トクヤマ(4043) 営業利益22.9%減でも純利益6.0%増、配当は132円に増額
本記事をお読みになる前に
本記事は筆者個人の見解であり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。記載内容は有価証券報告書等の公開情報にもとづく分析ですが、正確性・完全性を保証するものではなく、将来の株価や業績を約束するものでもありません。投資判断は必ずご自身で情報を確認し、責任をもって行ってください。本記事はあくまで参考情報としてご利用ください。
生成AI利用本記事は、決算短信・有価証券報告書などの一次情報をもとに、生成AIを用いて作成・編集しています。掲載する数値は一次情報との照合を行っていますが、誤りが含まれる可能性を排除できません。重要な数値は必ず出典元の原典でご確認ください。
株式会社トクヤマ
2026/09/04 時点
株価
3,898円
時価総額
2,805億円
配当利回り
3.39%
年間132円
PER
10.8倍
PBR
0.98倍
ROE
8.2%
ROA
7.4%
経常利益ベース
自己資本比率
49.7%
配当性向
36.5%
有利子負債
1,647億円
D/Eレシオ
0.57倍
有利子負債÷自己資本
※ 指標は記事執筆時点のスナップショットです。最新の数値はご自身で証券会社等の情報をご確認ください。
この記事の結論
- 2027年3月期第1四半期は、化成品セグメント(苛性ソーダ・塩化ビニル等)の悪化で営業利益が前年同期比22.9%減となった一方、政策保有株式の売却益や為替差損益の改善という特別損益・営業外損益の要因で、純利益は6.0%増となった。
- 通期業績予想は7月29日に初めて公表され、営業利益は前期比8.2%減・経常利益は11.0%減の見込みだが、純利益は17.1%増の見込み。本業の減速と最終利益の増加が同時に予想されている。
- 配当予想は同じ日に120円から132円へ増額された。会社は単年度の業績連動ではなく、DOE(株主資本配当率、2027年3月期3.4%・2030年度目標4.0%)を基準にした中期的な累進配当方針を掲げており、業績と配当の意思決定が分離されている。
- セメント・固化材の国内販売事業は太平洋セメントへの譲渡が決定済みだが、この影響は今回の通期予想に未反映。譲渡価格は開示資料に記載がなかった。
- PER10.79倍・PBR0.98倍・予想配当利回り3.39%(いずれも会社予想ベース)という指標をどう見るかは、本業の減速をどこまで重く見るか、DOEベースの配当方針をどこまで信頼するかで分かれる。
目次11項目
1. 概要
2026年9月4日時点の株価3,898円をもとにすると、PER10.79倍・PBR0.98倍・予想配当利回り3.39%・自己資本比率49.7%という水準です(PER・PBR・配当利回りはいずれも会社予想ベース)。PBR0.98倍は、2010年以降のレンジ(0.21〜2.18倍)で見るとほぼ中央よりやや下の水準にあたります。ROE8.2%・ROA(総資産経常利益率)7.4%は、直近の本決算(2026年3月期)の実績です。
2026年7月29日、トクヤマは2027年3月期第1四半期の決算とあわせて、それまで「未定」としていた通期業績予想と配当予想を初めて公表しました。ここで2つの対照的な動きが同時に出ています。ひとつは、2027年3月期第1四半期の営業利益が、化成品セグメントの悪化で前年同期比22.9%減となったこと。もうひとつは、それにもかかわらず純利益は6.0%増、配当予想は120円から132円へ増額されたことです。本業が弱含む一方で最終利益と配当が強くなるという組み合わせをどう読むかが、この記事の中心です(第4節で詳しく扱います)。
あわせて、太平洋セメントへのセメント・固化材事業の譲渡が決定済みであること、2026年3月期の各利益が「のれん」金額の確定により遡及修正されていることにも触れます。
2. 会社概要とビジネスモデル
トクヤマは、化成品(苛性ソーダ・塩化ビニル等の汎用化学品)、セメント、電子先端材料(多結晶シリコン・乾式シリカ等、半導体関連が中心)、ライフサイエンス(歯科材料・診断・医薬品原薬中間体)、環境事業の5セグメントを持つ総合化学メーカーです。2027年3月期第1四半期の売上構成比は、化成品28.8%・セメント18.7%・電子先端材料26.0%・ライフサイエンス17.1%・環境事業1.3%(その他・調整額を除く)となっており、汎用化学品への依存度が下がりつつあります。
近年はM&Aによる事業構成の変化が目立ちます。トクヤマライフサイエンスグループの連結により、ライフサイエンスセグメントの売上高は2027年3月期第1四半期に前年同期比61.5%増と急拡大しました。一方で、セメント・固化材の国内販売事業は太平洋セメントへの譲渡が決まっており(詳細は第6節)、今後は事業ポートフォリオそのものが変わっていく局面にあります。
