四半期分析海運2027/3期 Q1

日本郵船(9101) 経常利益35.1%上方修正の前提「ホルムズ海峡封鎖9月末まで」

2026/08/08 公開2026/08/08 更新6分で読了対象決算:2027年3月期 第1四半期

本記事をお読みになる前に

本記事は筆者個人の見解であり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。記載内容は有価証券報告書等の公開情報にもとづく分析ですが、正確性・完全性を保証するものではなく、将来の株価や業績を約束するものでもありません。投資判断は必ずご自身で情報を確認し、責任をもって行ってください。本記事はあくまで参考情報としてご利用ください。

生成AI利用本記事は、決算短信・有価証券報告書などの一次情報をもとに、生成AIを用いて作成・編集しています。掲載する数値は一次情報との照合を行っていますが、誤りが含まれる可能性を排除できません。重要な数値は必ず出典元の原典でご確認ください。

日本郵船株式会社

東証プライム 9101 ・ 3月期決算

2026/08/07 時点

株価

6,115円

時価総額

24,785億円

配当利回り

3.92%

年間240円

PER

10.3倍

PBR

0.79倍

ROE

7.7%

ROA

4.5%

純利益ベース

自己資本比率

57.7%

配当性向

40.4%

※ 指標は記事執筆時点のスナップショットです。最新の数値はご自身で証券会社等の情報をご確認ください。

この記事の結論

  • 2027年3月期第1四半期は、売上高7,276億56百万円(前年同期比+21.1%)・営業利益577億08百万円(同+69.8%)・経常利益712億22百万円(同+27.3%)・純利益671億09百万円(同+33.5%)と大幅な増収増益だった。
  • 会社はこの決算と同時に通期予想を上方修正し、売上高2,881億円(期初予想比+10.6%)・経常利益2,500億円(同+35.1%)・純利益2,400億円(同+23.1%)とした。ただしセグメント別に見ると、上方修正はドライバルク事業とエネルギー事業の増益見通しに支えられており、自動車事業と物流事業はむしろ下方修正されている。
  • この上方修正は「ホルムズ海峡封鎖が2026年9月末まで継続する」という単一の前提に基づいている。同じ地政学リスクが、タンカー・ドライバルク市況には追い風として、自動車輸送・物流のコストには逆風として働く非対称な構図になっている。
  • 配当予想は期初200円から240円へ上方修正された。ただし2026年3月期は期初予想235円に対し実績230円と、直近5年で唯一、期初予想を下回って着地した年でもあり、増配予想を無条件に信頼できる実績が続いているわけではない。
  • 指標面ではPER(予)10.28倍・PBR0.79倍・ROE(予)7.71%・ROA(予)4.45%(純利益ベース)という水準で、会社予想配当240円に対する利回りは3.92%である。
目次11項目
  1. 1. 概要
  2. 2. 会社概要とビジネスモデル
  3. 3. 業績の推移
  4. 4. 通期経常利益+35.1%の上方修正はなぜ起きたか——前提「ホルムズ海峡封鎖9月末まで」とセグメント間の明暗
  5. 5. 配当の推移
  6. 6. 会社の現状と直近の動き
  7. 7. 業界とセクターの状況
  8. 8. 今後のスケジュール
  9. 9. 想定されるカタリスト
  10. 10. 想定されるリスク
  11. 11. まとめ:どう判断材料にするか

1. 概要

日本郵船は、2026年8月7日時点でPER(予)10.28倍・PBR0.79倍・ROE(予)7.71%・ROA(予)4.45%(純利益ベース)という水準にあります。会社が開示している2027年3月期の年間配当予想は240円で、株価6,115円に対する利回りは3.92%です。

2026年8月5日に開示された2027年3月期第1四半期の決算は、売上高7,276億56百万円(前年同期比+21.1%)・営業利益577億08百万円(同+69.8%)・経常利益712億22百万円(同+27.3%)・純利益671億09百万円(同+33.5%)と、大幅な増収増益でした。会社はこの決算と同時に通期業績予想を上方修正し、経常利益は期初予想1,850億円から2,500億円へ、35.1%引き上げられました。

