長期保有適性通信2026/3期 通期

NTT(9432)を10年持てるか — 増配15期連続の原資は株数減と配当性向、財務は一変

2026/10/11 公開2026/10/11 更新6分で読了対象決算:2026年3月期 通期

本記事をお読みになる前に

本記事は筆者個人の見解であり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。記載内容は有価証券報告書等の公開情報にもとづく分析ですが、正確性・完全性を保証するものではなく、将来の株価や業績を約束するものでもありません。投資判断は必ずご自身で情報を確認し、責任をもって行ってください。本記事はあくまで参考情報としてご利用ください。

生成AI利用本記事は、決算短信・有価証券報告書などの一次情報をもとに、生成AIを用いて作成・編集しています。掲載する数値は一次情報との照合を行っていますが、誤りが含まれる可能性を排除できません。重要な数値は必ず出典元の原典でご確認ください。

日本電信電話株式会社

東証プライム 9432 ・ 3月期決算

2026/10/09 時点

株価

173円

配当利回り

3.12%

年間5.4円

PER

13.7倍

PBR

1.45倍

ROE

10.4%

ROA

2.2%

純利益ベース

自己資本比率

20.8%

配当性向

44.6%

有利子負債

157,116億円

D/Eレシオ

1.61倍

有利子負債÷自己資本

※ 指標は記事執筆時点のスナップショットです。最新の数値はご自身で証券会社等の情報をご確認ください。

この記事の結論

  • 2018年3月期(IFRS組替後)から2026年3月期までの8年間で、1株配当は3.0円から5.3円へ+76.7%(年率7.37%)伸びた。一方、親会社の所有者に帰属する当期利益は897,887百万円から1,037,032百万円への+15.5%(年率1.82%)にとどまる。営業利益は+4.0%(年率0.49%)で、ほぼ横ばいである。配当だけが突出して伸びている。
  • 増配の原資は3つに分解できる。期中平均株式数は998億株から823億株へ17.6%減り(自社株買い)、配当性向は33.3%から42.0%へ上がった。1株配当の伸び1.77倍は、当期利益1.15倍、株数減の効果1.21倍、配当性向1.26倍の積で、対数でみた寄与はおよそ利益25%・株数34%・配当性向41%になる。利益成長由来は4分の1にとどまる。
  • 減益期にも増配は続いた。営業利益が-14.2%、当期利益が-21.8%となった2025年3月期にも5.1円から5.2円へ増配し、配当性向は33.8%から43.5%へ跳ねた。会社は2011年度から15期連続増配(2022年12月の説明資料の「12期連続増配の予定」を起点に数えた)で、配当の下がらなさは記録で確認できる。ただし調整弁は配当性向だった。
  • 2025年度に財務は大きく変わった。自己資本比率は34.0%から20.8%へ、有利子負債は10.0兆円から15.7兆円へ増え、有利子負債の株主資本に対する比率は97.9%から161.5%になった。会社は住信SBIネット銀行の連結子会社化、NTTデータグループの完全子会社化、借入債務の増加を挙げている。営業CFも2.36兆円から1.49兆円へ減り、配当総額に対する倍率は約5.5倍から3.4倍に下がった。
  • 2027年3月期の会社予想はEPS12.10円(前期12.61円から-4.0%)に対して配当5.4円(+1.9%)で、配当性向は44.6%になる。利益が減る年に増配する構図で、増配記録を守る力と、その代償が配当性向とレバレッジにある点が、10年持てるかの分かれ目になる。
目次11項目
  1. 1. 10年の要約
  2. 2. 事業の持続性 — 10年後もこの事業はあるか
  3. 3. 10期の業績推移 — 増収増益の打率
  4. 4. ★増配の原資はどこから来ているか
  5. 5. 不況期に何が起きたか
  6. 6. 財務の耐久力
  7. 7. 10年スパンで何が変わりうるか
  8. 8. 株主還元方針と、そこから読めること
  9. 9. 長期保有を取り崩す可能性がある要因
  10. 10. リスク
  11. 11. まとめ — どういう投資家に向くか

