四半期分析海運2027/3期 Q1

飯野海運(9119) 純利益+240%の正体は船舶売却益、税負担はQ4に先送り

2026/08/12 公開2026/08/12 更新6分で読了対象決算:2027年3月期 第1四半期

本記事をお読みになる前に

本記事は筆者個人の見解であり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。記載内容は有価証券報告書等の公開情報にもとづく分析ですが、正確性・完全性を保証するものではなく、将来の株価や業績を約束するものでもありません。投資判断は必ずご自身で情報を確認し、責任をもって行ってください。本記事はあくまで参考情報としてご利用ください。

生成AI利用本記事は、決算短信・有価証券報告書などの一次情報をもとに、生成AIを用いて作成・編集しています。掲載する数値は一次情報との照合を行っていますが、誤りが含まれる可能性を排除できません。重要な数値は必ず出典元の原典でご確認ください。

飯野海運株式会社

東証プライム 9119 ・ 3月期決算

2026/08/12 時点

株価

1,485円

時価総額

1,644億円

配当利回り

3.57%

年間53円

PER

10.2倍

PBR

0.99倍

ROE

10.1%

ROA

5.2%

経常利益ベース

自己資本比率

45.6%

配当性向

40.1%

有利子負債

1,417億円

D/Eレシオ

0.90倍

有利子負債÷自己資本

※ 指標は記事執筆時点のスナップショットです。最新の数値はご自身で証券会社等の情報をご確認ください。

この記事の結論

  • 2027年3月期第1四半期は売上高366億92百万円(前年同期比+23.2%)・営業利益33億28百万円(同+47.7%)・経常利益36億17百万円(同+65.0%)と大幅増益だった。運賃市況の強さと円安が押し上げている。
  • 親会社株主に帰属する四半期純利益は111億16百万円(前年同期比+240.3%)で、経常利益の伸びを大きく上回った。差の正体は特別利益77億75百万円(うち固定資産売却益70億11百万円・用船解約金7億64百万円)で、この固定資産売却益に対応する税金費用は第4四半期に発生する見込みだと会社自身が開示している。結果としてQ1の実効税率はわずか2.4%にとどまった。
  • 会社は2026年8月4日に通期業績予想を上方修正し(経常利益96億円、純利益140億円)、同時に配当予想も期初46円から53円へ増額した。今期から配当性向40%を基準とする新方針が示されている。
  • 通期予想でも経常利益(前期比-43.1%)に対し純利益(同-9.0%)の下げ幅が小さく、Q1と同じ構図が通期を通じて続く形になっている。純利益14,000百万円をそのまま実力値として使うと、第4四半期に見込まれる税負担の反動を見落とす可能性がある。
  • 有利子負債は2026年3月期末に1,417億円(D/Eレシオ0.90倍)まで増加した。大型LPG船(エタン船)建造など投資の拡大を借入で賄っている構図で、財務のレバレッジはやや高まっている。
目次11項目
  1. 1. 概要
  2. 2. 会社概要とビジネスモデル
  3. 3. 業績の推移
  4. 4. 純利益+240.3%の中身 ― 特別利益の正体と税負担の先送り
  5. 5. 配当の推移
  6. 6. 会社の現状と直近の動き
  7. 7. 業界とセクターの状況
  8. 8. 今後のスケジュール
  9. 9. 想定されるカタリスト
  10. 10. 想定されるリスク
  11. 11. まとめ:どう判断材料にするか

1. 概要

飯野海運は、2026年8月12日時点でPER10.21倍・PBR0.99倍・ROE10.1%・自己資本比率45.6%という水準にあります(PERPBRは2026年3月期実績のEPS・BPSベース)。

もっとも、この記事の主題は割安・割高の水準そのものではありません。2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)決算で、親会社株主に帰属する四半期純利益が前年同期比+240.3%という大きな伸びを記録しました。 一方で同じ期間の経常利益の伸びは+65.0%です。純利益の伸びが経常利益の伸びを3倍以上上回っているという、無視できない差があります。

