東ソー(4042) 営業利益1.9倍のQ1、在庫受払差と下期ナフサ77,000円前提をどう読むか
本記事をお読みになる前に
本記事は筆者個人の見解であり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。記載内容は有価証券報告書等の公開情報にもとづく分析ですが、正確性・完全性を保証するものではなく、将来の株価や業績を約束するものでもありません。投資判断は必ずご自身で情報を確認し、責任をもって行ってください。本記事はあくまで参考情報としてご利用ください。
生成AI利用本記事は、決算短信・有価証券報告書などの一次情報をもとに、生成AIを用いて作成・編集しています。掲載する数値は一次情報との照合を行っていますが、誤りが含まれる可能性を排除できません。重要な数値は必ず出典元の原典でご確認ください。
東ソー株式会社
2026/10/05 時点
株価
2,619円
時価総額
8,513億円
配当利回り
3.82%
年間100円
PER
13.7倍
PBR
0.96倍
ROE
7.0%
ROA
4.0%
純利益ベース
自己資本比率
57.3%
配当性向
52.2%
有利子負債
2,821億円
D/Eレシオ
0.34倍
有利子負債÷自己資本
※ 指標は記事執筆時点のスナップショットです。最新の数値はご自身で証券会社等の情報をご確認ください。
この記事の結論
- 2027年3月期第1四半期は、売上高2,741億74百万円(前年同期比+11.8%)・営業利益311億83百万円(同+93.9%)・経常利益343億2百万円(同+143.6%)・純利益194億56百万円(同+198.0%)。営業利益の増加151億円のうち、基礎素材+付加価値素材の「チェーン事業」が133億円を占め、会社自身が「在庫受払差が大きく改善した」ことを主因に挙げている。在庫受払差の金額は開示されていない。
- 通期予想は5月時点の「未定」から、8月に営業利益1,050億円(前期比+9.9%)・経常利益1,070億円(同+0.2%)・純利益590億円(同+41.8%)で初めて開示された。下期のナフサ前提は77,000円で、中間期の104,250円より約26%低い。第1四半期の営業利益が通期予想の29.7%に達している一方、下期の営業利益予想(550億円)は中間期予想(500億円)を上回る置き方になっている。
- 増益の「お金の裏付け」は弱い。第1四半期の営業CFは+4億円(前年同期比362億円の収入減)、投資CFは△200億円で、フリーCFは△196億円。有利子負債は2,289億円から2,821億円へ532億円増え、自己資本比率は59.0%から57.3%に低下した。短信は営業CF減少の理由を「売上債権及び棚卸資産の増加」などと説明するのみで、その内訳は開示されていない。
- 配当は年100円(会社予想、予想利回り3.82%・予想配当性向52.2%)。2026年3月期は利益の減少で配当性向が75.5%まで上がり、別に250億円の自社株買いも実施した。この還元水準を利益が下振れた年に維持できるかが、配当を見るうえでの分かれ目になる。
目次11項目
1. 概要
2026年10月5日時点で、株価は約2,619円、PERは13.67倍(2027年3月期の会社予想EPS191.63円ベース)、PBRは0.96倍(2026年6月末の自己資本から計算したBPS約2,732円ベース)、会社予想の年間配当100円に対する予想配当利回りは3.82%です。ROEは会社予想ベースで7.01%(IR BANK表示)、直近の確定値である2026年3月期は5.0%でした。自己資本比率は2026年6月末で57.3%です。
2026年8月4日に発表された2027年3月期第1四半期決算は、売上高が前年同期比+11.8%の2,741億74百万円、営業利益が+93.9%の311億83百万円と、ほぼ倍増でした。ただし会社自身がこの増益の主因を「在庫受払差が大きく改善した」ことと説明しており、その金額は開示されていません。 同じ四半期の営業CFは+4億円にとどまり、有利子負債は532億円増えました。第4節では、「増益のどこまでが市況起因か」「下期ナフサ77,000円という予想の置き方」「利益とお金の動きのずれ」の3点を、強気・弱気の両面から整理します。
なおPERとROEは参考値です。2026年3月期のPERは実績EPS132.40円で計算すると約19.8倍、予想EPSで計算すると13.67倍と、どちらの利益を採るかで大きく見え方が変わります。これは第3節・第4節で触れる市況による利益の振れが、そのまま指標に出ているためです。
2. 会社概要とビジネスモデル