この記事でいちばん掘り下げたいのは、この上方修正が「ホルムズ海峡封鎖が2026年9月末まで継続する」という単一の前提に基づいていることです。 しかも、この前提から受ける影響はセグメントによって向きが逆になっています。ドライバルク事業・エネルギー事業(タンカー)は市況高騰の追い風を受けて通期予想が上方修正された一方、自動車事業・物流事業は燃料費上昇や迂回コストの逆風を受けて通期予想が下方修正されました。この非対称な構図を第4節で整理します。

2. 会社概要とビジネスモデル

日本郵船は、決算短信のセグメント区分で「定期船事業」「物流事業」「自動車事業」「ドライバルク事業」「エネルギー事業」「その他事業」の6事業を営む総合海運会社です。IR資料では定期船と物流をまとめて「ライナー&ロジスティクス事業」と呼ぶこともありますが、決算短信のセグメント情報表はこの2つを分けて開示しています。

事業構造の特徴は、主力事業のひとつであるコンテナ船事業を、直接運航ではなく持分法適用会社ONE社(Ocean Network Express Pte. Ltd.)への出資を通じて連結利益に取り込んでいる点です。2027年3月期第1四半期には、持分法による投資利益165億円(うちONE社からの寄与13億円)を営業外収益に計上しています。自動車船・ドライバルク船・タンカー・LNG船については、自社で船隊を保有・運航する伝統的な海運事業です。

セグメント別の売上高(2027年3月期第1四半期、億円)は、定期船事業471・物流事業2,711・自動車事業1,443・ドライバルク事業1,748・エネルギー事業667・その他事業574でした。各セグメントの売上高はセグメント間取引を含むため、単純合計は連結売上高(7,276億56百万円)とは一致しません。

強みと弱みの整理

強み

  • 通期経常利益予想を期初比+35.1%に上方修正

    Q1決算と同時に、会社は通期の経常利益予想を1,850億円から2,500億円へ引き上げました。純利益予想も1,950億円から2,400億円へ、23.1%上方修正されています。

  • ドライバルク事業が赤字から黒字に転換、エネルギー事業が大幅増益

    Q1の経常利益は、ドライバルク事業が前年同期の-27億円から194億円の黒字へ転換し、エネルギー事業は120億円から239億円へ増加しました。ホルムズ海峡封鎖に伴う市況高騰の受益者になっています。

  • 株主還元方針が下限を明示し、配当予想も上方修正

    連結配当性向40%を目安に、1株当たり配当下限金額を年間200円とする方針を掲げています。2027年3月期の配当予想は、Q1決算と同時に200円から240円へ引き上げられました。

弱み

  • 上方修正は単一の地政学的前提(ホルムズ海峡封鎖9月末まで)に依存

    通期予想の前提は「ホルムズ海峡封鎖が2026年9月末まで継続する」というものです。この前提が崩れれば、ドライバルク・エネルギー事業の上振れが剥落する可能性があります。詳細は第4節で扱います。

  • 自動車事業・物流事業は同じ要因でコスト増、通期予想は下方修正

    自動車事業はホルムズ海峡封鎖の長期化に伴う燃料費増・迂回コスト・港湾混雑で、通期利益予想が期初想定を下回る見通しです。物流事業もロジスティクス事業の下振れ見込みなどから、通期利益予想は期初想定を下回るとされています。

  • 有利子負債が四半期で1,601億円増加、自己資本比率が低下

    2027年3月期第1四半期末の有利子負債は1兆3,616億円で、前期末(1兆2,015億円)から1,601億円増加しました。自己資本比率は前期末59.1%から57.7%へ低下しています。