1. 10年の要約

NTT(旧 日本電信電話。2025年7月に「NTT株式会社」へ社名変更)を10年単位で持てるかを判断するために、2017年3月期から2026年3月期までの10期を並べました。起点は2018年3月期にしています。2017年3月期だけ米国基準の数値で、IFRSに組み替えた値が短信に無く、基準が違うため年率の起点にできないからです(§3で詳しく書きます)。

項目2018年3月期2026年3月期変化年率(8年)
営業収益11,782,148百万円14,409,121百万円+22.3%+2.55%
営業利益1,641,086百万円1,706,221百万円+4.0%+0.49%
当期利益(親会社帰属)897,887百万円1,037,032百万円+15.5%+1.82%
EPS9.00円12.61円+40.1%+4.31%
1株配当3.0円5.3円+76.7%+7.37%

配当だけが利益より桁違いに速く伸びています。 営業利益はほぼ横ばいで、当期利益も年率1.8%、1株配当は年率7.4%です。この記事の論点は、その差がどこから来たかです。そして2025年度には、自己資本比率が34.0%から20.8%へ下がるという財務の大きな変化が加わりました。

現在値(2026年10月9日終値)は、株価173円、予想配当5.40円に対する配当利回り3.12%、PBR1.45倍です。PERは実績EPS12.61円で13.72倍、会社予想EPS12.10円なら14.30倍になります。ROEは10.4%、ROAは純利益を期末総資産で割った2.22%で、これは銀行子会社の連結で総資産が膨らんだ影響を受けた値です。直近の四半期の動きは四半期記事にあり、本記事は10年スパンの視点に絞ります。

1株配当は2020年1月の2分割と2023年7月の25分割を反映した現在の株数基準で記載しています。決算短信に載る当時の数値とは桁が違います。

2. 事業の持続性 — 10年後もこの事業はあるか

NTTはNTTグループの持株会社で、NTTドコモを中核とする総合ICT、NTT東日本・西日本の地域通信、NTTデータグループを中心とするグローバル・ソリューションなどから成ります。2025年度の短信によると、通信中核の会社から、グローバル、データセンター、AI、金融へ事業構造を転換している最中です。

強み弱み
全国規模の通信インフラという、需要が消える種類の事業ではない収益基盤を持つ。営業収益は8年連続で減っていない地域通信は短信が「レガシービジネス収入の減少が続く」と書く構造で、固定通信の縮小が続く
営業収益は2018年3月期の11.78兆円から14.41兆円へ+22.3%。非通信領域の取り込みで上積みが出ている営業利益は8年でほぼ横ばい(+4.0%)。増収が利益にほとんど届いていない
総合ICTは2025年度の営業収益6兆4,581億円、営業利益9,421億円と、グループの中核として大きな規模を持つその総合ICTの営業利益は前期の10,205億円から-7.7%。中核セグメントの利益が減った
銀行子会社の連結とNTTデータグループの完全子会社化で、事業の幅は広がったその取り込みの代償として、自己資本比率が20.8%まで下がり、有利子負債が15.7兆円に増えた

通信という収益の形は10年後も残る可能性が高いと考えられます。一方で、営業収益が+22.3%増えても営業利益が+4.0%しか増えていないことは、増収のかなりの部分が利益率の低い領域によるものか、コストの増加に消えていることを示唆します。営業利益率は2018年3月期の約13.9%から2026年3月期の約11.8%へ下がっています。その理由は、本記事で取得した資料からは特定できませんでした。

3. 10期の業績推移 — 増収増益の打率

IFRSで一貫している2018年3月期以降の8回の前年比較で、増収・増益・増配が何回あったかを数えました。

項目増加した回数打率減少した期
営業収益8回 / 8回10割なし
営業利益6回 / 8回7割5分2020年3月期(-7.8%)、2025年3月期(-14.2%)
当期利益6回 / 8回7割5分2019年3月期(-4.8%)、2025年3月期(-21.8%)
EPS6回 / 8回7割5分2019年3月期(-2.1%)、2025年3月期(-20.7%)
1株配当8回 / 8回10割なし