東ソーは、エチレン・ポリエチレン・苛性ソーダ・塩ビ・セメント・MDIなどの基礎素材から、クロロプレンゴム・HDI系硬化剤・エチレンアミンなどの付加価値素材、バイオサイエンス、石英ガラス・ハイシリカゼオライト・ジルコニア・スパッタリングターゲットなどの高機能材料、水処理エンジニアリングまでを手がける総合化学メーカーです。2026年度第1四半期からセグメントを5区分に変更しており、前年同期の数値は組替後で比較されています。
2027年3月期第1四半期の売上高2,741億74百万円(セグメント売上高の億円丸めの合計は2,742億円)の内訳は、基礎素材が1,248億円(構成比約45%)、付加価値素材が429億円(約16%)、水処理エンジニアリングが420億円(約15%)、高機能材料が343億円(約13%)、バイオサイエンスが154億円(約6%)、その他が148億円(約5%)です。基礎素材と付加価値素材を合わせた「チェーン事業」が売上の約6割、バイオサイエンス・高機能材料・水処理を合わせた「先端事業」が約3割という構造です。
営業利益で見ると構図が変わります。第1四半期の営業利益313億円(億円丸めの合計)のうち、先端事業が155億円、チェーン事業が139億円で、先端事業は売上の約3割で利益の約半分を稼いでいます。ただし前年同期はチェーン事業が5億円しか稼げておらず、先端事業が143億円で利益の大半を支えていました。
強みと弱みの整理
強み
市況に左右されにくい先端事業が利益の土台になっている
先端事業(バイオサイエンス・高機能材料・水処理エンジニアリング)の営業利益は、前年同期の143億円から当期155億円へ+12億円。チェーン事業が前年同期に5億円しか稼げなかった局面でも、グループの営業利益160億円の約9割を先端事業が支えていました。
厚い自己資本とキャッシュ
自己資本は8,411億円、自己資本比率57.3%(2026年6月末)。現金及び預金は1,913億円あります。2026年3月期は営業CF1,145億円に対し投資CF△721億円で、設備投資を営業CFの範囲で賄えていました。
配当の継続性と還元の厚さ
年間配当は2025年3月期・2026年3月期とも100円で、2027年3月期の会社予想も100円。2026年3月期は純利益が前期比で28.3%減ったにもかかわらず減配せず、250億円の自社株買い(IR BANK)も実施しました。
弱み
利益が市況・在庫評価に大きく左右される
営業利益は2022年3月期の約1,440億円から2023年3月期の約746億円へ、1年でほぼ半減しました(IR BANK、億円丸め)。前年同期の基礎素材は営業赤字(△34億円)で、チェーン事業全体でも5億円に過ぎませんでした。
資本の厚さがROEを押し下げる
自己資本比率は50%台後半と厚く、純利益416億円の2026年3月期はROE5.0%。純利益/経常利益は39.0%で、2025年3月期の56.3%より低い水準でした。この差の原因は今回確認した資料の範囲では特定できていません。
増益局面でも資金は出ていく
第1四半期はフリーCFが△196億円で、財務CF+316億円(借入増)で埋めた形です。有利子負債は2026年3月末の2,289億円から2,821億円へ増え、D/Eレシオは0.275倍から0.335倍に上昇しました。
3. 業績の推移
数値で確認する
| 決算期 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 純利益 | 営業CF | 自己資本比率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2022/03 | 92,000 | 144,000 | 160,500 | 107,900 | — | 65.2% |
| 2023/03 | 106,000 | 74,600 | 90,000 | 50,300 | — | 61.9% |
| 2024/03 | 101,000 | 79,800 | 95,900 | 57,300 | — | 61.6% |
| 2025/03 | 1,063,382 | 98,906 | 103,005 | 58,002 | 106,244 | 62.3% |
| 2026/03 | 1,019,917 | 95,532 | 106,752 | 41,615 | 114,556 | 59.0% |
| 2027/03会社予想 | 1,170,000 | 105,000 | 107,000 | 59,000 | — | — |
この表から読み取れることは4つあります。
