四半期の高い利益率が季節要因である可能性。 営業利益率28.5%は通期予想26.0%・前期実績24.1%を上回っており、決算短信に季節性の記載がない以上、第2〜4四半期でこの水準を維持できるかは未確認です。
ARR成長ペースと中期計画の乖離。 第1四半期末のARRは前期末比+4.8%にとどまり、2027年4月期通期目標である+29.0%を達成するには、残り3四半期で大きく加速する必要があります。
広告宣伝費の抑制が新規獲得を犠牲にしている可能性。 販管費の伸び抑制(+4.3%)はテレビCM効率化が理由とされていますが、広告投資の縮小が有料プラン店舗の新規獲得ペースを鈍らせていないかは、今後の店舗純増数で確認する必要があります。
単一事業への依存度の高さ。 POS-SaaS事業とその周辺(決済・タイムカード・EC)が売上のほぼ全てを占めます。飲食・小売業界の消費動向や店舗数の増減が、そのまま業績に連動します。
戦略的M&Aへの優先配分という方針が財務健全性に与える影響。 現在は自己資本比率71.0%・有利子負債100百万円とほぼ無借金ですが、中期経営計画が掲げる「戦略的M&A」が実行されれば、この健全性が変わる可能性があります。
バリュエーションの前提が崩れたときの下落幅。 予想PER22.61倍・PBR6.4倍は、中期計画のARR成長ペース(CAGR25%超)が実現することをある程度織り込んだ水準です。ARR成長が鈍化すれば、利益成長の鈍化とバリュエーションの切り下げが同時に起こりえます。
11. まとめ — 何を追跡すれば見立ての正否がわかるか
この記事の見立ては次のとおりです。2027年4月期第1四半期の営業利益+73.3%は、売上総利益率の改善(約65.9%→約68.7%)と販管費の伸び抑制(+4.3%)の両方によって生まれており、決済事業の連結子会社化(スマレジペイメント)による原価内製化と、月額利用料等(ストック収入)への構成比シフト、テレビCM効率化による広告費抑制のすべてが方向としては寄与していると読めます。ただし、決算短信の開示だけでは、決済事業のM&A効果と既存事業の効率化のどちらが主因かを金額で切り分けることはできません。
判断の分かれ目は次の3点です。
- 通期の営業利益率が2026年4月期実績の24.1%を上回って着地するか。 上回れば構造的な改善、下回れば第1四半期は一過性だったとみる材料になります。
- ARRの成長ペースが中期計画の年率+29.0%に近づいていくか。 第1四半期末時点では前期末比+4.8%にとどまっており、加速が必要です。
- 広告宣伝費の抑制が有料プラン店舗の新規獲得ペースを犠牲にしていないか。 店舗純増数が前年を下回る状態が続けば、コスト抑制の副作用とみなせます。
「構造的な改善」と見るなら、第1四半期の急伸はストックシフトと決済内製化による利益率改善の表れであり、通期でも高い水準が続くと読めます。「一時的な要因の重なり」と見るなら、決済子会社の連結初年度効果とテレビCM抑制という一過性の要因が重なった結果であり、通期にかけて利益率は徐々に前期並みへ収れんすると読めます。分かれ目は、次の四半期以降の売上総利益率と販管費の伸び率が、第1四半期の水準を維持できるかどうかです。答え合わせをするための追跡項目は、frontmatterのwatchpointsに5件置いています。最初の確認は2026年12月上旬(予定)の第2四半期決算です。
本記事は判断材料の提示であり、売買の推奨ではありません。銘柄の選び方と本記事が使った基準は /method に掲載しています。
この記事の見立てが外れたと判断する条件
以下のいずれかが起きた場合、本記事の整理は前提から崩れます。買うかどうかを判断する際は、 強気材料と同じだけこちらも見てください。
- 2027年4月期通期の営業利益率が2026年4月期実績の24.1%を下回った場合。本記事は第1四半期の営業利益+73.3%を、粗利改善(原価率低下)と販管費の伸び抑制という構造的な要因で読んでいるが、通期で前期を下回れば第1四半期は一過性の跳ねだったことになる。
- 月額利用料等の売上構成比が2026年4月期実績の75.6%を下回って推移した場合。粗利率改善の主因の一つを構成比シフトに帰しているため、比率が反転すれば説明の前提が崩れる。
- ARRが2027年4月期通期目標(142億円、前期比+29.0%)に対し、半期時点で年率換算+20%未満のペースにとどまった場合。中期経営計画の成長率前提が崩れる。
- 有料プラン登録店舗数の四半期純増が2四半期連続で前年同期を下回った場合。販管費(特に広告宣伝費)の抑制が新規獲得ペースを犠牲にしている可能性を示す。
- スマレジペイメント等の決済・金融事業が赤字化する、または連結の範囲から外れるなど、新規事業の収益寄与が反転した場合。
- 大型のM&Aや増資により自己資本比率が60%を大きく下回る、または有利子負債が大きく増加した場合。中期経営計画が掲げる「戦略的M&Aへの優先配分」が財務健全性を損なう規模で実行されたことを意味する。
よくある質問
- スマレジの営業利益が第1四半期に73.3%も増えたのはなぜですか?