読み取れることは3つあります。

  1. 増収と増配は一度も途切れていませんが、利益は2〜3回止まっています。 営業収益の年率2.55%に対し、営業利益は0.49%です。
  2. 2022年3月期に当期利益が+28.9%と跳ねた後、2025年3月期に-21.8%と落ちています。 2022年3月期の跳ね(1,181,083百万円)は、取得した資料からは要因を特定できませんでした。2024年3月期の1,279,521百万円をピークとして見ると、直近2期の利益水準は1兆円前後です。
  3. 2027年3月期の会社予想は、営業収益15.06兆円(+4.5%)、営業利益1.71兆円(+0.2%)、当期利益9,800億円(-5.5%)です。 増収でも利益は減る計画で、税引前利益は1,581,923百万円から1,500,000百万円(-5.2%)の予想です。

基準の違い(IFRSには経常利益がない)

NTTはIFRS採用のため、経常利益という項目が存在しません。営業利益のあとは税引前利益、当期利益の順になります。2025年3月期の税引前利益は1,564,696百万円、2026年3月期は1,581,923百万円でした。

2017年3月期は基準が違う

2017年3月期は米国基準の数値で、IFRSの組替値が短信にありません。2018年3月期は米国基準の当時値と、IFRS組替後の比較列の両方があります。

項目(百万円)米国基準(当時)IFRS組替後差
営業収益11,799,58711,782,148-0.1%
営業利益1,642,8431,641,086-0.1%
当期利益909,695897,887-1.3%

当期利益で約1.3%の差があります。差の内訳や理由は、取得した短信の記載の範囲ではIFRS移行によるもの以上には特定できませんでした。 系列の一貫性を優先して2018年3月期はIFRS組替後の値を採用し、2017年3月期は米国基準のまま表に残しています。そのため、表の2017年3月期から2018年3月期への増減率は基準が混ざった参考値で、年率や打率の起点には使っていません。自己資本比率も2017年3月期は米国基準の42.6%(IFRS組替後の2018年3月期は42.0%)です。

4. ★増配の原資はどこから来ているか

ここがこの記事の中心です。1株配当が利益の4倍以上のペースで伸びた理由を分解します。

1株配当 = 利益 ÷ 株数 × 配当性向

2018年3月期から2026年3月期の8年間で、3つの要素は次のように動きました。

要素2018年3月期2026年3月期倍率
当期利益897,887百万円1,037,032百万円1.15倍
期中平均株式数998億株823億株(2025年度)0.82倍(1.21倍の押し上げ)
配当性向33.3%42.0%1.26倍
EPS9.00円12.61円1.40倍
1株配当3.0円5.3円1.77倍

1.15 × 1.21 × 1.26 ≒ 1.77 で、実際の1株配当の伸びと一致します。対数で寄与を分けると、利益成長がおよそ25%、株数の減少がおよそ34%、配当性向の引き上げがおよそ41%です。利益成長で説明できるのは4分の1で、残り4分の3は利益の伸びと無関係に生み出された増配です。

株数の減少は自社株買いと消却

期中平均株式数は2018年3月期の約998億株(1,995,912,757株に2020年の2分割と2023年の25分割を反映)から、2025年度の約823億株へ17.6%減りました。自己株式取得に使った現金は、キャッシュ・フロー計算書で2024年度に202,381百万円、2025年度に204,910百万円です。配当金総額は2026年3月期で434,693百万円なので、配当と自社株買いを合わせた株主還元は約6,396億円、当期利益1,037,032百万円の約61.7%に当たります(配当総額と自己株式取得の支出の合計を当期利益で割った値)。

発行済株式数は、2019年3月期(約73億株減)と2022年3月期(2021年から2022年にかけて278,776,284株、分割前換算)に減っています。短信の数字の範囲で、いずれも自己株式の消却によるものです。自己株式比率は消却のたびに2%前後へ下がり、その後また積み上がって、2026年3月期末は10.08%(自己株式9,126,691,363株)に達しました。この比率を見ると、取得は毎年続いていることがわかります。2026年5月8日には、上限2,000億円・14億株の取得枠(取得期間2026年5月11日〜2027年3月31日)が決議されています。