1つ目は、売上高が1兆円台前半でほぼ横ばいで、利益だけが大きく動いていることです。 2025年3月期は10,633億円、2026年3月期は10,199億円(前期比△4.1%)、2027年3月期の会社予想は11,700億円(同+14.7%)です。売上高の動きに比べて、営業利益は2025年3月期が+23.9%、2026年3月期が△3.4%、会社予想が+9.9%と振れ幅が大きくなっています。市況品の比率が高い会社の典型的な形です。
2つ目は、2026年3月期は「経常利益は増えたのに純利益が減った」期だったことです。 営業利益955億円(前期比△3.4%)に対し、経常利益は1,067億円(同+3.6%)と増えました。営業外収支が+41億円から+112億円に膨らんだためです。一方、純利益は416億円(同△28.3%)で、純利益/経常利益は56.3%から39.0%に低下しました。この低下の要因は、今回確認した資料からは特定できていません。
3つ目は、2027年3月期の会社予想が「営業利益は増益、経常利益はほぼ横ばい、純利益は大幅増益」というねじれた形になっていることです。 営業利益は1,050億円(前期比+9.9%)に対し、経常利益は1,070億円(同+0.2%)です。前期は営業外収支が+112億円だったのに対し、予想は+20億円しか織り込んでいないためで、営業利益の増益分が営業外益の縮小で相殺される形になっています。そのうえで純利益は590億円(同+41.8%)と、前期に低下した純利益/経常利益が55.1%に戻る前提です。
4つ目は、2022年3月期以前との比較で、現在の利益水準は「ピーク後の平均的な水準」にあることです。 IR BANKの億円丸めの数字では、営業利益は2022年3月期の1,440億円がピークで、2023年3月期以降は746〜989億円のレンジです。今期の会社予想1,050億円は、そのレンジの上限をやや超える水準にあります。2022年3月期の売上高は「0.92兆円」の兆円丸めしか確認できておらず、表中の値は約値です。
4. 営業利益1.9倍のQ1は、在庫受払差を除いても続くのか
第1四半期の営業利益は前年同期から151億円増えました。この増益をどう読むかが、この記事の論点です。「ナフサが上がったから儲かった」という単純な話ではなく、増益の中身、通期予想の置き方、お金の裏付けの3層に分けて見ます。
層1:増益の中身 — セグメントで見ると、市況・在庫に寄っている
| セグメント | 売上高(前年同期→当期) | 営業利益(前年同期→当期) | 増減 |
|---|---|---|---|
| 基礎素材 | 1,117億円→1,248億円 | △34億円→57億円 | +90億円(会社説明) |
| 付加価値素材 | 376億円→429億円 | 39億円→82億円 | +43億円 |
| (チェーン事業 計) | 1,494億円→1,677億円 | 5億円→139億円 | +133億円 |
| バイオサイエンス | 154億円→154億円 | 46億円→57億円 | +11億円 |
| 高機能材料 | 301億円→343億円 | 25億円→32億円 | +7億円 |
| 水処理エンジニアリング | 378億円→420億円 | 72億円→66億円 | △6億円 |
| (先端事業 計) | 833億円→917億円 | 143億円→155億円 | +12億円 |
| その他 | 148億円(売上増+23億円) | 19億円 | +6億円 |
出典:決算短信P.2(億円丸め)。会社全体の営業利益増加151億円のうち、チェーン事業が133億円(約88%)、先端事業が12億円です。
会社の説明は、強気材料と弱気材料の両方を含んでいます。
- 強気材料: 付加価値素材では、エチレンアミンやクロロプレンゴムなどの出荷が増えたことに加え、在庫受払差が改善した、と会社は説明しています。基礎素材の売上高も1,117億円から1,248億円へ増えています。先端事業は市況の影響を受けにくい分野が中心で、バイオサイエンスと高機能材料は合わせて+18億円伸びています。
- 弱気材料: 基礎素材について、会社自身が「出荷が減少し、原燃料価格の上昇により交易条件が悪化したものの、在庫受払差が大きく改善したことにより」+90億円になった、と書いています。つまり実力部分である出荷と交易条件はむしろ悪化しており、増益は在庫評価が押し上げたと、会社が認めている構造です。在庫受払差の金額は短信に開示されていないため、この記事では推測値を書きません。
「在庫受払差」とは、原料価格が上がる局面では、安く仕入れた在庫を高くなった市況に連動した価格で売るため、一時的に利益が膨らむ効果を指します。価格が下がる局面では、この効果は逆向きに働きます。 ただし、どの程度の期間・どの評価方法でその効果が出るかは会社ごとに異なり、今回の資料では東ソーの評価方法の詳細を確認していません。