3. 業績の推移

売上高(左軸) 営業利益(右軸) 会社予想
00750,00075,0001,500,000150,0002,250,000225,0003,000,000300,0002018/032019/032020/032021/032022/032023/032024/032025/032026/032027/03単位:百万円
自己資本比率(%)40557055.665.662.367.659.1
数値で確認する
決算期売上高営業利益経常利益純利益営業CF自己資本比率
2018/032,183,20027,80030,00020,000
2019/031,829,30011,1002,050-40,000
2020/031,668,30038,70040,00030,000
2021/031,608,40071,500220,000140,000
2022/032,280,700268,9001,003,1001,010,00055.6%
2023/032,616,000296,4001,109,7001,010,00065.6%
2024/032,387,200174,700261,300230,00062.3%
2025/032,588,700210,820490,866477,707510,80067.6%
2026/032,423,689138,601211,135211,750473,35859.1%
2027/03会社予想2,881,000185,000250,000240,000
単位:百万円。出典:決算短信(2025年3月期・2026年3月期・2027年3月期予想)、およびIR BANK集計による2018年3月期〜2024年3月期の過年度実績(同サイト表示の億円単位に丸めた値を百万円換算)

読み取れることは3つあります。

2022年3月期・2023年3月期がコンテナ船市況特需によるピークだった。 経常利益はそれぞれ1兆031億円・1兆1,097億円という水準に達しましたが、市況の正常化とともに2024年3月期には2,613億円まで急減しています。海運の市況変動が業績に与えるインパクトの大きさが、この5年間の振れ幅からうかがえます。

2026年3月期は、経常利益(前期比-57.0%)と純利益(同-55.7%)の落ち込み幅がほぼ揃っている。 売上高2,423億68百万円(同-6.4%)・営業利益1,386億01百万円(同-34.3%)・経常利益2,111億35百万円(同-57.0%)・純利益2,117億50百万円(同-55.7%)という並びで、経常利益より下の段階で利益の質が大きく崩れるような動きは見られませんでした。

2027年3月期は一転して増益計画になっている。 会社予想は売上高2,881億円(前期比+18.9%)・営業利益1,850億円(同+33.5%)・経常利益2,500億円(同+18.4%)・純利益2,400億円(同+13.3%)です。ただし、この増益計画の中身がどのセグメントに支えられているか、そしてその前提がどこまで頑健かは、次の第4節で詳しく見る必要があります。

4. 通期経常利益+35.1%の上方修正はなぜ起きたか——前提「ホルムズ海峡封鎖9月末まで」とセグメント間の明暗

これがこの記事でいちばん整理したい論点です。会社は2026年8月5日のQ1決算発表と同時に、2027年3月期の連結業績予想を次のように修正しました。

項目通期 期初予想(2026年5月11日)通期 今回予想(2026年8月5日)増減率
売上高26,050億円28,810億円+10.6%
営業利益1,450億円1,850億円+27.6%
経常利益1,850億円2,500億円+35.1%
純利益1,950億円2,400億円+23.1%

出典:2027年3月期 第1四半期決算短信

注目すべきは、この上方修正の前提として決算短信に明記されている一文です。 「以下のセグメント別業績見通しは、ホルムズ海峡封鎖が2026年9月末まで継続することを前提として策定しています」。つまり会社は、中東情勢についてひとつのシナリオを選び、それにもとづいて通期予想を組んでいます。

この前提から受ける影響は、セグメントによって向きがはっきり分かれています。 Q1の経常利益(前年同期からの変化)を見ると、それが分かります。

セグメント前Q1経常利益当Q1経常利益増減額通期予想の修正方向
ドライバルク事業-27億円194億円+222億円(赤字→黒字)上方修正
エネルギー事業120億円239億円+118億円上方修正
定期船事業120億円100億円-20億円上方修正
物流事業32億円-24億円-56億円(黒字→赤字)下方修正
自動車事業288億円168億円-120億円下方修正

ドライバルク事業とエネルギー事業は、ホルムズ海峡封鎖による市況高騰の受益者になっています。 ドライバルクは各船型の市況が前年を大きく上回り、赤字から黒字に転換しました。エネルギー事業はVLCC(大型原油タンカー)が歴史的高水準まで上昇し、中東からの出荷減少を北米産貨物が補ったことで輸送距離が伸長、船腹需給が引き締まりました。会社はこの2事業について、通期利益予想を期初想定より引き上げています。