強みと弱みの整理
強み
5セグメントに事業が分散している
2027年3月期第1四半期は、電子先端材料の営業利益が31億26百万円(前年同期比+10.8%)、ライフサイエンスが26億40百万円(同+54.8%)と、化成品の落ち込みを補っています。単一市況・単一製品に業績が振れにくい構造です。
DOEを基準にした累進配当方針
2027年3月期は営業減益予想にもかかわらず、DOE(株主資本配当率)3.4%を根拠に配当を120円から132円へ増額しました。2030年度にDOE4.0%を目標とする方針を明示しており、単年度の業績変動だけでは減配しにくい設計になっています。
自己資本比率は50%前後を維持
2027年3月期1Q末の自己資本比率は49.7%。トクヤマライフサイエンスグループの連結という大型M&Aを経てもなお、50%前後の水準を保っています。
弱み
化成品セグメントが急激に悪化している
苛性ソーダ・塩化ビニル等を含む化成品セグメントの営業利益は、2027年3月期第1四半期に前年同期比81.4%減の5億23百万円まで落ち込みました。原燃料コスト増が共通の下押し要因で、通期の営業減益予想(前期比8.2%減)の主因でもあります。
純利益の増益は非経常要因に支えられている
経常利益が前年同期比11.8%減となる一方、純利益が6.0%増となったのは、政策保有株式の売却益と為替差損益の改善という特別損益・営業外損益の要因によるものです。本業の実力を映しているとは言い切れません。
有利子負債とD/Eレシオが高まっている
有利子負債は2027年3月期1Q末で1,647億円、D/Eレシオ(有利子負債÷自己資本)は0.57倍です。2026年3月期は投資キャッシュフローが1,229億75百万円の流出、財務キャッシュフローが417億92百万円の流入となっており、大型M&Aを借入で賄った資金の動きがうかがえます。
3. 業績の推移
数値で確認する
| 決算期 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 純利益 | 営業CF | 自己資本比率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2021/03 | 302,407 | 30,921 | 30,796 | 24,534 | 43,314 | 51.3% |
| 2022/03 | 293,830 | 24,539 | 25,855 | 28,000 | 25,986 | 51.8% |
| 2023/03 | 351,790 | 14,336 | 14,783 | 9,364 | -11,800 | 48.0% |
| 2024/03 | 341,990 | 25,637 | 26,292 | 17,751 | 55,828 | 54.5% |
| 2025/03 | 343,073 | 29,968 | 29,588 | 23,388 | 52,368 | 54.9% |
| 2026/03 | 349,476 | 37,071 | 38,256 | 22,207 | 50,985 | 50.8% |
| 2027/03会社予想 | 392,000 | 34,000 | 34,000 | 26,000 | — | — |
読み取れることは3つあります。
1つ目は、利益の振れ幅が大きいことです。 営業利益は2021年3月期の309億21百万円から、2023年3月期には143億36百万円(前期比41.6%減)まで落ち込み、2024年3月期は78.8%増と急回復しました。この落ち込みの具体的な要因は本記事で参照した資料からは特定できませんが、化学業界全体で原燃料価格が高騰していた時期と重なります。
2つ目は、2026年3月期に売上高・営業利益・経常利益がまとまって伸びたことです。 売上高は前期比1.9%増の3,494億76百万円、営業利益は同23.7%増の370億71百万円、経常利益は同29.3%増の382億56百万円でした。トクヤマライフサイエンスグループの連結や電子先端材料の改善が寄与しています。
3つ目は、その2026年3月期ですら、純利益だけが経常利益の伸びについていっていないことです。 経常利益が29.3%増えたのに対し、純利益は222億07百万円で前期比5.1%の減少でした。今回の第1四半期は「経常減益・純利益増益」という逆方向の乖離ですが、直近本決算でも経常利益と純利益の伸び方向がすでにずれていたことになります。理由は本記事で参照した資料からは特定できません。