層2:予想の置き方 — 下期のナフサ前提は中間期より約26%低い
会社は5月13日の期初時点では通期予想を「未定」とし、8月4日に初めて開示しました。前提は次のとおりです。
| 項目 | 中間期(第2四半期累計) | 下期(第3・4四半期) |
|---|---|---|
| 国産ナフサ価格 | 104,250円 | 77,000円 |
| 為替 | 159.8円/米ドル | 160円/米ドル |
営業利益予想は、第2四半期累計が500億円、通期が1,050億円で、差し引きの下期は550億円です。第1四半期の311億83百万円は通期予想の29.7%で、中間期予想500億円に対しては、第2四半期単独で188億17百万円(第1四半期の約6割)が残る計算です。
- 強気に読む場合: 予想は、ナフサ価格が下期に約26%下がる前提を置いたうえで、それでも下期の営業利益を中間期より増える550億円(中間期500億円)に置いている。つまり会社は価格下落の逆風を織り込んだうえで増益を見込んでいる、と読める。
- 弱気に読む場合: 価格が下がる局面は在庫受払差が逆向きに働きうる局面でもある。その逆風が下期予想にどこまで織り込まれているかは、短信からは確認できない。第1四半期の増益が在庫要因に大きく寄っているなら、第2四半期単独188億円(第1四半期比で約4割減)という予想にも、下期550億円(中間期500億円より増える)という予想にも、「在庫要因が剥落した後の実力」をどう置いているかが示されていない。
どちらの読み方が正しいかは、会社が置いた下期ナフサ77,000円という前提と、実勢との差、そして中間決算で第2四半期単独の営業利益がいくらになるかで検証できます。
通期の経常利益が+0.2%にとどまる理由は、営業外収支の前提が小さいためです。経常利益と営業利益の差は、2025年3月期が+41億円、2026年3月期が+112億円(経常1,067億円-営業955億円)、2027年3月期予想が+20億円です。第1四半期の営業外収支は+31億円(前年同期△20億円)で、うち為替差益が17億円(前年同期は為替差損32億円)、持分法利益が9億円でした。支払利息は13億73百万円と、前年同期(8億19百万円)から約68%増えています。通期予想は、為替差益のような変動しやすい営業外益を織り込んでいない、と読むのが自然ですが、前期の営業外益の内訳は今回確認した資料の範囲では特定できていません。
層3:お金の裏付け — 利益は2倍でも、営業CFは+4億円
第1四半期のキャッシュ・フローは次のとおりです。
| 項目 | 当期(第1四半期累計) |
|---|---|
| 営業CF | +4億円(前年同期比362億円の収入減) |
| 投資CF | △200億円 |
| フリーCF | △196億円(前年同期比304億円の支出増) |
| 財務CF | +316億円(借入増) |
| 現金同等物 | 前期末比+136億円、1,902億円 |
短信は営業CFの減少を、売上債権・棚卸資産の増加と、法人税等の支払増によると説明しています。貸借対照表では、受取手形・売掛金及び契約資産が2,803億円から2,922億円へ(+119億円)、商品及び製品が1,484億円から1,559億円へ(+76億円)、仕掛品が160億円から197億円へ(+37億円)増えています。ナフサ価格の上昇で資産の金額そのものが膨らんだ側面もあり得ますが、短信は「売上債権及び棚卸資産の増加」としか書いておらず、数量増と単価上昇の内訳は開示されていません。
有利子負債(短期借入金+長期借入金)は、2026年3月末の2,289億円から2026年6月末の2,821億円へ+532億円増えました。内訳は短期借入金が1,447億円から1,861億円へ+414億円、長期借入金が842億円から960億円へ+118億円です。D/Eレシオ(有利子負債÷自己資本)は0.275倍から0.335倍(約0.34倍)に上昇し、自己資本比率は59.0%から57.3%に低下しました。 有形固定資産では、機械装置及び運搬具が1,266億円から1,699億円へ+432億円増える一方、建設仮勘定などを含む「その他」が2,278億円から1,950億円へ△328億円減っており、設備が完成して稼働区分に移ったとみられます。ただし、これがどの設備投資に当たるかは短信から特定できません。
- 強気に読む場合: 営業CFの減少の主因が運転資本の一時的な膨らみなら、売掛金が回収され、在庫が減る局面で資金は戻ってくる。D/Eレシオ0.34倍は絶対水準としては低く、自己資本比率57.3%は依然として厚い。