配当性向の引き上げは「減益の年」に起きた

配当性向の推移を並べると、別の姿が見えます。

期2018/032022/032023/032024/032025/032026/032027/03予
配当性向33.3%34.9%34.5%33.8%43.5%42.0%44.6%

利益が最高だった2024年3月期の配当性向は33.8%で、2018年3月期とほぼ同じです。配当性向が上がったのは、利益が落ちた2025年3月期以降です。 利益が21.8%減ったのに配当を増やした結果、比率が9.7ポイント跳ねました。つまり「8年かけて配当性向を引き上げた」というより、利益が最高の年を基準に増配を積んだ後、利益が落ちても増配を続けたことで比率が押し上げられたというのが実態に近いです。

2027年3月期の会社予想もこの形です。EPS12.10円は前期の12.61円から4.0%減る一方、配当は5.3円から5.4円へ増えます。配当性向は44.6%です。

この3つは同じようには続かない

  • 利益成長だけが制約なく続けられます。 その実績は年率1.82%、営業利益は0.49%で、増配を支えるには細い。
  • 自社株買いは利益から出す支出です。 2025年度の自己株式取得の支出は204,910百万円で、営業CFの約14%です。一方、営業CFは銀行業の貸出金増加の影響で2025年度に大きく下がっており(§6)、同じペースを続ける余裕は前期より小さくなっています。
  • 配当性向には天井があります。 すでに44.6%の予想で、利益の半分近くを配当に回しています。しかも調整弁として使ってきたため、次の減益時に使える余地は小さい。

5. 不況期に何が起きたか

10年20年持てば、不況を複数回またぎます。取得した短信の範囲で確認できた局面は次のとおりです。

局面営業利益の変化配当の対応配当性向回復
2018年3月期→2019年3月期当期利益 -4.8%増配(3.0円→3.6円)33.3%→40.9%翌期に当期利益は横ばい(+0.1%)
2020年3月期-7.8%(当期利益は+0.1%)増配(3.6円→3.8円)41.1%2年後の2022年3月期に超える
コロナ禍の2021年3月期+7.0%(むしろ増益)増配(4.0円→4.2円)42.3%減益なし
2025年3月期-14.2%(当期利益 -21.8%)増配(5.1円→5.2円)33.8%→43.5%2026年3月期も1,706,221百万円で、2024年3月期の1,922,910百万円に未回復

リーマンショック期(2008〜09年)の連結通期短信は本調査で取得していないため、この記事では未検証です。 検証できているのは2017年3月期以降の10期の範囲です。

2020年3月期の営業利益減少(-7.8%)の要因は、取得した資料からは特定できませんでした。コロナ禍の2021年3月期はむしろ営業利益が+7.0%で、通信という収益の形は景気の揺れに強いことが確認できます。

注目すべきは直近の2025年3月期です。 営業利益が14.2%減り、当期利益が21.8%減った期にも、配当は増やされました。配当は減らなかった代わりに、配当性向が33.8%から43.5%へ上がっています。 そして営業利益は2026年3月期も2024年3月期の水準(1,922,910百万円)に戻っておらず、約11.3%下回ったままです(回復年数は未確定)。減益から回復しきる前に次の局面に入っている、というのが現在地です。

6. 財務の耐久力

営業キャッシュ・フロー(営業CF)は、2025年3月期まで9期連続で2兆円を超えていました。

期営業CF投資CF
2017年3月期(米国基準)2,917,357百万円-2,089,311百万円
2021年3月期3,009,064百万円-1,424,532百万円
2022年3月期3,010,257百万円-1,699,152百万円
2024年3月期2,374,159百万円-1,989,235百万円
2025年3月期2,364,031百万円-1,999,644百万円
2026年3月期1,485,190百万円-1,023,424百万円