遡及修正について 2026年3月期の営業利益・経常利益・純利益・EPSは、トクヤマライフサイエンスグループの企業結合に係る「のれん」金額の確定にともない遡及修正されています。差額は僅少ですが、系列の一貫性のため本記事の
financialsには修正後の数値を採用しています。
項目 修正前 修正後 営業利益 370億17百万円 370億71百万円 経常利益 382億03百万円 382億56百万円 純利益 222億05百万円 222億07百万円 EPS 308.64円 308.66円
4. 本業は減速、なぜ純利益と配当は増えたのか
2027年3月期第1四半期の連結損益は次のとおりです。
| 項目 | 2026年3月期1Q | 2027年3月期1Q | 前年同期比 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | — | 856億54百万円 | +4.7% |
| 営業利益 | — | 60億76百万円 | △22.9% |
| 経常利益 | — | 67億08百万円 | △11.8% |
| 親会社株主に帰属する四半期純利益 | — | 52億04百万円 | +6.0% |
出典:2027年3月期第1四半期決算短信
2027年3月期第1四半期の営業利益は前年同期比22.9%の減益です。原因は明確で、化成品セグメント(苛性ソーダ・塩化ビニルモノマー・塩化ビニル樹脂・ソーダ灰等)の営業利益が81.4%減の5億23百万円まで落ち込んだためです。いずれの製品も原燃料コスト増が共通の下押し要因で、塩化ビニル樹脂は国内販売価格の改定でほぼ前年並みを保ったものの、他の製品は数量減・製造コスト増の両方を受けています。
一方、営業外損益では前年同期の為替差損が為替差益に転じたことなどで9億14百万円改善し、経常利益の減益幅は11.8%へ縮小しました。さらに特別損益では、政策保有株式の縮減にともなう投資有価証券売却益の増加等で5億41百万円改善しています。税金等調整前四半期純利益は前年同期比4.6%減とほぼ横ばいでしたが、税金費用を勘案した後の四半期純利益は3.7%増、親会社株主に帰属する分では6.0%増となりました。
つまり、営業利益→経常利益→純利益と段階を追うごとに、悪化幅が縮小し、最終的にはプラスに転じています。 これは本業の改善によるものではなく、(1)為替差損益の改善という営業外の要因、(2)政策保有株式売却益という特別損益の要因、という2つの非経常項目が積み上がった結果です。第3節で見たとおり、2026年3月期通期でも経常利益と純利益の伸び方向がすでにずれていたことを踏まえると、この会社では「経常利益の伸びと純利益の伸びが一致しない」ことがこの一四半期に限った現象ではない可能性があります。
同じ7月29日、会社は通期業績予想も初めて公表しました。売上高3,920億円(前期比+12.2%)・営業利益340億円(同△8.2%)・経常利益340億円(同△11.0%)・純利益260億円(同+17.1%)という内容で、四半期決算と同じ「本業は減速、最終利益は増加」という構図が通期でも見込まれています。
そして同じ日、配当予想も公表されました。 前期実績120円に対し、2027年3月期は132円(中間60円・期末72円)です。会社の説明では、この配当は単年度の業績連動ではなく「単年度の業績の影響を受けにくいDOE(株主資本配当率)を財務指標として、2030年度に4.0%を目標に継続的な配当増額を目指す」という中期方針にもとづいており、2027年3月期はDOE3.4%とされています。
営業利益が8.2%減る見込みの年に、配当は据え置きではなく増額されました。これは、業績の弱さと配当の強さが矛盾しているというより、会社が業績の連動先を「単年度の利益」から「株主資本(DOE)」に切り替えたことの表れと読めます。DOEを基準にする配当方針そのものは化学セクターでは珍しくありません(第7節)。ただし、この方針を採ってから間もないため、実際に減益局面でも維持されるのかは、今回の1回だけでは検証できていません。
5. 配当の推移
| 決算期 | 期初予想 | 年間配当 | 期初比 | 配当性向 |
|---|---|---|---|---|
| 2021/03 | — | 70円 | — | 19.9% |
| 2022/03 | — | 70円 | — | 18.0% |
| 2023/03 | — | 70円 | — | 53.8% |
| 2024/03 | — | 80円 | — | 32.4% |
| 2025/03 | 100円 | 100円 | 0円 | 30.8% |
| 2026/03 | — | 120円 | — | 38.9% |
| 2027/03会社予想 | — | 132円 | — | 36.5% |