- 弱気に読む場合: 利益が約2倍になった四半期にフリーCFが△196億円で、借入で穴埋めしている。仮に増益の多くが在庫評価によるものなら、帳簿上の利益ほど現金が増えていない可能性がある(これも短信からは確認できない)。支払利息が約68%増えているのは、借入増と金利の両方の影響とみられるが、内訳は開示されていない。
3層をつなげると
増益の中身(層1)では、チェーン事業の増益の大半は在庫要因と出荷・交易条件の悪化の綱引きで、実力は先端事業の+12億円に表れています。予想の置き方(層2)は、価格下落局面の逆風を織り込んでいるかどうかが読み取れません。お金の裏付け(層3)は、第1四半期だけでは増益ほど強くありません。どれも「悪い」と断定できる材料ではなく、「中間決算で確かめられるまで保留」と整理するのが誠実な読み方です。
5. 配当の推移
| 決算期 | 期初予想 | 年間配当 | 期初比 | 配当性向 |
|---|---|---|---|---|
| 2022/03 | 60円 | 80円 | +20円 | 23.6% |
| 2023/03 | 80円 | 80円 | 0円 | 50.6% |
| 2024/03 | 80円 | 85円 | +5円 | 47.2% |
| 2025/03 | 85円 | 100円 | +15円 | 54.9% |
| 2026/03 | 100円 | 100円 | 0円 | 75.5% |
| 2027/03会社予想 | 100円 | 100円 | — | 52.2% |
- 2025/03:期初85円の予想から100円へ増額して着地。
- 2026/03:期初予想100円のまま着地(増配なし)。純利益が前期比△28.3%と減ったため、配当性向は前期の54.9%から75.5%に上昇。
- 2027/03:2027年3月期の配当予想は中間50円・期末50円・年間100円で、第1四半期決算でも修正なし。配当性向は通期予想EPS191.63円から算出。
配当の動きは3つあります。
1つ目は、期初予想が着地時に上振れる癖が、直近2期は途切れていることです。 2022年3月期は60円から80円、2024年3月期は80円から85円、2025年3月期は85円から100円へと、期初予想より増えて着地しました。一方、2023年3月期(80円)と2026年3月期(100円)は期初予想のまま着地しています。今期の会社予想100円は、前期実績と同額の据え置きです。
2つ目は、配当性向が前期に大きく上がったことです。 2025年3月期は54.9%(配当総額31,854百万円)でしたが、2026年3月期は利益の減少により75.5%(同31,188百万円)になりました。2027年3月期は、会社予想EPS191.63円に対して100円で52.2%です。この52.2%は、会社予想の純利益590億円に到達する前提で成り立つ数字です。前期並みの416億円にとどまる場合、配当総額が同程度なら、配当性向は前期と同じ水準(約75%)に戻る計算です。
3つ目は、自社株買いを含めた還元の厚さです。 IR BANKは2026年3月期に250億円の自社株買いを実施したとして、総還元額567億円・総還元性向135.6%と表示しています(二次情報)。期中平均株式数は、前年同期の318,507,711株から当期第1四半期の307,890,006株へ約3.3%減っています。株数が減ると1株当たり利益は押し上げられますが、利益が下振れた年は、この還元水準を続けるかどうかが論点になります。
予想配当利回り3.82%は、会社が開示した予想(年100円)ベースで、5月13日の決算時点から修正はありません。予想が前期実績と同額であるため、「前期実績を機械的に当てはめた数字」との食い違いはなく、利回りの信頼度は、会社予想の純利益(590億円)の実現可能性にかかっています。配当方針の文言(配当性向の目安など)は、今回確認した資料の範囲では特定できていません。
6. 会社の現状と直近の動き
直近の決算の分解
第1四半期の損益は、売上総利益が566億72百万円から746億24百万円へ+179億52百万円(+31.7%)、販売費及び一般管理費が405億93百万円から434億41百万円へ+28億48百万円(+7.0%)で、営業利益は+151億円(179億52百万円-28億48百万円)です。売上総利益率は23.1%から27.2%に上昇しました。営業利益率は6.6%から11.4%に上昇しています。
営業利益から純利益への流れは次のとおりです。
| 項目 | 前年同期 | 当期 |
|---|---|---|