営業CFの配当総額に対する倍率は、2021年3月期の約7.8倍、2025年3月期の約5.5倍から、2026年3月期は3.4倍(1,485,190 ÷ 434,693)まで下がりました。 営業CFは前期比-37.2%です。短信は減少の要因として銀行業の貸出金増加(1兆99億円)などを挙げ、休日の影響を除いた前年比を-31.6%としています。銀行業の貸出金増加は事業の収益力の低下とは性質が違うため、この営業CFを以前と単純に比べることはできません。ただし、銀行業を除いたベースの営業CFは本記事では取れていません。投資CFが2026年3月期に小さくなった理由も、取得した資料からは特定できませんでした。

ただし、貸借対照表は大きく変わった

期末自己資本比率有利子負債株主資本に対する有利子負債比率
2017年3月期(米国基準)42.6%未取得未取得
2018年3月期42.0%未取得未取得
2021年3月期32.9%未取得未取得
2022年3月期34.7%7.36兆円88.9%
2023年3月期33.8%8.23兆円96.1%
2024年3月期33.3%9.59兆円97.4%
2025年3月期34.0%10.01兆円97.9%
2026年3月期20.8%15.71兆円161.5%

有利子負債は会社定義(億円単位の開示)で、2021年3月期以前は本記事では取得していません。D/Eレシオに相当する会社公表の「有利子負債の株主資本に対する比率」は、97.9%から161.5%へ、1年で急上昇しました。 自己資本比率と有利子負債の見方は自己資本比率と有利子負債、負債資本比率で扱っています。

自己資本比率の段階的な低下は2段階あります。

  1. 2021年3月期(39.4%から32.9%)。 2020年12月のNTTドコモ完全子会社化が、短信に記載されています。
  2. 2026年3月期(34.0%から20.8%)。 総資産が30.06兆円から46.72兆円へ増え、有利子負債は+5兆7,015億円増えました。短信は要因として、住信SBIネット銀行の連結子会社化(2025年10月)、NTTデータグループの完全子会社化(2025年9月完了)、非支配持分からの子会社持分取得による支出2兆3,957億円、借入債務の収支+3兆6,850億円を挙げています。

銀行子会社を連結すると預金が負債・貸出金が資産として計上されるため、通信事業の借入増とは意味が異なります。ただし、有利子負債15.7兆円のうち、銀行事業に由来する部分と、NTTデータグループの完全子会社化のための借入に由来する部分の内訳は、本記事で取得した資料からは特定できませんでした。 2026年度第1四半期の動きは四半期記事で扱っています。

7. 10年スパンで何が変わりうるか

国内の通信市場は成熟しています。 固定通信ではレガシービジネスの収入減少が続いており(短信の記載)、成長は非通信領域に頼る構造です。NTTが通信中核からデータセンター、AI、金融、グローバルへ事業を広げているのは、この構造への対応です。

料金や規制は個社の努力で変えられません。 通信は規制業種であり、料金への政策的な関与や、事業の枠組みを決める制度の変更が、10年のうちに再び起きうる前提を置く必要があります。

金利の水準は10年一定ではありません。 有利子負債が15.7兆円に増えた状態では、金利の上昇は金融費用として損益に効きます。2022年3月期の有利子負債7.36兆円の時とは、感応度が違います。

非通信領域の成否が、利益の伸びを決めます。 NTTデータグループの完全子会社化や銀行の連結は、事業の幅を広げましたが、その成果は今後の営業利益に表れるかどうかで決まります。取得した時点で見える数字は、有利子負債の増加と、自己資本比率の低下の方です。

設備投資は止められません。 通信インフラとデータセンターは継続的な投資を必要とし、この支出を絞って株主還元に回す選択は、長期の競争力を損なう可能性があります。

8. 株主還元方針と、そこから読めること

会社の2022年12月20日付説明資料(中期経営戦略)は、株主還元の方針として次の3点を示しています。

  • 「2011年度から12期連続増配の予定」
  • 「継続的な増配の実施を基本的な考えとする」
  • 「自己株式の取得は機動的に実施し資本効率の向上を図る」

これを起点に数えると、2025年度で15期連続増配(2011〜2025年度。2010年度は前年度と同額の1.2円)です。配当性向の数値目標、累進配当、DOEの宣言は、取得した資料からは確認できませんでした。 明文があるのは「継続的な増配」と「自社株買いは機動的に」の2点です。