- 2025/03:期初(2024年4月)予想100円のとおり着地。予想からの修正なし。
- 2027/03:期初(2026年4月)時点は業績予想・配当予想とも「未定」。2026年7月29日、通期業績予想の公表とあわせて配当予想を初めて開示し、前期実績120円から132円へ増額した。DOE(株主資本配当率)3.4%を根拠とする。
配当は2021年3月期の70円から、2027年3月期予想の132円まで、6期でおよそ1.9倍になりました。特に2024年3月期以降は、80円→100円→120円→132円と、毎期増額が続いています。
注目したいのは2027年3月期の性質の違いです。他の期は期初(4月)の段階で予想を公表していますが、2027年3月期だけは期初時点で業績予想・配当予想ともに「未定」でした。 会社は「合理的な算定が困難」としてこれを見送り、7月29日の第1四半期決算とあわせて初めて予想を公表しています。つまりこの期のinitialForecast(期初予想)は存在しません。予想利回り3.39%は、期初予想からの修正ではなく、四半期決算と同時に初めて示された会社予想にもとづく数値です。
配当性向は2023年3月期に53.8%まで跳ね上がったあと(第3節のとおり、この期は純利益が大きく落ち込んだ年です)、2024年3月期以降は30%台で推移しています。2027年3月期予想の配当性向は36.5%で、直近の水準からは大きく外れていません。ただし、この配当性向はDOEベースで決めた配当132円を会社予想EPS361.38円で割った結果にすぎず、業績連動で決めた数字ではない点は第4節のとおりです。
6. 会社の現状と直近の動き
セグメント別の状況(2027年3月期第1四半期)
| セグメント | 売上高(百万円) | 営業利益(百万円) |
|---|---|---|
| 化成品 | 24,688(△10.1%) | 523(△81.4%) |
| セメント | 16,052(△0.2%) | 2,551(+1.3%) |
| 電子先端材料 | 22,303(+5.0%) | 3,126(+10.8%) |
| ライフサイエンス | 14,690(+61.5%) | 2,640(+54.8%) |
| 環境事業 | 1,094(△26.0%) | △7(前年同期は+1億59百万円) |
| その他 | 9,732 | 251 |
| 調整額 | △2,908 | △3,009 |
| 合計 | 85,654 | 6,076 |
出典:2027年3月期第1四半期決算短信・添付資料
化成品以外の4セグメントは、環境事業を除いておおむね堅調です。セメントは国内出荷が減る中でも連結子会社の収益改善でほぼ前年並みの営業利益を確保(減収増益)、電子先端材料は多結晶シリコンの棚卸資産評価損縮小や乾式シリカ・放熱材の半導体製造装置向け需要が増収増益に寄与、ライフサイエンスはトクヤマライフサイエンスグループの連結と歯科器材・医薬品原薬の堅調で大幅増収増益でした。環境事業だけはイオン交換膜の出荷減で営業損失に転落しています。
セメント・固化材事業の太平洋セメントへの譲渡
2026年3月25日、トクヤマはセメント・固化材の国内販売事業、および連結子会社2社(トクヤマ通商・トクヤマエムテック)の全株式を、会社分割で新設する完全子会社に承継させたうえで、その全株式を太平洋セメントに譲渡することを決定し、同日付で株式譲渡契約を締結しました。会社分割の効力発生日は2026年10月1日を予定しており、株式譲渡はその後、国内競争法等のクリアランス取得を経て実行されます。
背景として、国内セメント需要は1990年度の約8,629万トンをピークに減少が続いており、同社は2024年度にキルン3系列のうち1系列を停止し2系列体制に移行済みです。今回の譲渡完了(2028年度目途)を機に、セメント・固化材の製造そのものを停止する検討にも着手するとしています。現在のセメントセグメントの数字(第1四半期はほぼ前年並み)は、今後数年でセグメント構成そのものが変わることを前提に読む必要があります。
なお、株式譲渡価額は開示資料に記載がなく、本記事では金額を確認できていません。また、今回の通期業績予想には「クロージング前であり、影響額を精査中であることから」この譲渡の影響は織り込まれていません。
中期経営計画2030
会社は2030年度の目標として、売上高4,075億円(CAGR3.1%)・営業利益570億円(CAGR9.0%)・売上高営業利益率14.0%・EPS551円・ROE10.6%・ROIC9.1%・DOE4.0%を掲げています。2027年3月期の会社予想(売上高3,920億円・営業利益340億円・EPS361.38円)はこの目標に向けた通過点という位置づけです。