| 営業利益 | 160億78百万円 | 311億83百万円 |
| 営業外収支 | △19億96百万円 | +31億19百万円 |
| 経常利益 | 140億82百万円 | 343億2百万円 |
| 税金等調整前 | 153億25百万円 | 331億75百万円 |
| 純利益(親会社株主帰属) | 65億29百万円 | 194億56百万円 |
営業外収支は為替差益16億65百万円(前年同期は為替差損31億88百万円)、持分法利益9億44百万円、支払利息13億73百万円(前年同期8億19百万円)などで、前年同期から約51億円のスイングになっています。経常利益の増加202億円のうち、営業利益の寄与が151億円、営業外収支の寄与が51億円です。営業利益の伸びを経常利益の伸び(+143.6%)が大きく上回ったのは、この為替の差益・差損の逆転が重なったためです。
特別損益では、固定資産除却損が11億24百万円(前年同期4億58百万円)、前年同期にあった投資有価証券売却益16億27百万円が当期はありません。法人税等は111億97百万円で、税金等調整前利益に対する負担率は約33.8%、非支配株主に帰属する利益が25億21百万円です。
財政状態
総資産は1兆4,089億円から1兆4,689億円へ+600億円、純資産は9,191億円から9,287億円へ+95億円でした。自己資本は8,317億円から8,411億円へ+94億円で、総資産の増加に対して自己資本の増加が小さく、自己資本比率が59.0%から57.3%に低下しました。負債合計は4,898億円から5,403億円へ+505億円で、その大半が有利子負債の増加です(第4節)。
前期(2026年3月期)の振り返り
2026年3月期は、営業利益が△3.4%、純利益が△28.3%と減益でしたが、営業CFは1,146億円と前期(1,062億円)より増え、現金は1,766億円に積み上がっていました。第1四半期の営業CF+4億円は、その「厚いキャッシュ創出力」からの変化として見るべき点です。
7. 業界とセクターの状況
化学メーカーに共通する、個社の努力では変えられない構造的な制約は次のとおりです。
原料価格と製品価格のずれが、利益を動かす。 原料価格の変動が製品価格に転嫁されるまでには数か月のずれがあるため、原料が急騰した期は在庫評価を含めて利益が動き、下落した期は逆に戻るという振れ方をします。今回の在庫受払差の改善は、まさにこの構造の表れです。会社の説明のとおり、ナフサ価格が上昇した局面で増益に働いたのですが、同じ構造は価格下落局面では逆向きに働きます。
市況品の比率が高いほど、利益の振れ幅が大きい。 エチレン・塩ビ・苛性ソーダなどの汎用品は、価格が市況で決まります。東ソーは売上の約6割がチェーン事業で、前年同期のチェーン事業の営業利益が5億円、当期が139億円と、1年で大きく動きました。これは個社の経営努力というより、構造として決まっている振れです。
為替の影響を受ける。 会社の前提は159.8〜160円/米ドルで、輸出採算と原料調達コストの両方に影響します。為替差損益は営業外に計上され、前年同期の為替差損31億88百万円から当期の為替差益16億65百万円へ反転しました。
設備が重く、投資判断が長期にわたる。 2026年3月期の投資CFは△721億円、第1四半期だけで△200億円です。需要見通しが外れると、減損や除却損といった特別損失が発生します。固定資産除却損は前年同期の4億58百万円から当期11億24百万円に増えています(理由は短信から特定できていません)。
半導体などの最終需要の動向。 高機能材料(石英ガラス・スパッタリングターゲットなど)は半導体関連の需要を受けますが、需要の強弱は半導体市況に連動します。
セクター全体の見方として、市況のピークではPERが低く、ボトムでは高く出ます。東ソーのPER13.67倍(会社予想ベース)は、予想純利益590億円が実現するかどうかに依存しており、2026年3月期の実績EPS132.40円で計算すると約19.8倍です。単年のPERで割安・割高を判断せず、複数年の利益水準(本記事の第3節)で見る必要があります。
8. 今後のスケジュール
2027年3月期 第2四半期(中間) 決算発表
通期予想は5月の期初時点では「未定」で、8月4日の第1四半期決算で初めて開示された。中間期の営業利益予想500億円に対する実績と、ナフサ前提の見直し有無を確認する最初の機会(日付は過去の発表時期からの推定)。
2027年3月期 第3四半期 決算発表
過去の発表時期からの推定
2027年3月期 通期 決算発表
過去の発表時期からの推定
2028年3月期 第1四半期 決算発表