- 2027年4月期第1四半期は売上高が前年同期比+19.7%増えた一方、売上原価の伸びは+9.7%にとどまり、売上総利益率が約65.9%から約68.7%へ改善しました。同時に販管費の伸びも+4.3%に抑えられ、会社はテレビCMの効率的運用を理由に挙げています。利益率の高い月額利用料等へのシフトと、2026年4月期に連結子会社化したスマレジペイメント(決済事業)の内製化効果の両方が寄与しているとみられますが、決算短信の開示だけでは、どちらが主因かを完全には切り分けられません。
- スマレジは株式分割をしていますか?
- 2021年9月1日付で普通株式1株を2株にする株式分割を実施しています。決算短信のEPSはその期の開示時点の株数を前提にしているため、分割をまたいで古い年度のEPSを単純に並べて比較すると実態と異なる動きに見えます。本記事のfinancialsでは、分割後の株数を前提に算定されている2022年4月期以降のEPS(28.66円〜2027年4月期予想144.38円)のみを掲載しています。
- スマレジの配当はいくらですか?
- 2027年4月期の会社予想は期末一括で1株あたり29.00円(中間配当なし)で、2026年9月14日時点で修正はありません。2026年4月期実績の24.00円からの増配で、予想配当性向は20.1%です。2026年9月11日終値3,265円を基準にした予想配当利回りは0.89%です。
参考文献・引用元
- 01株式会社スマレジ「2027年4月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」
2026年9月14日開示。1ページ目の連結経営成績(売上高3,608百万円・営業利益1,027百万円・経常利益1,022百万円・四半期純利益683百万円、各前年同期比)、EPS35.50円、通期業績予想の据え置き、財政状態(総資産13,856百万円・自己資本比率71.0%)、配当の状況、連結範囲の異動(スマレジペイメントの新規連結、ネットショップ支援室の吸収合併)を参照。本文2ページ以降の販売内訳、ARR・有料プラン登録店舗数・GMVの推移、財政状態の増減要因、四半期連結損益計算書(売上原価・売上総利益・販管費の内訳)、四半期連結貸借対照表、企業結合等関係の注記を参照。 / 2026/09/14 開示
- 02株式会社スマレジ「2026年4月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」
2026年6月12日開示。2025年4月期・2026年4月期の連結経営成績、ROE25.8%・総資産経常利益率25.5%・売上高営業利益率24.1%(いずれも決算短信の記載値)、自己資本比率、キャッシュ・フロー、配当の状況(2025年4月期・2026年4月期実績、2027年4月期予想)、発行済株式数、販売内訳、ARR・有料プラン登録店舗数・累積取扱高の推移、長期ビジョン「VISION2031」と第3次中期経営計画(2027年4月期ARR142億円・営業利益水準20%前後を意識した資本規律・戦略的M&Aへの優先配分)を参照。 / 2026/06/12 開示
- 03IR BANK「スマレジ(4431)」
二次情報。2020年4月期〜2024年4月期の通期業績・自己資本比率・営業CF・EPS(2021年9月1日の株式分割を遡及調整済みとみられる2022年4月期以降のEPS系列)の補完、および2026年9月11日終値3,265円・時価総額約643億円・出来高66,400株の参照に使用。2025年4月期・2026年4月期分は決算短信の数値と一致を確認済み。本記事の主要財務数値は決算短信から取っている。