その他、2027年3月期の設備投資予定額は461億19百万円(主に自己資金・借入金で充当)、第1四半期の研究開発費は47億63百万円、第1四半期末の現金及び現金同等物は476億28百万円です。
7. 業界とセクターの状況
化学セクター全体に共通する構造として、製品価格から原料価格を引いた「スプレッド」で利益が決まる点が挙げられます。原料価格(ナフサ等)が製品価格に転嫁されるまでには数か月のずれが生じるため、原料が急騰した期は利益が圧迫され、落ち着いた期に戻るという振れ方をします。トクヤマの化成品セグメントが2027年3月期第1四半期に大幅減益となったのも、この構造の一場面と位置づけられます。
もうひとつの構造は、利益が市況で振れやすいからこそ、配当を単年度の業績連動ではなく安定配当やDOE(株主資本配当率)に紐づける会社が多いことです。トクヤマが今回打ち出したDOEベースの累進配当方針も、この業界慣行に沿ったものと言えます。市況で利益が振れても配当は維持・増額されやすい設計ですが、裏を返せば「業績が悪い年の配当性向が跳ね上がりやすい」ということでもあります(2023年3月期の配当性向53.8%はその一例です)。
セメント事業に限れば、国内需要が1990年度をピークに構造的な減少局面にあるという、個社の努力では変えられない制約があります。トクヤマが太平洋セメントへの事業譲渡を選んだ背景にも、この産業全体の縮小があります。
8. 今後のスケジュール
2027年3月期 第2四半期(中間) 決算発表
過去の発表時期からの推定
2027年3月期 第3四半期 決算発表
過去の発表時期からの推定
2027年3月期 通期 決算発表
過去の発表時期からの推定
2028年3月期 第1四半期 決算発表
過去の発表時期からの推定
9. 想定されるカタリスト
化成品セグメントの営業利益が底打ちしているかを確認する最初の機会。通期予想(営業利益340億円)に対する進捗率が焦点になる。
会社分割の効力発生は2026年10月1日を予定。その後、競争法等のクリアランスを経て株式譲渡が実行される。クロージング時に通期業績予想への影響額が織り込まれる見通し。
投資有価証券売却益は特別利益として計上されており、縮減が続けば純利益を押し上げる一過性要因が続く可能性がある。ただし本業の実力を示すものではない。
会社が掲げる中期目標に対する進捗。電子先端材料・ライフサイエンスの成長が計画どおり進むかが目安になる。
10. 想定されるリスク
利益の質のリスク。 第4節のとおり、2027年3月期第1四半期の純利益増は、政策保有株式売却益と為替差損益の改善という非経常要因に支えられています。通期予想の純利益260億円(前期比+17.1%)も同様の構図を前提にしている可能性があり、特別要因が剥落すれば未達となるリスクがあります。
化成品セグメントの悪化が長引くリスク。 2027年3月期第1四半期の営業利益は前年同期比81.4%減という落ち込みで、原燃料コスト増という外部要因に加え、通期の営業減益予想(前期比8.2%減)の主因にもなっています。中間決算で回復の兆しが見えなければ、通期予想自体の下振れにつながります。
セメント事業譲渡が未反映であるリスク。 太平洋セメントへの株式譲渡はクロージング前で、影響額は今回の通期予想に織り込まれていません。クロージング時期や条件によっては、業績予想の修正が必要になる可能性があります。
財務レバレッジのリスク。 有利子負債1,647億円・D/Eレシオ0.57倍という水準は、大型M&Aを経た後の姿です。今後さらに借入を伴う投資が続けば、自己資本比率49.7%からの一段の低下につながる可能性があります。
配当政策が検証途中であるリスク。 DOEベースの累進配当方針は公表されたばかりで、実際に業績下振れ局面でも維持されるかどうかは、今後の決算を見なければ判断できません。
11. まとめ:どう判断材料にするか
トクヤマの2027年3月期第1四半期は、化成品セグメントの悪化という本業の弱さと、特別損益・営業外損益の改善による純利益増、そしてDOEを基準にした増配という、方向性の異なる3つの動きが同時に起きた四半期でした。事業は5セグメントに分散しており、電子先端材料・ライフサイエンスの伸びが化成品の落ち込みを補っている点は評価できますが、その補い方の中身(本業か非経常要因か)を区別せずに指標だけを見ると、実態を見誤ります。
判断の分かれ目は、この「本業の減速」と「最終利益・配当の増加」の分離を、どこまで問題視するかです。 DOEベースの配当方針を、市況で利益が振れやすい化学セクターに合理的な設計と見るなら、営業減益の年に配当が増えることは矛盾ではありません。一方、経常利益ベースでの本業の実力を重視する立場からは、化成品セグメントの81.4%減という落ち込みが今後どこまで長引くかを確認せずに、純利益や配当の数字だけで評価するのは早計です。