この差の正体は、今回のQ1決算で判明した特別利益(固定資産売却益と用船解約金)と、その税負担がどこに計上されるかという問題です。会社は同時に通期業績予想と配当予想を上方修正しており、この特別利益の構造が通期の数字にもそのまま影響しています。第4節でこの中身を具体的に確認します。

2. 会社概要とビジネスモデル

飯野海運は1899年(明治32年)創業の海運会社で、東京都千代田区の飯野ビルディングに本社を置きます。連結の運航船腹量は92隻・432万3,750重量トン(2026年3月31日現在)で、ケミカルタンカー・大型ガス輸送船(LPG船)・油送船・不定期船を運航する外航海運業が主力です。海運のほかに不動産業も営み、東京都心の賃貸ビル6棟に加え、ロンドン・米国にもビルを保有しています。

2026年3月期の売上高は外航海運業1,024億円・不動産業141億円・内航近海海運業107億円で、外航海運業が売上の約8割を占めます。一方でセグメント営業利益は外航海運業87億円・不動産業43億円・内航近海海運業3億円で、売上の1割程度しかない不動産業が営業利益の3割強を稼いでいます。市況で振れる海運事業を、賃料収入という安定収益が下支えする構造です。

強みと弱みの整理

強み

  • 海運と不動産の二本柱で市況の振れを緩和

    外航海運業が売上の約8割を占める一方、賃貸不動産業が営業利益の3割強を稼ぎます。運賃市況が悪化する局面でも、賃料収入という比較的安定した収益が全体を下支えする構造です。

  • 自己資本比率が5期連続で改善してきた

    2021年3月期32.5%から2025年3月期47.5%まで、5期連続で自己資本比率が上がりました。市況の良い時期に稼いだ利益を内部留保に回し、財務基盤を厚くしてきた経緯があります。

  • 配当は5期連続で期初予想を上回って着地

    2022年3月期から2026年3月期まで、会社の期初予想を上回る配当を出し続けています。今期から配当性向40%を基準とする方針も明文化され、株主還元の拠り所がより明確になりました。

弱み

  • 運賃市況・燃料油・為替に業績が直結する

    外航海運業は市況産業の典型で、個社の努力だけでは業績をコントロールできません。2027年3月期の経常利益は会社予想でも前期比-43.1%と、大きく振れる予想になっています。

  • 有利子負債が増加傾向にある

    有利子負債は2026年3月期末に1,417億円(D/Eレシオ0.90倍)まで増加しました。大型LPG船(エタン船)建造などの投資を借入で賄っており、自己資本比率も2025年3月期の47.5%から2026年3月期は45.6%へわずかに低下しています。

  • 通期業績予想が地政学リスクの想定に依存している

    2027年3月期の通期業績予想は「2026年10月からホルムズ海峡の往来が正常化する」ことを前提に策定されています。中東情勢が想定どおりに落ち着かなければ、前提そのものが崩れます。

3. 業績の推移

売上高(左軸) 営業利益(右軸) 会社予想
0050,0005,000100,00010,000150,00015,000200,00020,0002021/032022/032023/032024/032025/032026/032027/03単位:百万円
自己資本比率(%)20355032.536.941.745.047.545.6
数値で確認する
決算期売上高営業利益経常利益純利益営業CF自己資本比率
2021/0388,9166,8316,8107,65519,28232.5%
2022/03104,1007,5249,43112,52615,78236.9%
2023/03141,32419,83520,67722,68135,26841.7%
2024/03137,95019,06321,80019,74529,44845.0%
2025/03141,86617,10017,36818,36730,72947.5%
2026/03127,29513,43916,88515,39129,85845.6%
2027/03会社予想136,00012,0009,60014,000
単位:百万円。出典:各期の決算短信(連結経営成績・自己資本比率)

読み取れることは3つあります。

利益のピークは2023年3月期。 コロナ禍後の海運市況高騰を受け、営業利益は2022年3月期75億24百万円から2023年3月期198億35百万円へ跳ね上がりました。その後は市況の落ち着きとともに減少が続き、2026年3月期の営業利益は134億39百万円まで下がっています。