一方、自動車事業と物流事業は、同じホルムズ海峡封鎖のせいでコスト増の影響を受けています。 自動車事業は輸送台数が前年並みだったにもかかわらず、ルート変更・燃料費増・港湾混雑によって運航コストが上昇し、経常利益は前年から120億円減少しました。決算短信は「ホルムズ海峡封鎖が期初想定より長期化する見込みで、通期利益は期初予想を下回る見通し」と明記しています。物流事業も、航空貨物は堅調な一方、海上貨物の仕入価格上昇やロジスティクス事業の費用増額見込みなどから、通期利益は期初予想を下回る見通しです。

同じ地政学リスクが、事業セグメントによって業績への影響の向きが逆になっているのがこの決算の特徴です。 そして、この構図全体が「ホルムズ海峡封鎖が2026年9月末まで続く」という一点賭けの前提の上に成り立っています。9月末より早く封鎖が解消されれば、ドライバルク・エネルギー事業で見込んでいる上振れ分が剥落するリスクがあります。逆に封鎖が長期化すれば、自動車・物流事業で見込んでいる下振れがさらに深まるリスクがあります。会社予想はこの前提に対して対称的な幅を持たせているわけではなく、9月末という単一の期限を軸にした予想になっている点は、読者として意識しておく価値があります。

5. 配当の推移

決算期期初予想年間配当期初比配当性向
2024/03120円140円+20円26.1%
2025/03160円325円+165円29.9%
2026/03235円230円-5円45.6%
2027/03会社予想200円240円40.4%
  • 2024/03:当初予想は中間60.00円・期末60.00円(合計120.00円)。期中に中間60.00円・期末70.00円へ修正された後、最終的に中間60.00円・期末80.00円、合計140.00円(当初予想比+16.7%)で着地した(IR BANK集計)。
  • 2025/03:当初予想は中間80.00円・期末80.00円(合計160.00円)。期中に中間130.00円・期末180.00円へ修正された後、最終的に中間130.00円・期末195.00円、合計325.00円(当初予想比+103.1%)で着地した(決算短信・IR BANK集計)。
  • 2026/03:当初予想は中間115.00円・期末120.00円(合計235.00円)。期中に中間115.00円・期末110.00円へ一度下方修正された後、最終的に中間115.00円・期末115.00円、合計230.00円(当初予想比-2.1%)で着地した。直近5年で唯一、期初予想を下回って着地した年である(IR BANK集計・決算短信)。期末配当115.00円には記念配当25.00円が含まれており、普通配当ベースでは中間115.00円・期末90.00円、合計205.00円だった。
  • 2027/03:当初予想(2026年5月11日)は中間100.00円・期末100.00円(合計200.00円、配当性向43.0%)。2026年8月5日、第1四半期決算と同時に中間120.00円・期末120.00円、合計240.00円へ上方修正された(当初予想比+20.0%)。配当性向40.35%は予想配当240円÷予想EPS594.71円から編集部が計算した参考値で、決算短信に明記の数値ではない。株主還元方針は連結配当性向40%を目安に、1株当たり配当下限金額を年間200円とするというもの。
1株当たり。「期初比」は期初予想に対する着地の差。 出典:決算短信「配当の状況」、およびIR BANK集計による過年度の予想・修正・実績履歴

配当は2024年3月期の140円から、2025年3月期325円、2026年3月期230円と推移してきました。2025年3月期の325円は、海運市況特需の余韻が残るなかでの大幅増配です。

注目すべきは、2026年3月期が直近5年で唯一、期初予想を下回って着地した年であることです。 2024年3月期は当初予想120円に対し実績140円(当初予想比+16.7%)、2025年3月期は当初予想160円に対し実績325円(同+103.1%)と、いずれも期中の増額修正を経て期初予想を上回って着地しました。ところが2026年3月期は、当初予想235円(中間115円・期末120円)に対し、期中に中間115円・期末110円へ一度下方修正され、最終的には中間115円・期末115円、合計230円(当初予想比-2.1%)で着地しています。期初予想を上回り続けてきた実績が、2026年3月期で途切れたことになります。