実績の配当性向は、2017年3月期の30.7%から、2019〜2021年3月期の40〜42%、2022〜2024年3月期の33〜35%、2025年3月期以降の42〜44%へと動いています。利益が伸びた3年間は比率が下がり、利益が落ちた期は上がる、という形です。

ここから読める会社の行動様式は2つです。

  1. 増配の継続そのものを優先している。 利益が21.8%減った期にも、増配を止めていません。
  2. 自社株買いを「機動的」に使い、株数を減らしてきた。 2025年度の取得は204,910百万円、2026年5月に上限2,000億円・14億株の新しい枠が決議されました。14億株は、2026年3月期末の自己株式を除く株数約814億株の約1.7%に当たります。

株主にとっては予測しやすい方針ですが、利益が落ちたときの調整弁が配当性向であり、さらに自社株買いの原資と自己資本比率が犠牲になりうることを意味します。方針に数値目標が無い以上、どこで止めるかは会社の裁量です。

9. 長期保有を取り崩す可能性がある要因

「10年持つつもりで買ったが、途中で判断を変える必要が出てくる」条件です。

自社株買いが止まったとき。 増配の伸びのおよそ34%を担っているので、これが止まれば1株配当の伸びは利益成長と配当性向の上積みだけになります。有利子負債が増えた後の資金配分で、自社株買いの優先順位が下がる可能性は排除できません。

配当性向が50%前後で定着したとき。 2025年3月期以降は43.5%、42.0%、予想44.6%と上がっています。これ以上は利益の半分以上を配当に回すことになり、投資に使える利益が細ります。

自己資本比率の低下が止まらないとき。 20.8%の水準が、銀行子会社の連結とNTTデータの取り込みに伴う一時的な水準なのか、さらに低下するのかで、財務の耐久力の評価は変わります。

営業利益が2期以上続けて減ったとき。 2025年3月期の-14.2%の後、2026年3月期は+3.4%と戻していますが、2024年3月期の水準には届いていません。2027年3月期の会社予想も営業利益+0.2%でほぼ横ばいです。

10. リスク

増配記録そのものが判断を歪める可能性。 15期連続という記録は、会社にとって守る動機が強く働きます。守るために配当性向を上げ続け、財務の余力を使い続ければ、いずれ利益の裏づけを欠いた配当になります。記録の継続を安心材料と読むと、この順序が逆になります。

財務レバレッジの急上昇。 自己資本比率20.8%は1年前の34.0%の6割、有利子負債の株主資本に対する比率は161.5%です。ROE 10.4%という数字も、自己資本が薄くなったことの影響を含みます。

利益の伸びが弱いこと。 営業利益は8年で+4.0%、年率0.49%です。事業の幅を広げた効果が営業利益に表れていない点は、取得した資料で確認できた事実です。

営業CFの比較可能性。 銀行業の連結で営業CFの性格が変わったため、2026年3月期以降は過去と同じ物差しで配当の裏づけを測れなくなりました。

本記事のデータの制約。 財務数値はすべて決算短信から取っていますが、次の制約があります。2017年3月期は米国基準で他の期と連続していません。有利子負債は2022年3月期以降のみ取得しています。リーマンショック期は未検証です。株価・時価総額の時点確認にはIR BANK(二次情報)を使いました。

11. まとめ — どういう投資家に向くか

実績の面では、配当の下がらなさは確認できます。 15期連続増配、10期のうち減配なし、営業利益-14.2%の期にも増配、事業が消える種類のものでもありません。

一方で、増配のペースは利益成長のペースではありません。 年率7.37%の増配に対し、当期利益は年率1.82%、営業利益は0.49%です。差を埋めたのは、自社株買いによる株数の減少と配当性向の引き上げで、利益成長由来は4分の1にとどまります。そして2025年度に、自己資本比率の急低下と有利子負債の急増という財務の変化が加わりました。