次の確認ポイントは、2026年11月上旬に予定される第2四半期(中間)決算です。化成品セグメントの営業利益が底打ちしているか、通期予想(営業利益340億円)に対する進捗率が暦按分の50%に届いているかを確認することをおすすめします。あわせて、太平洋セメントへの株式譲渡の進捗(会社分割の効力発生日は2026年10月1日予定)が業績予想にどう反映されるかも、今後の焦点になります。
この記事の見立てが外れたと判断する条件
以下のいずれかが起きた場合、本記事の整理は前提から崩れます。買うかどうかを判断する際は、 強気材料と同じだけこちらも見てください。
- 2027年3月期第2四半期(中間)決算で化成品セグメントの営業利益がさらに悪化し、通期予想(営業利益340億円)に対する進捗率が暦按分の50%を大きく下回った場合。本業の悪化が一過性ではなく構造的だったことになる。
- 特別損益(政策保有株式売却益等)に依存した増益構造が今後も続いた場合、経常利益ベースの実力を見誤ることになる。逆に、特別要因が剥落し純利益の伸び率が経常利益の伸び率(今期は減益)に収斂した場合は、本記事の「純利益は非経常要因に支えられている」という見立てが裏付けられたことになる。
- セメント・固化材事業の太平洋セメントへの株式譲渡がクロージングし、通期業績予想に影響額が織り込まれた場合。現時点で「未反映」というリスクが顕在化する。
- DOEを基準にした累進配当方針を掲げてから間もない中で、業績下振れが続き配当が据え置き・減配に転じた場合。方針が実際に維持されるかどうかは今後の決算で検証する必要がある。
よくある質問
- トクヤマ(4043)の2027年3月期の配当はいくらですか?
- 会社予想は年間132円(中間60円・期末72円)です。前期(2026年3月期)実績の120円から12円の増配で、2026年7月29日に通期業績予想とあわせて公表されました。単純計算で100株保有なら年間13,200円(税引前)になります。
- なぜ営業利益が減っているのに配当を増やしたのですか?
- 会社が配当の基準を単年度の業績ではなく、DOE(株主資本配当率)に置く方針を採っているためです。2027年3月期はDOE3.4%を想定し、2030年度に4.0%まで引き上げる目標を掲げています。営業利益は前期比8.2%減益の予想ですが、配当は中期的な累進配当方針にもとづいて増額されました。
- セメント事業を太平洋セメントに譲渡すると業績はどうなりますか?
- 2026年3月25日、セメント・固化材の国内販売事業と連結子会社2社の株式を太平洋セメントに譲渡することを決定しています。会社分割は2026年10月1日を予定し、株式譲渡はその後の競争法クリアランスを経て実行されます。この影響は精査中のため、2027年3月期の通期業績予想には織り込まれていません。譲渡価格は開示資料に記載がありませんでした。
参考文献・引用元
- 01トクヤマ 2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)
2026年7月29日開示。1ページ目「連結経営成績」「配当の状況」、添付資料のセグメント情報・経営成績に関する説明を参照。
- 02トクヤマ「2027年3月期 通期業績予想および配当予想に関するお知らせ」
2026年7月29日開示(決算短信と同日別紙)。期初「未定」からの通期業績予想・配当予想の初公表、遡及修正前後の数値、DOEを基準とした配当方針の説明を参照。
- 03トクヤマ「セメント・固化材の国内販売事業および一部連結子会社株式の譲渡に伴う完全子会社の設立および会社分割ならびに当該完全子会社株式の譲渡に関するお知らせ」
2026年3月25日開示。太平洋セメントへの株式譲渡の背景・スケジュールを参照。譲渡価額の記載は無かった。
- 04
トクヤマ 2026年3月期決算短信〔日本基準〕(連結)
2026年4月28日開示。遡及修正前の2026年3月期の各利益・EPS・自己資本比率の確認に使用。
- 05
トクヤマ 2024年3月期決算短信〔日本基準〕(連結)
2024年4月26日開示。2023年3月期の実績値、および2025年3月期の期初業績予想・配当予想の確認に使用。
- 06
トクヤマ 2022年3月期決算短信〔日本基準〕(連結)
2022年4月28日開示。2021年3月期の実績値の確認に使用。
- 07IR BANK「トクヤマ(4043) 決算まとめ/配当金の推移」
株価・時価総額・PBR/PERの過去レンジを、決算短信・有価証券報告書を集計した二次情報として参照した(2026年9月4日時点の表示)。