なお、2026年3月期の期末配当115円には記念配当25円が含まれています。普通配当ベースで見ると、2026年3月期は中間115円・期末90円の合計205円だったことになります。

2027年3月期の会社予想は、当初200円(中間100円・期末100円、配当性向43.0%)から、Q1決算と同時に240円(中間120円・期末120円)へ上方修正されました。 上方修正比は+20.0%です。株価6,115円に対する利回りは3.92%で、これは会社が明示的に開示した予想にもとづく数値です。配当性向は予想配当240円÷予想EPS594.71円から編集部で計算すると40.35%になります(決算短信に明記の数値ではありません)。株主還元方針である「連結配当性向40%を目安に、下限年200円」という枠組みからすると、今回の240円は下限を上回る水準ですが、直前期に期初予想を下回って着地した実績がある以上、増配予想をそのまま実現するかどうかは、中間決算以降の進捗を確認する必要があります。

6. 会社の現状と直近の動き

財政状態は、Q1の3か月間で総資産が1,951億76百万円増加しました。 総資産は2026年3月期末の5兆2,016億70百万円から、2027年3月期第1四半期末には5兆3,968億46百万円へ拡大しています。決算短信は「建設仮勘定や投資有価証券の増加等により総資産が増加。有利子負債は長期借入金の増加等により増加」と説明しています。純資産は3兆1,816億05百万円、自己資本は3兆1,146億78百万円で、自己資本比率は前期末59.1%から57.7%へ低下しました。有利子負債は1兆2,015億円から1兆3,616億円へ1,601億円増加し、D/Eレシオ(有利子負債自己資本比率)は0.44です。

平均為替レートと燃料油価格は、いずれも前年同期から大きく変化しました。 為替は145.32円/US$から159.89円/US$へ14.57円円安に振れ、燃料油価格はUS$578.60/MTからUS$722.71/MTへ、US$144.11の大幅上昇でした。円安は円建ての売上高を押し上げる一方、燃料油価格の上昇はコスト増につながります。通期予想の前提は、為替157.22円/US$(通期)・燃料油US$741.44/MT(通期)です。

減価償却費とのれん償却額はいずれも増加しています。 減価償却費は前Q1の433億50百万円から491億03百万円へ、のれん償却額は11億13百万円から37億99百万円へ増加しました。のれん償却額の増加は、物流事業における欧州ヘルスケア物流事業買収に伴うものです。同買収に伴うのれん償却費の計上が、物流事業のロジスティクス事業の減益要因のひとつにもなっています。

なお、航空運送事業(日本貨物航空)は2025年8月にANA ホールディングスとの株式交換により連結除外され、その他事業に区分変更されています(前年同期のセグメント数値も組替再表示済み)。2026年3月期通期のセグメント表と、2027年3月期第1四半期のセグメント表とでは区分が異なる点に注意が必要です。

7. 業界とセクターの状況

日本郵船は当サイトの「shipping(海運)」セクターの2本目の記事です。1本目の飯野海運(9119)は外航海運・内航海運・不動産業という構成でしたが、日本郵船はコンテナ船(ONE社への持分法出資)・自動車船・ドライバルク・タンカー・LNG船を組み合わせた総合海運会社という点で異なります。両社の詳細な指標比較は、セクターの記事が増えてからあらためて可能になります。