判断の分かれ目は2つです。

論点Aと見るならBと見るなら
増配の原資の4分の3が利益成長以外資本効率を高める経営として評価できる。事業が安定しているので、自社株買いと配当性向の調整で還元を維持できる利益が伸びない会社の還元は、株数減と配当性向という有限の原資に依存しており、いずれ鈍化する
自己資本比率34.0%→20.8%、有利子負債10.0兆円→15.7兆円銀行の連結とNTTデータの完全子会社化という一度きりのイベントで、取り込んだ事業の利益が今後の営業利益を押し上げる利益が伸びない中でレバレッジだけが上がっており、金利上昇や減益への耐性が落ちた

Aと見るなら、安定した通信基盤から資本政策で還元を伸ばし続ける会社として、長期保有に向く余地があります。Bと見るなら、増配記録が続くうちに、その裏づけが薄くなっている会社ということになり、長期保有には向かないという結論もありえます。 本記事はどちらが正しいかを決めるものではありません。分かれ目がここにあることを示すのが目的です。分かれ目を判断する材料は、取り込んだ事業が営業利益に表れるかどうかです。

この記事は年に1回、通期決算の発表後に更新します。次回の更新は2027年5月の通期決算後で、確認することは次の3つです。2027年3月期の当期利益が会社予想(9,800億円)に対してどこに着地したか、増配が16期連続になるか、次期の配当予想はいくらか、自己資本比率が20.8%から反転したか。あわせて、§6で特定できなかった有利子負債15.7兆円の内訳を、有価証券報告書まで遡って確認します。

この記事の見立てが外れたと判断する条件

以下のいずれかが起きた場合、本記事の整理は前提から崩れます。買うかどうかを判断する際は、 強気材料と同じだけこちらも見てください。

  • 自社株買いの規模が縮小または停止し、株数の減少が止まった場合。1株配当の伸びのおよそ3分の1を担ってきた要素が消え、増配のペースは当期利益の伸び(年率1.8%)に配当性向の上積みを足した程度まで落ちる。
  • 配当性向が50%前後で定着した場合。2025年3月期以降は43.5%、42.0%、予想44.6%と上がってきており、利益が減る年にも増配を続ける限り上昇が続く。ここが天井に当たれば、配当性向の引き上げという最大の原資が使い切られたことになる。
  • 2027年3月期の当期利益が会社予想の980,000百万円を下回り、減益が2期以上続いた場合。本記事は「単年の減益は増配を止めない」という実績に立っており、連続減益はその前提を崩す。
  • 自己資本比率が20.8%からさらに低下する、または有利子負債の株主資本に対する比率が161.5%を上回って拡大した場合。2025年度の財務の変化を一時的な構造変更とみる見立てが外れ、恒常的なレバレッジ上昇と判断を改める必要が出る。
  • 営業キャッシュ・フローが配当総額の3倍を下回った場合。2026年3月期は3.4倍で、すでに2021年3月期の約7.8倍からは半分以下に下がっている。銀行事業の貸出金増加を除いた実力ベースで下回るなら、配当の裏づけの評価をやり直す。
  • 会社が減配または前期比同額の配当予想を出した場合。2011年度以来の増配を優先する行動様式が変わったことを意味する。

よくある質問

NTTは何期連続で増配していますか?
会社の2022年12月の説明資料に「2011年度から12期連続増配の予定」とあり、2010年度は前年度と同額だったため、これを起点に数えると2025年度(2026年3月期)で15期連続増配です。2027年3月期の配当予想は年間5.40円(中間2.70円・期末2.70円)で、継続する計画です。ただし2018年3月期からの8年で1株配当が+76.7%伸びたのに対し、当期利益は+15.5%の伸びで、差は自社株買いによる株数の減少と配当性向の引き上げで埋められています。
NTTの自己資本比率はなぜ下がったのですか?
2026年3月期末の自己資本比率は20.8%で、前期末の34.0%から13.2ポイント下がりました。会社の決算短信は、住信SBIネット銀行の連結子会社化(2025年10月)、NTTデータグループの完全子会社化(2025年9月完了)、借入債務の増加(収支+3兆6,850億円)を挙げており、総資産は30.06兆円から46.72兆円へ、有利子負債は10.0兆円から15.7兆円へ増えました。銀行業の預金・貸出金の連結がどれだけ寄与したかの内訳は、本記事で取得した資料からは特定できませんでした。
NTTは過去に減配したことがありますか?
本記事が確認した2017年3月期以降の10期では、減配はありませんでした。営業利益が-7.8%となった2020年3月期は3.6円から3.8円へ、営業利益が-14.2%・当期利益が-21.8%となった2025年3月期も5.1円から5.2円へ増配しています(いずれも分割調整後)。その代わり、2025年3月期の配当性向は33.8%から43.5%へ上がりました。リーマンショック期(2008〜09年)の連結通期短信は本調査では取得しておらず、この時期の実績は未検証です。