過去の発表時期からの推定
9. 想定されるカタリスト
中間期の営業利益予想は500億円で、第1四半期の311億83百万円を引くと第2四半期単独は188億17百万円になる。第1四半期の約6割の水準で収まるかが、「在庫要因の剥落」を測る最初の材料。
前提より実勢が高止まりすれば原料コストは重くなる一方、価格が下がる局面では在庫評価の効き方が逆向きになりうる。どちらに転ぶかは、中間決算以降の説明で確認する必要がある。
配当予想(中間50円・期末50円)は第1四半期決算でも修正されていない。中間期の決算発表時に配当予想が維持されるかを確認する。
先端事業の営業利益は143億円から155億円へ+12億円。水処理エンジニアリングが前年の好採算プラント案件の反動で△6億円となる一方、高機能材料が+7億円、バイオサイエンスが+11億円。市況に左右されにくい部分の積み上がりが、増益の持続性を測る材料になる。
10. 想定されるリスク
在庫要因の反転リスク。 第1四半期の増益の主因が在庫受払差の改善であるなら、ナフサ価格の下落局面で逆向きに働きうるという構造は、リスクとして残ります。会社は下期のナフサを77,000円(中間期より約26%低い水準)と置いており、その前提どおりに価格が下がった場合に、在庫要因がどう働くかは、今回の資料から確認できません。
営業CFと運転資本のリスク。 利益が約2倍になった四半期に営業CFが+4億円、フリーCFが△196億円でした。売掛金・棚卸資産の増加が一時的なものでなければ、増益が現金化されにくい状態が続きます。
有利子負債とD/Eレシオの上昇。 有利子負債は2,289億円から2,821億円へ+532億円増え、D/Eレシオは0.275倍から0.335倍になりました。短期借入金が+414億円と大半を占めており、運転資本の膨らみに短期で対応した形とみられますが、使途は短信から特定できません。支払利息が前年同期の約1.7倍(8億19百万円→13億73百万円)になっている点も、借入が増えるほど利益を圧迫する要因です。
純利益の水準と、予想の達成難度。 通期純利益予想の590億円は前期比+41.8%で、前期に39.0%まで低下した純利益/経常利益が55.1%に戻る前提です。この低下要因が特定できていない以上、予想の達成にはその点の不確実性が残ります。
配当維持と還元のバランス。 2026年3月期は配当性向が75.5%まで上昇し、さらに250億円の自社株買いも実施しました。純利益が前期並みにとどまる場合は、配当性向が再び高くなります。
営業外益の変動。 為替差益は第1四半期の営業外収支を押し上げましたが、為替は円高方向に動けば逆に働きます。通期予想の営業外収支が+20億円と小さく置かれているのは、この変動を織り込んでいないと読めますが、前期との差の理由は資料から特定できていません。
先端事業の相対的な弱さ。 水処理エンジニアリングは、前年の好採算プラント案件の反動と人件費・IT費の増加で営業利益が△6億円でした。先端事業の+12億円は、チェーン事業の+133億円に対して小さく、市況が反転した場合の下支えとしては限定的な規模です。
11. まとめ:どう判断材料にするか
2027年3月期第1四半期の営業利益+93.9%は、数字だけを見れば大幅な増益です。ただし内訳を見ると、増加額の約88%をチェーン事業が占め、会社は在庫受払差の改善を主因に挙げています。同じ四半期に営業CFは+4億円、フリーCFは△196億円で、有利子負債は532億円増えました。通期予想は下期のナフサを77,000円(中間期より約26%低い)と置いたうえで、下期営業利益を中間期より増える550億円としています。
この増益を「市況と在庫評価の追い風が大きい」と見るなら、通期の営業利益1,050億円・純利益590億円という予想は、下期に在庫要因が逆風になる場合に届かないリスクがあります。 その場合、PER13.67倍や配当利回り3.82%は、予想が実現する前提に立った数字であり、割安とは言い切れません。一方で、「会社が下落局面の逆風を織り込んだうえで置いた予想」と見るなら、予想の保守性が相対的に評価でき、PBR0.96倍・D/Eレシオ0.34倍・自己資本比率57.3%という財務の余裕とあわせて、現在の水準は妥当、あるいは割安とも言えます。
判断の分かれ目は、第2四半期(中間期)の営業利益が、会社予想の500億円(第2四半期単独で約188億円)に届くか、そして下期のナフサ価格が前提の77,000円にどれだけ近づくかです。次の確認ポイントは2026年11月上旬(推定)の中間決算で、チェーン事業の営業利益が第1四半期の139億円からどの程度減るか、営業CFと有利子負債がどう動くかを合わせて見ることで、在庫要因の大きさと予想の置き方の妥当性を確かめることができます。