自己資本比率は改善が続いたのち、直近でわずかに反転している。 2021年3月期32.5%から2025年3月期47.5%まで一貫して上昇したあと、2026年3月期は45.6%へ小幅に低下しました。総資産が306,431百万円から346,684百万円へ約403億円拡大する一方、その拡大分の一部を借入で賄ったためです。実際、有利子負債は2025年3月期末の1,206億円台から2026年3月期末には1,417億円まで増え、D/Eレシオも0.83倍から0.90倍へ上がっています。財務活動によるキャッシュ・フローも2026年3月期は+143億10百万円とプラス転換しており、大型LPG船(エタン船)の建造など投資キャッシュ・フローの流出拡大(2024年3月期以降、△220億円→△308億円→△421億円)を借入で補っている構図です。

2027年3月期予想は、経常利益と純利益の下げ幅がそろっていない。 経常利益は前期比-43.1%の予想である一方、純利益は同-9.0%の予想にとどまります。この非対称さが、次の第4節で扱う論点の入り口です。

4. 純利益+240.3%の中身 ― 特別利益の正体と税負担の先送り

2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)の連結損益計算書を、前年同期と比べます。

項目2026年3月期1Q2027年3月期1Q前年同期比
売上高297億92百万円366億92百万円+23.2%
営業利益22億54百万円33億28百万円+47.7%
経常利益21億92百万円36億17百万円+65.0%
特別利益12億36百万円77億75百万円
税金等調整前四半期純利益32億70百万円113億90百万円
法人税等0億08百万円2億76百万円
親会社株主に帰属する四半期純利益32億67百万円111億16百万円+240.3%

出典:2027年3月期第1四半期決算短信(連結損益計算書)

経常利益の伸び+65.0%に対して、純利益の伸びは+240.3%。この差の大きさは、経常利益より下の項目、つまり特別損益と税金費用で何かが起きていることを示しています。今回の短信では、その中身が具体的に開示されました。

特別利益77億75百万円の内訳は、固定資産売却益70億11百万円と用船解約金7億64百万円です。固定資産売却益は国外連結子会社が計上したもので、外航海運業では海外の一船一社SPC(船舶保有目的の子会社)が船舶を売却する形が一般的なため、船舶売却によるものとみられます。

さらに重要なのは税金費用です。短信本文には次の一文があります。

「当第1四半期連結会計期間で固定資産売却益を計上した国外連結子会社に係る税金費用の発生を第4四半期連結会計期間に見込んでおります。」

つまり、Q1で計上した70億11百万円の売却益に対応する税金費用は、このQ1では発生せず、第4四半期にまとめて計上される見込みだということです。これが、Q1の法人税等がわずか2億76百万円(税金等調整前利益に対する実効税率で約2.4%)という極端に低い水準にとどまった理由であり、純利益の伸びが経常利益の伸びを大きく上回った直接の原因です。

通期予想にも同じ構図が引き継がれている

会社は2026年8月4日、通期業績予想と配当予想を同時に上方修正しました。

期初予想(2026/5/8)修正後(2026/8/4)増減
売上高1,290億円1,360億円+5.4%
営業利益91億円120億円+31.9%
経常利益67億円96億円+43.3%
純利益121億円140億円+15.7%

上方修正の理由として会社が挙げているのは、ケミカルタンカー・ドライバルク市況の上振れ、第2四半期以降の一部船舶の契約有利更改、円安の進行の3点で、特別利益への言及はありません。 これは、Q1で計上した固定資産売却益・用船解約金の効果は、すでに期初(5/8)予想の純利益121億円の前提に織り込み済みだったと解釈できるということです。実際、期初予想の時点でも経常利益67億円に対して純利益121億円という、54億円もの開きがありました。8月4日の上方修正は、その構図の上に本業(市況・為替)の上振れが積み増された形です。