参考文献・引用元

  1. 01
    日本電信電話株式会社「2018年3月期 決算短信〔米国基準〕(連結)」

    2018年5月11日開示。2017年3月期(米国基準)の営業収益・営業利益・当社帰属利益・営業CF・投資CF・株主資本比率・1株配当と配当性向、および期末発行済株式数・自己株式数の起点を参照。2018年3月期の米国基準の当時値(営業収益11,799,587、営業利益1,642,843、当期利益909,695百万円)もここから取った。 / 2018/05/11 開示

  2. 02
    日本電信電話株式会社「2019年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」

    2019年5月10日開示。IFRS組替後の2018年3月期の比較列(営業収益11,782,148、営業利益1,641,086、当期利益897,887百万円、株主資本比率42.0%)と2019年3月期の実数を参照。 / 2019/05/10 開示

  3. 03
    日本電信電話株式会社「2021年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」

    2021年5月12日開示。2020年3月期・2021年3月期の業績、株主資本比率、営業CF・投資CF、配当の状況、NTTドコモ完全子会社化(2020年12月)の記載を参照。 / 2021/05/12 開示

  4. 04
    日本電信電話株式会社「2023年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」

    2023年5月12日開示。2022年3月期・2023年3月期の業績、株主資本比率、有利子負債および株主資本に対する比率、営業CF・投資CF、配当の状況を参照。 / 2023/05/12 開示

  5. 05
    日本電信電話株式会社「2024年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」

    2024年5月10日開示。2024年3月期の業績、期初予想5.00円から着地5.10円への配当、株数、有利子負債、営業CF・投資CFを参照。 / 2024/05/10 開示

  6. 06
    日本電信電話株式会社「2025年度(2026年3月期) 決算短信〔IFRS〕(連結)」

    2026年5月8日開示(IR BANK上の題名は「2025年度決算短信〔IFRS〕(連結)」)。2025年3月期・2026年3月期の業績、2027年3月期の会社予想(EPS12.10円、税引前利益1,500,000百万円、配当5.40円)、総資産30.06兆円→46.72兆円、有利子負債の増加要因、営業CFの減少要因、期中平均株式数、自己株式取得による支出、2026年5月8日の自己株式取得枠決議、セグメント別実績を参照。 / 2026/05/08 開示

  7. 07
    日本電信電話株式会社「2026年度第1四半期 決算説明会資料」

    2026年8月6日開示。配当推移グラフ(分割調整後の1株配当が本記事の系列と一致することの確認)と、自己株式取得の推移を参照。 / 2026/08/06 開示

  8. 08
    日本電信電話株式会社「2022年12月20日 説明資料」

    株主還元の方針(中期経営戦略)として「2011年度から12期連続増配の予定」「継続的な増配の実施を基本的な考えとする」「自己株式の取得は機動的に実施し資本効率の向上を図る」との記載を参照。連続増配年数と還元方針の根拠。 / 2022/12/20 開示

  9. 09
    IR BANK「日本電信電話(9432)」「決算まとめ」「配当金の推移」

    二次情報。2026年10月9日の株価・時価総額の時点確認と、決算発表予定日(2026年11月4日)の確認に使用。本文の財務数値はすべて上記の決算短信から取っており、IR BANKの数値は使っていない。