このセクターで構造的に決まっていることとして、次の点が挙げられます。

  • 外航海運の運賃・用船料は世界の海上荷動き量に連動し、個社の努力だけでは変えられない市況商品としての性格が強い。 コンテナ船・タンカー・ドライバルク船それぞれ別の需給で市況が動きます。
  • 燃料油(重油)価格と為替相場が、コストと収益の両面に直接影響する。 日本郵船は通期予想の前提として燃料油価格をUS$741.44/MT、為替を157.22円/US$と置いており、実際の市況がこの前提からどちらに動くかが業績を左右します。
  • 地政学リスク(航路封鎖・迂回)が、燃料費・運航コストと運賃市況の両方に同時に作用しうる。 今回のホルムズ海峡封鎖のように、同じ事象がセグメントによって追い風にも逆風にもなる点は、このセクター特有の複雑さです。
  • 船舶は取得から売却・解撤までの耐用年数が長く、資産の入れ替えが業績・キャッシュフローに断続的に大きな影響を与える。 国際海運の環境規制強化(燃費規制・脱炭素対応等)が、燃費性能の高い船舶への更新投資需要を構造的に高めています。

8. 今後のスケジュール

2026年11月上旬(予定)当サイト推定

2027年3月期 第2四半期(中間) 決算発表

過去の発表時期からの推定

2027年2月上旬(予定)当サイト推定

2027年3月期 第3四半期 決算発表

過去の発表時期からの推定

2027年5月中旬(予定)当サイト推定

2027年3月期 通期 決算発表

過去の発表時期からの推定

2027年8月上旬(予定)当サイト推定

2028年3月期 第1四半期 決算発表

過去の発表時期からの推定

決算発表日はいずれも過去の発表時期からの推定です。確定日は同社のIRサイトで確認してください。

9. 想定されるカタリスト

時期想定イベント蓋然性方向
2026年11月上旬(予定)2027年3月期 中間決算両面

通期業績予想はホルムズ海峡封鎖が2026年9月末まで続くことを前提に策定されている。中間決算の時点で、この前提が実際の情勢とどれだけ一致しているか、セグメント別の上振れ・下振れの実績が確認できる最初の機会になる。

随時ホルムズ海峡情勢の変化(封鎖解消・長期化)両面

通期業績予想はホルムズ海峡封鎖が2026年9月末まで続くことを前提としている。9月末より早く解消すればドライバルク・エネルギー事業の上振れが剥落するリスク、逆に長期化すれば自動車・物流事業の下振れがさらに深まるリスクがある。

随時燃料油価格・為替相場の動向両面

通期予想の前提は為替157.22円/US$(通期)・燃料油US$741.44/MT(通期)。今回のQ1実績(為替159.89円、燃料油US$722.71)は前提とおおむね近い水準だが、今後の実勢がこの前提から乖離すれば通期予想の達成度に影響する。

2026年11月上旬(予定)配当予想の再修正可能性両面

2027年3月期の配当予想は期初200円から今回240円へ上方修正された。2026年3月期は逆に期中に一度下方修正された実績があり、中間決算時点でさらに修正が入るかが焦点になる。

10. 想定されるリスク

第2節の強みと同じ分量で、弱気材料を整理します。

ホルムズ海峡封鎖という単一の前提が崩れるリスク。 通期予想は封鎖が2026年9月末まで続くことを前提にしています。9月末より早く解消すれば、ドライバルク事業・エネルギー事業で見込んでいる上振れ分が剥落する可能性があります。

自動車事業・物流事業の下方修正がさらに深掘りするリスク。 自動車事業は封鎖の長期化を理由に通期利益予想が期初想定を下回るとされており、封鎖がさらに長引けば、この下方修正幅がいっそう拡大する可能性があります。

財務健全性が投資局面で低下するリスク。 有利子負債はQ1の3か月間で1,601億円増加し、自己資本比率は59.1%から57.7%へ低下しました。総資産の増加は建設仮勘定・投資有価証券の増加によるものとされており、この投資が続けば財務指標のさらなる悪化につながる可能性があります。

配当予想の上振れが今後も続くとは限らないリスク。 2026年3月期は期初予想235円に対し実績230円と、直近5年で唯一、期初予想を下回って着地しました。2027年3月期の予想240円も、同様に下振れて着地する可能性があります。