なぜこれが重要か

通期純利益140億円をそのまま「今期の実力」として受け止めると、第4四半期に見込まれる税金費用の反動を見落とすことになります。経常利益は前期比-43.1%の予想であるのに対し、純利益は同-9.0%の予想にとどまっているのも、Q1と同じ非対称さが通期を通じて続く前提になっているからです。次に注目すべきは、第4四半期に本当にこの税金費用が計上され、会社の説明どおりの構図になるかどうかです。

5. 配当の推移

決算期期初予想年間配当期初比配当性向
2022/0336円30.4%
2023/0320円65円+45円30.3%
2024/0329円56円+27円30.0%
2025/0340円58円+18円33.4%
2026/0344円59円+15円40.6%
2027/03会社予想46円53円40.1%
  • 2022/03:期初予想の値は確認できなかった。
  • 2023/03:期初20円予想に対し65円で着地(+225.0%)。
  • 2024/03:期初29円予想に対し56円で着地(+93.1%)。
  • 2025/03:期末配当33円の内訳は普通配当28円+記念配当5円。期初40円予想に対し58円で着地(+45.0%)。
  • 2026/03:期初44円予想に対し59円で着地(+34.1%)。
  • 2027/03:期初(2026年5月8日)46円予想を、2026年8月4日に53円へ増額修正。今期から「配当性向40%を基準」とする新方針が示された。
1株当たり。「期初比」は期初予想に対する着地の差。 出典:各期の決算短信「配当の状況」

配当は2022年3月期の36円から、2026年3月期の59円まで着実に増えてきました。注目すべきは期初予想との差です。2022年3月期から2026年3月期まで5期連続で、会社の期初予想を上回る配当が出ています。 上振れ幅は+225.0%(2023年3月期)→+93.1%(2024年3月期)→+45.0%(2025年3月期)→+34.1%(2026年3月期)と、年を追うごとに縮小してきました。

2027年3月期についても同じパターンが早くも表れています。期初(2026年5月8日)の予想は46円でしたが、Q1決算にあわせて2026年8月4日に53円へ増額修正されました。この53円は会社が正式に開示した最新の予想であり、株価1,485円に対する予想配当利回りは3.57%です。 期初46円の時点で計算すると利回りは3.10%でしたが、この記事の執筆時点ではすでに古い数字であり、53円ベースの3.57%を使うのが適切です。

もうひとつの変化は、配当政策そのものです。会社は2026年8月4日の決算補足資料で、2027年3月期から「通期業績に対する配当性向40%を基準とする」方針を新たに示し、あわせて下限配当30円も設定しました。今回の53円への増額も、この方針にもとづくものだと短信・補足資料の両方に明記されています。過去の「期初は保守的に出して期末に積み増す」という経験則に加えて、配当の拠り所が数値として明文化されたことになります。

配当性向は2025年3月期33.4%、2026年3月期40.6%、2027年3月期予想40.1%です。ただし配当性向40%基準は分子である純利益が前提です。第4節の論点のとおり、今期の純利益には特別利益の影響が残っているため、来期以降に純利益の水準が変われば、同じ40%基準でも配当の絶対額は変わりうる点には注意が必要です。

6. 会社の現状と直近の動き

2027年3月期第1四半期のセグメント別実績です。

セグメント2026年3月期1Q2027年3月期1Q増減率
外航海運業(売上/営業利益)239億97百万円/13億39百万円304億41百万円/20億24百万円売上+26.9%・営業利益+51.1%
内航・近海海運業(売上/営業利益)23億71百万円/△1億18百万円26億28百万円/1億92百万円売上+10.8%・営業損益は黒字転換
不動産業(売上/営業利益)34億50百万円/10億33百万円36億52百万円/11億13百万円売上+5.9%・営業利益+7.8%

主力の外航海運業が、売上・営業利益ともに最も伸びました。内航・近海海運業も前年同期の営業損失から黒字に転換しています。不動産業は安定的に伸びており、市況で振れる海運事業を下支えする役割を引き続き果たしています。

外部環境については、Q1実績の為替は159.89円/US$(前年同期145.32円)、燃料油(VLSFO)はUS$831/MT(前年同期US$535/MT)でした。会社の期初想定(為替150円/US$、燃料油US$670/MT・US$570/MT)と比べると、実績は円安・燃料高の方向に振れています。それでも増益になっているのは、運賃市況の強さがコスト増を上回ったためです。