この記事の見立てが外れたと判断する条件
以下のいずれかが起きた場合、本記事の整理は前提から崩れます。買うかどうかを判断する際は、 強気材料と同じだけこちらも見てください。
- 2027年3月期第2四半期(中間)決算で、中間期の営業利益が予想の500億円を大きく下回り、第2四半期単独で100億円台前半以下にとどまった場合。第1四半期の増益が在庫受払差による一時的な押し上げだったとする見立てが裏付けられる一方、通期営業利益1,050億円の達成可能性は大きく揺らぐ。
- 同決算で、第1四半期に+90億円改善した基礎素材(営業利益57億円)が赤字に戻る、または付加価値素材(同82億円)が半減するなど、チェーン事業の営業利益が第1四半期(139億円)から急減した場合。この記事は「チェーン事業の増益の大半は市況・在庫要因」と整理しているため、その整理の確かさを測る数値になる。
- 逆に、ナフサ価格が会社前提(下期77,000円)を大きく下回る水準で推移したにもかかわらず、下期の営業利益が予想の550億円を上回って着地した場合。在庫要因で押し上げられた増益が市況の下落で剥落する、という見立てが誤りだったことになる。
- 有利子負債が3,000億円(D/Eレシオ目安0.35倍)を超えて増え続け、営業CFが2期連続で設備投資を賄えない場合、または第2四半期末で自己資本比率が55%を割り込んだ場合。第1四半期の借入増が一時的な運転資本の膨らみだとする見立てが外れ、財務の弱気材料が強まる。
- 配当予想の100円が引き下げられた、または第2四半期決算以降に自社株買いが打ち切られた場合。「配当の維持力」を軸にした記事の見方が前提から崩れる。
よくある質問
- 東ソーの配当は100株でいくらになりますか?いつもらえますか?
- 2027年3月期の会社予想は中間50円・期末50円の年間100円(第1四半期決算でも修正なし)なので、100株では年間10,000円(中間5,000円+期末5,000円)です。権利確定は9月末と3月末です。予想利回りは2026年10月5日時点の株価約2,619円で3.82%です。配当予想は会社の見込みで、将来の支払いを約束するものではありません。
- 東ソーの2027年3月期第1四半期で営業利益が約2倍になったのはなぜですか?
- 営業利益は前年同期の160億78百万円から311億83百万円へ+93.9%増えました。会社は、ナフサ価格の大幅上昇で在庫受払差が大きく改善したことと、付加価値素材・高機能材料の出荷増を理由に挙げています。増加額151億円のうち、基礎素材と付加価値素材の「チェーン事業」が133億円を占めます。ただし、在庫受払差そのものの金額は短信に開示されておらず、増益のうち何円が在庫要因かは特定できません。
- 東ソーの通期予想は第1四半期の好調を織り込んでいますか?
- 会社は5月の期初時点では通期予想を「未定」とし、8月4日に営業利益1,050億円(前期比+9.9%)などを初めて開示しました。第1四半期の営業利益311億83百万円は通期予想の29.7%にあたります。一方で経常利益は1,070億円(前期比+0.2%)にとどまり、営業外収支が前期の+112億円から+20億円に縮む前提になっています。前期の営業外益の内訳は今回確認した範囲では特定できていません。
参考文献・引用元
- 01東ソー株式会社「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」
2026年8月4日開示。1ページ目の連結経営成績・財政状態・配当の状況・通期および第2四半期累計の業績予想、P.2のセグメント別の説明、P.4のキャッシュ・フローの説明、四半期連結貸借対照表・損益計算書を参照。 / 2026/08/04 開示
- 02東ソー株式会社「2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」
2026年5月13日開示。1ページ目の2026年3月期・2025年3月期の連結経営成績・キャッシュ・フロー・BPS・自己資本比率・配当の状況を参照。 / 2026/05/13 開示
- 03IR BANK「東ソー(4042) 業績・配当」
二次情報。2022年3月期〜2024年3月期の通期業績(億円丸め。売上高は兆円丸めのため約値)、過年度の財政状態・有利子負債・自己資本比率、配当の期初予想と着地の履歴、自社株買い、2026年10月5日時点の予想配当利回り・ROE・ROAを参照。直近2期(2025年3月期・2026年3月期)は決算短信の実数を優先。