11. まとめ:どう判断材料にするか

2027年3月期第1四半期の日本郵船は、売上高7,276億56百万円(前年同期比+21.1%)・営業利益577億08百万円(同+69.8%)・経常利益712億22百万円(同+27.3%)・純利益671億09百万円(同+33.5%)と、大幅な増収増益で着地しました。会社はこの決算と同時に、通期の経常利益予想を期初1,850億円から2,500億円へ、35.1%上方修正しています。指標面ではPER(予)10.28倍・PBR0.79倍・ROE(予)7.71%・ROA(予)4.45%(純利益ベース)という水準です。

この上方修正は「ホルムズ海峡封鎖が2026年9月末まで継続する」という前提に基づいており、ドライバルク事業・エネルギー事業の増益見通しと、自動車事業・物流事業の減益見通しという、セグメント間で向きが逆の影響を同時に生んでいます。配当予想も期初200円から240円へ上方修正された一方、2026年3月期は期初予想を下回って着地した実績があります。

判断の分かれ目は、ホルムズ海峡封鎖が2026年9月末までに解消に向かうと見るか、それ以降も長期化すると見るかです。 9月末までに解消に近づくと見るなら、ドライバルク・エネルギー事業の上振れ分は一時的なものとして評価されることになり、逆に自動車・物流事業の下振れも和らぐ可能性があります。長期化すると見るなら、ドライバルク・エネルギー事業の増益はより長く続く一方、自動車・物流事業のコスト増もさらに深まっていく可能性があります。

次に確認すべきは、2026年11月上旬に予定される2027年3月期中間決算です。この前提が実際の情勢とどれだけ一致していたか、セグメント別の上振れ・下振れの実績が確認できる最初の機会になります。

この記事の見立てが外れたと判断する条件

以下のいずれかが起きた場合、本記事の整理は前提から崩れます。買うかどうかを判断する際は、 強気材料と同じだけこちらも見てください。

  • 通期の経常利益実績が会社予想2,500億円を大きく下回り、ドライバルク事業・エネルギー事業の増益が期初想定の水準に届かなかった場合。
  • ホルムズ海峡封鎖が2026年9月末より早期に解消したにもかかわらず、11月の中間決算でドライバルク事業・エネルギー事業の通期増益予想が据え置かれた場合。前提の変化が予想に反映されていないことを意味する。
  • 自動車事業・物流事業の通期利益が、会社が示した下方修正の水準をさらに超えて悪化した場合。ホルムズ海峡封鎖の長期化が想定以上に深刻であることを示す。
  • 2027年3月期の配当実績が会社予想240円を下回って着地した場合。2026年3月期に続き2年連続で、期初予想または直近の修正予想を割り込むことになる。
  • 自己資本比率が2026年3月期第1四半期末の57.7%からさらに大きく低下した場合(目安として55%を下回るなど)。有利子負債の増加が財務健全性を損なうペースで進んでいることを示す。

参考文献・引用元

  1. 01
    日本郵船「2027年3月期 第1四半期決算短信」

    2026年8月5日開示。連結経営成績、連結財政状態、平均為替レート・燃料油価格、営業外収益(持分法投資利益)、セグメント情報、2027年3月期の連結業績予想の修正(前提となる為替・燃料油価格を含む)、配当予想の修正を参照。 / 2026/08/05 開示

  2. 02
    日本郵船「2026年3月期 決算短信」

    2026年5月11日開示。連結経営成績、連結財政状態、連結キャッシュ・フローの状況、配当の状況(記念配当の内訳を含む)、セグメント情報、平均為替レート・燃料油価格を参照。 / 2026/05/11 開示

  3. 03
    IR BANK「日本郵船(9101) 決算まとめ/財務状況/キャッシュフロー/配当金の推移」

    2018年3月期以降の通期業績、財務状況、キャッシュ・フロー、配当の期初予想・修正・実績の履歴を、有価証券報告書・決算短信を集計した二次情報として参照した(2026年8月7日時点の表示)。2024年3月期以前の業績数値は同サイトの表示値(億円単位に丸めた値)にもとづく。株価・PER・PBR・ROE・ROA等のスナップショットも同時点の同サイト表示を参照した。