なお、2027年3月期第1四半期・第3四半期は日本基準上キャッシュ・フロー計算書の作成義務がなく、今回の短信にも掲載されていません。減価償却費は39億39百万円(前年同期32億20百万円)と開示されています。

7. 業界とセクターの状況

海運業は、運賃市況・燃料油価格・為替という3つの外部要因に損益が直結する典型的な市況産業です。船舶は発注から竣工まで数年を要するため供給の調整が遅れやすく、好況期の発注が数年後の供給過剰を招くという循環が繰り返されてきました。船舶という重い固定資産を抱える性質上、船隊更新期には投資キャッシュ・フローの流出と借入の増加が同時に起きやすく、飯野海運の2026年3月期にかけての有利子負債増加も、この業界共通の構造にあてはまります。

このセクターでもう一つ特徴的なのが、船舶の売却損益が特別損益として計上されることが多く、経常利益と純利益が大きく乖離する期があるという点です。今回の飯野海運のQ1決算は、この一般論がそのまま実際に起きた例だといえます。船舶を保有・売却する主体が海外の一船一社SPCであることが多いのも業界共通の慣行で、税務上の扱いが本国決算の税金費用計上タイミングとずれる背景の一つになっていると考えられます。

8. 今後のスケジュール

2026年11月上旬(予定)当サイト推定

2027年3月期 第2四半期(中間) 決算発表

過去の発表時期からの推定

2027年2月上旬(予定)当サイト推定

2027年3月期 第3四半期 決算発表

過去の発表時期からの推定

2027年5月中旬(予定)当サイト推定

2027年3月期 通期 決算発表

過去の発表時期からの推定

2027年8月上旬(予定)当サイト推定

2028年3月期 第1四半期 決算発表

過去の発表時期からの推定

会社は次回決算発表日を正式公表していません(2026年8月12日時点)。上表は過去の発表時期からの推定であり、確定日は会社IRサイトで確認してください。

9. 想定されるカタリスト

時期想定イベント蓋然性方向
2026年11月上旬2027年3月期 中間決算両面

通期予想(経常利益96億円、純利益140億円)の進捗確認に加え、税金費用が計画どおり第4四半期に先送りされる見通しのままかを確認できる最初の機会。

2027年3月期中配当予想の増額修正上振れ

過去5期連続で期初予想を上回って着地しており、配当性向40%基準の新方針のもとで業績が上振れれば、53円からさらに増額される余地がある。

2026年10月以降ホルムズ海峡の往来正常化(会社の業績予想の前提)両面

通期業績予想は2026年10月からホルムズ海峡の往来が正常化することを前提に策定されている。地政学リスクが顕在化すれば、運賃・保険料の両面で前提が崩れる。

随時運賃市況・燃料油価格・為替の変動両面

Q1実績の前提は為替159.89円/US$・燃料油(VLSFO)US$831/MTで、会社の期初想定(150円/US$・US$670〜570/MT)より円安・燃料高だった。それでも増益になったのは運賃市況の強さが上回ったためで、市況が反転すれば逆方向に効く。

10. 想定されるリスク

利益の質のリスク。 第4節のとおり、今期の純利益には特別利益と、その税負担の先送りという一過性の要素が含まれています。第4四半期に会社の説明どおりの税金費用が計上されるかどうかを確認する必要があります。

市況変動のリスク。 外航海運業は運賃市況・燃料油・為替の変動をそのまま受けます。Q1は円安・燃料高でも市況の強さで吸収できましたが、この関係が逆転すれば業績は急速に悪化しえます。会社予想の経常利益は前期比-43.1%という大きな減益で、市況の反転リスクをある程度織り込んでいるとも読めますが、それを下回る可能性も残ります。

地政学リスク。 通期業績予想は「2026年10月からホルムズ海峡の往来が正常化する」ことを前提にしています。この前提が崩れれば、運賃・保険料の両面で予想の土台が揺らぎます。

財務レバレッジのリスク。 有利子負債は2026年3月期末に1,417億円、D/Eレシオ0.90倍まで増加しました。大型船建造などの投資が続く局面では、この傾向がさらに強まる可能性があります。自己資本比率も45.6%と2025年3月期の47.5%からわずかに低下しており、改善トレンドが一服したタイミングにあたります。

11. まとめ:どう判断材料にするか

飯野海運は、外航海運業を主力に不動産業が収益を下支えする構造を持ち、配当は5期連続で期初予想を上回って着地し、今期から配当性向40%基準という新しい方針も示されました。予想配当利回り3.57%(会社予想53円ベース)は、そのまま判断材料として使える数字です。

一方で、PER10.21倍という水準を「割安」と受け止めるかどうかは、今期の純利益140億円(会社予想)をどう評価するかにかかっています。この純利益には、Q1で計上された特別利益と、第4四半期に先送りされる見込みの税金費用という、通常の年とは異なる要素が含まれています。

税負担の先送りという会社の説明を額面どおりに受け取り、「特別利益は一時的だが会計上の整理にすぎず、通期の実質的な収益力は経常利益予想が上方修正されたこと(96億円、期初比+43.3%)が示すとおり改善している」と見るなら、市況回復局面への評価として前向きに捉えられます。逆に、「純利益の大部分が船舶売却という非継続的な要因に依存しており、税金費用が実際にQ4で計上されるまでは実力を測れない」と見るなら、判断は第4四半期決算まで持ち越すのが妥当です。分かれ目は、第4四半期に会社の説明どおりの税金費用が計上され、通期の数字が予想どおりに着地するかどうかです。

この記事の見立てが外れたと判断する条件

以下のいずれかが起きた場合、本記事の整理は前提から崩れます。買うかどうかを判断する際は、 強気材料と同じだけこちらも見てください。

  • 2027年3月期第4四半期で、Q1に計上した固定資産売却益7,011百万円に対応する税金費用が会社の説明どおりに計上されず、通期の税負担構造が想定と異なる形になった場合。本記事の「税負担はQ4に先送り」という整理の前提が崩れる。
  • 通期経常利益が会社予想の9,600百万円を大きく下回った場合。特別利益を除いた本業の実力が、会社予想よりも弱いことを意味する。
  • 2027年3月期の年間配当が53円を下回って着地した場合。2022年3月期から5期連続で続いてきた「期初予想を上回って着地する」パターンが途切れたことになり、配当性向40%基準の新方針の信頼度も再評価が必要になる。
  • 2026年10月以降もホルムズ海峡情勢が正常化せず、通期業績予想の前提そのものが崩れた場合。

参考文献・引用元

  1. 01
    飯野海運株式会社「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」

    2026年8月4日開示。第1四半期の連結損益計算書、特別損益の内訳、税金費用の見込みに関する説明(4ページ目)を参照。 / 2026/08/04 開示

  2. 02
    飯野海運株式会社「2027年3月期連結業績予想の修正及び配当予想の修正(増配)に関するお知らせ」

    2026年8月4日開示。通期業績予想・配当予想の修正内容と修正理由を参照。 / 2026/08/04 開示

  3. 03
    飯野海運株式会社「2026年度第1四半期 決算補足資料」

    2026年8月4日公表。有利子負債・D/Eレシオの推移、配当性向40%基準の新方針を参照。 / 2026/08/04 開示

  4. 04
    飯野海運株式会社「2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」

    2026年5月8日開示。通期実績・自己資本比率・キャッシュ・フロー計算書・2027年3月期の期初業績予想(経常利益6,700百万円、純利益12,100百万円、年間配当46円)を参照。 / 2026/05/08 開示

  5. 05

    飯野海運株式会社 過年度決算短信(2025年3月期・2024年3月期・2023年3月期・2022年3月期)

    各期の決算短信1ページ目(連結経営成績・配当の状況)から、5期分の売上高・各利益・EPS・自己資本比率・配当実績を集計した。